立派な魔王になる方法

・めぐめぐ・

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その後の話:花とお菓子と不審者と

第3話 出会い2

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「私を見て……、何も思わないのか?」

「何も思わないって、何をかしら?」

「いや、例えば……、かっこいいな、とか」

 彼の言葉にミディの手が止まった。ゆっくりと青年を振り返ったが、彼に向けるその表情は少し厳しい。

「はあ? あなた、何を言っているの?」

「いやいやいや!! はあ?じゃないだろう!! 女性なら、この私を見れば誰もが頬染め、恥じらいから視線を合わせる事すらできなくなるというのに!!」

「………え、何? あなたちょっと怖いのだけれど……」

 ミディの表情が、厳しさから得体の知れないものを見るそれに変わった。眉根を寄せ、訝しげに青年に対し感じた事をストレートに言葉にする。

 彼女の経験上、この手の自己愛強そうな奴は……、何かとやばい奴が多い。
 
 青年は、ずいっとミディに近寄った。
 恐怖に顔を引きつらせ、ミディは後ろに下がった。

 青年が近づく。
 ミディが後ろに下がる。

 それをしばらく繰り返していたが、背中に当たる壁の感覚に、ミディは自分が追い詰められたことを知った。青年を警戒していたばかりに、後ろがおろそかになってしまったのだろう。

 慌てて横に逃げようとしたが、青年による壁ドンによって、彼女は完全に追い詰められてしまった。

 小さく声を上げ、彼の腕に触れぬよう体制を正面に向けると、青年に向かって叫んだ。

「なっ、何なのあなた!! いい加減にしないと、人を呼ぶわよ!!」

 ミディが人を呼ぶという発言をするときは、まだ相手に情けを掛けている時だ。それ以上になると、問答無用で魔法がさく裂する。

 青年は威勢よくかみつく王女を、愛おしそうに見つめる。が、あらゆる女性たちを捕えたその熱っぽい視線も、ミディには効果が全くない。それどころか益々彼女の不信感を募らせ、美しい顔がむしろ苦痛に歪んでいる。

 青年は、息が掛かるほどの距離まで顔を近づけると、再度王女に問うた。

「……で、ここまでしても、私に何も思うところはないのか?」

 しかしミディの態度は全くぶれない。警戒感と不快感MAX、敵意すら向けて相手の問いを一蹴する。

「あなた、馬鹿じゃないの!? ちょっとジェネに似ている感じはするけれど……、もしかしてジェネの関係者か何か!?」

「……ジェネ?」

 ミディが使う魔王の愛称に、青年の表情が変わった。

「ジェネとは……、魔王の事か?」

「そうよ!! あなたも魔族なら知ってるでしょ!?」

「……君は私のこの容貌の前に、先ほどからずっと、魔王と似てるなど思っていたのか?」
 
「だっ、だったら何よ!! 悪い!?」

 青年の言葉に何故か恥ずかしさを感じ、ミディは両目をぎゅっと瞑って叫んだ。

“なっ、何よ!? まるで私がいつもジェネの事を考えているみたいな言い方じゃない!”

 そんな事を考えていた為、彼女の顔に不自然な赤みがさしている。だが、恥ずかしさを抑えるのに必死のミディには、自分の表情にまで意識を向ける余裕はない。
 
 ちなみに青年は、解せぬと顔に書いた状態で、ミディの様子を見ている。
 今まで自分の魅力に全く動じる事のなかった王女が、魔王の事を出した瞬間、ぐっらぐらに感情が揺れ動いているのだ。ミディが強いのか弱いのか、良く分からない。

 しかしすぐさま表情を戻すと、腕を壁から離し身体を少し後ろに引いた。そして小さく笑いを浮かべ、ミディが持つ花かごから一輪の花を抜くと、彼女の前にそれを差し出した。

「まあいい。すぐに落ちるようでは面白くない。君の心は必ず私が射止めて見せよう」

 悪戯を楽しむかのように、どこか子どもっぽい笑みを浮かべ、黒髪の青年が宣言した。先ほどまでの美貌を強調するかのような笑みではなく、少し幼く可愛らしい表情のギャップに、様々な女性たちがオチた事だろう。

 しかし、ギャップ? 何それ、美味しいの? とばかりに全く反応を示さないミディは、非常に、非常に厳しく冷たい視線を彼に向けて言った。

 彼を見る視線はもはや……、相手を見下し、汚物を見るかのような冷ややかなものだ。めっちゃ怖い。

「……どうでもいいけれど、その花は返しなさい。私の物だから」

 ぴっと素早い動きで花を奪還すると、花かごの仲間たちの中に戻してあげた。花を戻す彼女には、青年に欠片も与える事のない慈悲と憐れみが向けられている。

目の前の奴には厳しいが、花には優しい。

 そして、彼女の発言と行動に固まる青年の横を通り過ぎる時、怒りに満ちた声で警告した。

「今回は見逃してあげるわ。でも、今後同じような事をしたら……、魔法で吹き飛ばすわ」

 怒りに満ちる彼女にしては、あまりにも寛大すぎる対応だった。振り返る事もしないその後ろ姿には、怒りのオーラが滲み出している。

 容赦ない塩対応。

 いつも女性に近づいては、キャーキャー言われるか、恥じらいに身を震わせるか、それに類似した反応しか経験した事のないこの青年にとって、ミディの塩対応は未知なる体験だった。

 それに、いつも相手を魅了する立場にある自分が、王女に魅了されたのだ。
 屈辱、いや、それを超えて楽しくすらある。

「さすが四大精霊の祝福を受けし王女……。一筋縄ではいかないという事か……」

 誰もいなくなった庭園で、一人青年は楽しそうに笑っていた。
 しかし、彼は知らなかった。

 彼女が彼に靡かなかったのは、別に四大精霊の祝福もなにも関係なく、ただミディの個人的好みによるものでしかなかったことを。
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