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第十二話 花嫁の務め(一)
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「ねぇ、憂夜は?」
いつもなら庭で盆栽の手入れをしている時間なのに、全く姿を見せていなくて秋葉は不思議に思った。
二人で皇都へ遊びに行って以来、どこかに出かけるときは必ず声をかけてくれるのに、今日は一言もない。
「あぁ~……」
瑞雪は茜色の目を彷徨わせながら、次の言葉を考える。
(あれって、言っていいんだっけ? ご主人様の奥様だし、喋っても大丈夫だよね~? 口止めされてないし。
……いや、言えって聞いてないから言うなってこと?)
「どうしたの?」
落ち着かない態度の瑞雪に、秋葉は目を眇めた。彼女の中にある『勘』という実態のないものがぴくりと反応する。なんだか、怪しい。
「ねぇ、何か隠してる?」と、秋葉は少しだけ強い口調で尋ねた。
「い、いえ……。私は……そんな――」
瑞雪はしどろもどろに答える。目は泳ぎまくって、胸に手をあてて短く息を吐いて……完全に挙動不審な怪しい妖だった。
「黒龍様はね、『黒龍の祠』に行っているよ!」
「あっ! シロ!」
その時、秋葉の背中からぴょこんと白銀が顔を出して、元気よく言った。
瑞雪は「あちゃ~」っと青ざめた顔を両手で覆う。
「黒龍の祠?」と、秋葉は首を傾げる。
「うん! 黒龍の祠はね、黒龍様の力をぶわーって出すところなんだ!」
爛々と瞳が輝かせて、ご主人様を自慢するみたいに弾む声で答える白銀。その横で瑞雪は、まだおよおよと目を泳がせていた。
「どういうこと?」
秋葉は敢えて瑞雪に尋ねてみる。これは絶対になにかを隠している。彼女は幸いにも嘘がつけない性格みたいだし、ここは吐かせてしまえ!
瑞雪は少しの間だけ戸惑う素振りをみせたが、
「実は、龍神の務めとして――……」
いつもなら庭で盆栽の手入れをしている時間なのに、全く姿を見せていなくて秋葉は不思議に思った。
二人で皇都へ遊びに行って以来、どこかに出かけるときは必ず声をかけてくれるのに、今日は一言もない。
「あぁ~……」
瑞雪は茜色の目を彷徨わせながら、次の言葉を考える。
(あれって、言っていいんだっけ? ご主人様の奥様だし、喋っても大丈夫だよね~? 口止めされてないし。
……いや、言えって聞いてないから言うなってこと?)
「どうしたの?」
落ち着かない態度の瑞雪に、秋葉は目を眇めた。彼女の中にある『勘』という実態のないものがぴくりと反応する。なんだか、怪しい。
「ねぇ、何か隠してる?」と、秋葉は少しだけ強い口調で尋ねた。
「い、いえ……。私は……そんな――」
瑞雪はしどろもどろに答える。目は泳ぎまくって、胸に手をあてて短く息を吐いて……完全に挙動不審な怪しい妖だった。
「黒龍様はね、『黒龍の祠』に行っているよ!」
「あっ! シロ!」
その時、秋葉の背中からぴょこんと白銀が顔を出して、元気よく言った。
瑞雪は「あちゃ~」っと青ざめた顔を両手で覆う。
「黒龍の祠?」と、秋葉は首を傾げる。
「うん! 黒龍の祠はね、黒龍様の力をぶわーって出すところなんだ!」
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「どういうこと?」
秋葉は敢えて瑞雪に尋ねてみる。これは絶対になにかを隠している。彼女は幸いにも嘘がつけない性格みたいだし、ここは吐かせてしまえ!
瑞雪は少しの間だけ戸惑う素振りをみせたが、
「実は、龍神の務めとして――……」
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