【完結】ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜

あまぞらりゅう

文字の大きさ
78 / 88
第三章 クロエは振り子を二度揺らす

78 もう一度

しおりを挟む
 ユリウスからは、時間の魔法に関する様々なことを教わった。

 それによって、クロエの操る魔法は更に磨きがかかった。
 彼女は聖女の務めと並行して、貪り食うように時間の魔法の研究と修行を進めていったのだった。

 彼女が特に興味を持ったのは、時間軸の移動だった。

 ユリウスの話によると、時を司るアストラ家の末裔は時間を移動できるらしいのだが、その原理は未だに不明だと言う。過去の文献をあたっても、はっきりとしたことは分かっていなかった。

 確かなのは、過去へ遡った人物は、なにかしらの「強い想い」があったこと。
 それにプラスして、一族の中でも高い魔力と、他になんらかの外部からの力が奇跡的に重なって、時間の逆行が可能になるようだった。

 クロエの母親は、おそらく一度、過去へと遡っている。
 それは彼女の記憶にある母の瞳が証明していた。

 アストラ家の血を引く者は、片方の瞳の色素が若干薄くなる。彼らは生まれたときから左目が薄色のオッドアイで、時間軸を移動した際に位置が入れ替わるそうだ。

 クロエが時を巻き戻したことにより、ユリウスの瞳の色は位置が変わっていた。
 そして母は、物心つく頃には既に逆位置になっていたのだ。

 これは、きっと母は既に一度逆行したに違いない。
 だが、その理由や方法も、まるで見当がつかなかった。


 母は、父との政略結婚によって、かなり不遇な目に遭っていた。
 子を産むだけの道具にされ、生んだ子供に魔力がないと分かると、途端に冷遇された。
 夫は外に女を作って、本妻と実子はずっと放置されていたのだ。

 それはとても辛い境遇だと、クロエは思った。
 こんなの、自分なら耐えられない。

 しかし、それでも母はパリステラ家にいて、いつも自分に微笑みかけてくれていた。
 仮に逆行したとして、もう一度こんな辛い生活を味わいたいと思うだろうか。自分だったら絶対に嫌だ。

(もし私がお母様で、もし時を遡れるのなら、再びお父様と結婚の道は選ばないでしょうね……)

 そうなると、母はパリステラ家の境遇以上に過去に辛い目に遭ってきた経験がある……と考えるのが妥当だろう。
 きっと、あの薄遇以上の出来事が、母に起きたのだ。

 それで時間軸を戻って、やり直して、

(また父と結婚した……?)

 考えれば考えるほど不可解だった。
 母の意図が、全く見えない。


 そこでクロエは、母の実家について調べることにした。
 だが、既に生家は断絶。母の両親も嫡男である弟も、事故で死亡。屋敷も潰されて、なにも残っていなかった。
 それは帝国の皇子が調査しても、少しの手掛かりも見つからなかったのだった。

 しかし、一つだけ残ったものがあることにクロエは気付いた。

 それは、母から娘に託されたペンデュラムのペンダントだ。
 母は「代々伝わる宝石」だと言っていた。そして、母の家門の人々の魔力が詰まっている、とも。

 早速ユリウスに調べてもらったら、太古の魔石に時の魔導士たちの魔力が蓄積されているものだと分かった。
 彼も、母から託された同じような指輪を持っているらしい。しかし、それはクロエの持つペンデュラムほどの大きな魔力は内包されていないようだった。

 やはり母は、このペンデュラムを利用して、時を逆行したのだと確信した。
 その条件を見つけようと、クロエは必死になって研究を続けた。

 全てを終わらせて……母に今度こそ幸せになってもらうために。




 あの日以来、クロエとユリウスは会っていない。
 彼は何度かパリステラ家に赴いたのだが、彼女は面会を拒否していた。

 きっと、彼の顔を見たら気持ちが揺らぐかもしれない。そう思うと、会うのが怖かった。
 彼女は聖女の仕事のときも、過剰に護衛を付けて彼を近付けさせないようにしていた。


 帝国の皇子の権力を行使したら、小国の侯爵家の脆い盾なんて簡単に破壊できるだろうが、ユリウスは無理に動こうとしなかった。

 彼は、クロエの気持ちを優先したかったからだ。

 復讐はまだ残っている。それを強引に止めるのは、却って彼女のささくれ立った心をもっと荒らすのではないかと危惧したのだ。
 なにより、これ以上彼女を刺激して、苦しめたくなかった。


 そして……怖かった。




◆◆◆




「お父様、具合はいかがですか?」

「おぉ、クロエか。済まないな……」

「いいえ。早く元気になってください。お食事をお持ちしましたわ」

 ロバートは、クリスとコートニーの脱走以来、日に日に心が荒んでいっていて、最近は健康を害して床に臥すことが多くなった。

 もはや王都にはパリステラ家の居場所なんてどこにもなかった。
 魔法大会の不正、闇魔法の使用……そして、脱獄。王家からの家門の信頼は地に堕ちて、今では下級貴族以下だ。
 なによりも魔力を重んじる彼にとって、家門から出た魔法に関する醜聞は屈辱だった。



「……まだ、挽回はできます」

 クロエは、そんな苦悶する父を励ますように、力を込めて言う。

「挽回なんて……」と、ロバートは自嘲する。
 もう全てが後の祭りだった。いずれ来る家門の降格や……最悪、取り潰しの話を待つだけだ。

 娘はすっと姿勢を正してから、

「お父様、私たちはまだ侯爵家の身分です。高位貴族なのです。ですので、半月後の建国祭の儀式への出席が叶いますわ。そこで、見せ付けてやるのです。パリステラ家の国家への忠誠と……魔力を!」

 凛とした声で言った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜

ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。 しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。 生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。 それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。 幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。 「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」 初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。 そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。 これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。 これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。 ☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!

aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。 そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。 それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。 淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。 古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。 知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。 これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。

処理中です...