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しおりを挟む「手荒な真似をして悪かった。だが私は、君ほどの令嬢が待たされるのはおかしいと常々思っていたのだ」
「わたくしは……王太子殿下を待つことは当然のことだと思っておりますわ」
シャルロッテは反論するが、すっかり意気消沈して俯きがちになっていた。
さっきの光景が、あまりにも衝撃的すぎた。それは徐々に鋭利な刃となり、彼女の胸に深く刺さっていく。
(エドゥアルト様は、わたくしのことを犬のようだと思っていたのね……)
ローゼの犬の鳴き真似が頭の中に響く。動揺で思考が回らなくなり、溺れたように息ができなくて苦しかった。動悸が激しく打って、ガタガタと震えが止まらなかった。
アルトゥールはそんな彼女をしばし介抱してから、
「時間は君の命そのものだ。それを蔑ろにする者に、尊い生命を捧げる必要はない」
「それは……!」
これまで考えてもみなかった意見に、彼女は弾かれるようにはっと顔を上げる。
たしかに彼の言う通りだ。自分は今、エドゥアルトに生きている『時間』を与えているのと同じである。
でも、それは。
「高貴なる方に命を捧げるのは、貴族として光栄なことですわ」
だって、子供の時から王太子殿下に尽くすように言われているから……。
彼のために生きて、彼のために死ぬのは至極当然のことなのだ。
「ならば、見方を変えよう。高貴なる者は時間を守る義務がある。僅かでも遅れれば、周囲に多大なる迷惑をかける。
現に君は、エドゥアルト王太子の遅刻癖に連鎖して王宮の者たちを待たせているではないか。それは、君も相手の命を軽んじているのと同義だな」
「ちっ……違います! わたくしは、王宮の方々のことをそのようになど思っておりませんわ!」
そうは言ったものの、彼の言うことは正論に違いなく、彼女は羞恥心で顔を赤らめた。
自分もお妃教育の講師や王宮の関係者たちを毎日待たせている。わざわざ時間を割いて、自分のために準備をしてくれいてる彼らのスケジュールを乱しているのは事実だ。
「私は生まれながらに皇族なので、いずれ王族になる令嬢に、先輩としてアドバイスをやろう。
まずは王族は時間厳守だ。一分一秒たりとも遅れてはならないし、その逆もいけない。……ま、これは既に身に沁みているようだな」
「はい……」
「よろしい。では、もう一つ。王が誤った道へ進もうとしたら、止められるのは配偶者だけだぞ。いくら忠臣といっても身分の差は明確にあるからな。王の隣に立てるのは、王妃だけだ」
「えっ……!」
想定外のアドバイスに驚きを隠せずに、彼女は大きく目を見開いて息を呑んだ。
そんなこと考えてもみなかった。幼い頃から「王太子殿下をお支えしなさい」とは何度も聞かされてきたから、そんな出しゃばった真似をするなんて恐れ多いことを……。
いろんな情報ですっかり頭が混乱して視線が定まっていない彼女を見て、彼はふっと目を細めた。
「それから最後に一つ。王太子妃として離縁するよりも、令嬢が婚約破棄するほうが容易だし傷は浅いと思うぞ」
「っ……!」
またしてもこれまで考えたこともない過激な意見に、シャルロッテはドキリと脈が跳ねた。
一瞬だけ王太子のいない未来を想像しかけたが、幼い頃からの王太子妃教育の記憶がそれを塞いだ。
しかし、彼女自身の『王太子妃としての在り方』は、僅かだが変化が起こった。
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