【短編】『待つ女』をやめたら、『追われる女』になりました

あまぞらりゅう

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 王太子の誕生日パーティー。
 エドゥアルトは、約束の時間に現れなかった。

 シャルロッテは王太子妃教育の一貫でパーティーの主催を任されていたので、このまま一人ぼうっと彼を待つことなどできなかった。
 主役は来ないが、貴族たちは揃っている。それに今夜は、政治に影響を持つ大貴族も多かった。

 本来は貴族たちが王太子へ祝いの言葉を述べるのが先だが、待っていても仕方がないので、彼が登場するまで音楽やダンス、そして料理を楽しんでもらうことにした。

 エドゥアルトの代わりに彼女一人で高位貴族たちへ挨拶回りをした。
 王太子の不在を不審に思う貴族もいたが、どこからかアルトゥール皇太子が颯爽と現れて彼女をフォローしてくれた。
 貴族たちは王太子よりもさらに身分の高い帝国の皇太子との会話の機会に満足しており、彼女は大いに彼に感謝した。

 しかし、時間は過ぎていく。そろそろ国王夫妻の到着の時間だ。
 さすがにその時に王太子が不在なのは不味いとシャルロッテが焦っていると、

「王太子殿下のご到着です」

 正装姿のエドゥアルトと、彼と色を合わせたドレスを着たローゼが腕を組んで入場してきた。

 その日、シャルロッテはコーラルピンクのドレス。ローゼはベビーピンクのドレスを着ていた。

 そしてエドゥアルトは、白を基調にローズピンクの差し色の服装だ。
 それは婚約者の衣装に合わせたようにも見えるが、オレンジ味の含まれたシャルロッテではなく、ローゼのドレスを濃くしたような色味だった。
 なによりも、外国語でローズはローゼと同じ意味である。

 楽しげに見つめ合う二人の姿を見て、シャルロッテの中でなにかが崩れていく気がした。



 パーティーは無事に終わった。
 エドゥアルトからは「正確な時間を伝えなかったお前が悪い」と叱責されたが、近くにいたアルトゥールが「確認を怠ったお前が悪い」と言い返してくれて、シャルロッテは少しだけ溜飲が下がった。

 王太子の遅刻以外はなにもかも完璧で、シャルロッテは周囲から称賛された。

 だが、いくら褒められても彼女の心はぽっかりと穴が空いたままだった。
 虚しくて、悔しくて。でも、苦しい胸の内を誰にも言えなくて……。


 それからシャルロッテは、またいつもの生活に戻っていった。
 エドゥアルトとの待ち合わせ時間が来たら、一人で王城へ向かう日々。淡々と、同じことの繰り返しだ。

 しかし、ただ一つこれまでとは違うことがあった。
 彼女は王太子との婚約破棄に向けて、彼の不貞や、王太子としての責務を果たしていない証拠を密かに集めはじめた。

 シャルロッテは、ついに決心したのだ。

 エドゥアルトが変わってくれるのを『待つ』のを止めた。
 もう彼との明るい未来を『待つ』のを止めた。


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