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「皆様、ようこそお集まりくださいました~っ!!」
数ヶ月振りに父が戦地から戻った日、ローゼが「大事な話がある」と家族と姉の婚約者を招集した。
何も知らない父はニコニコと穏やかに笑っていて、母と妹はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべていた。
アルベルトは決してディアナを見ようともせず、ディアナは澄まし顔で会に参加していた。
ローゼはもったいぶるように大きく息を吸ってから、
「実はあたし、妊娠しました~! アル様の子ですっ!!」
ぴょんと跳ねて、アルベルトの腕に絡みついた。
「なっ……!?」
父は目を白黒させ、しばらくのあいだ硬直する。
母は事前に知らされていたようで、満足げに頷いていた。
「だからぁ~、アル様とはお姉様じゃなくてぇ~~、あたしが結婚しま~っす!」
「もちろんクシュタル家は二人に継いでもらうわ。跡取りも出来たし、当然よね」
「お姉様は別の相手を見つけて出て行ってね! ま、見つかるといいけどぉ~?」
「お前たちは何を言っているんだっ!!」
母娘のあまりにも身勝手な主張に、父は怒りで顔を真っ赤にさせながら怒鳴り付ける。
しかし、二人とも勝ち誇ったように当主の言葉を跳ねのけた。
「でも、格上の侯爵家相手に婚約破棄だなんて出来ないわ。姉妹で婚約者を入れ替えるだけだから、丸く収まるわよ」
「そうよ! アルベルト様はおブスなお姉様なんかより、あたしのほうがいいってぇ~~」
妹は姉に不貞が見つかって以来、ある陰謀を進めていた。
婚約者を姉から奪う計画だ。
家門には妹が居座り、うるさくて邪魔な姉を老貴族の後妻にでもやって追い出そうと考えていた。
アルベルトもローゼの顔のほうが好みだったし、いざ結婚するとなると、真面目で細かい姉よりも何も分からない妹のほうが好きにやれると考えたのだ。
こうして二人は、既成事実を作り上げるためにせっせと子作りに励んだ。長女を疎ましく思っていた母も賛成して、二人を応援した。
「こんな非常識なことが許されるわけがないだろうっ!?」
「なによ。いつも仕事で屋敷を留守にしているあなたに言われたくないわ」
「っ……」
「別にいいわよ」
そのとき、ディアナが明るい声で言い放った。
当事者なのに、この場にそぐわない穏やかな態度に全員が驚き彼女を見る。姉の泣き喚く姿を見たかった妹は、少し不服そうにしていた。
「あら、お姉様。婚約者に捨てられた負け惜しみかしら?」
「私は二人の婚姻を祝福するわ」
「あらぁ~」母は勝ち誇ったように上機嫌で言う。「じゃあ、家門を継ぐのもローゼたちで構わないのね?」
「それも構わないけど……」
ディアナはわざとらしく一拍考える素振りを見せてから、
「平民の血が入ったら、爵位を返上しないといけなくなるかもね」
ニヤリと不敵に笑った。
沈黙が落ちる。
ただ目を白黒させる父と、顔を真っ青にさせる母。
それを見て、ディアナは確信して、懐から一通の封筒を出した。
「これは……王家の紋章印ではないか!」
「こちらは、ハインリヒ第二王子殿下からいただいたものです」
そう言って彼女はゆっくりと封筒の中身を開ける。たちまち底冷えするような緊張感が広がった。
「王家に伝わる、親子鑑定の魔法ですわ」
誰かがゴクリと大きく唾を飲み込む音がした。
「王家では過去に王妃の『托卵事件』が起こって以来、必ず親子鑑定を義務付けているのです」
ディアナが鑑定書を父に手渡ししようとすると、
「止めなさい!」
母が彼女の手を弾いた。
「いたっ……」
「そのようなことをやらなくとも、ローゼのお腹の子はアルベルト侯爵令息の子供です! いくら自分に魅力がなくて婚約者を寝取られたからって、惨めな真似はお止めなさい! みっともない!」
ディアナは母を一瞥して、おもむろに床に落ちた鑑定書を取り上げた。
「お母様、王家にいただいた書類をはたき落とすなんていけませんよ。――というか、お母様は別の心配をされているのでは?」
「なっ……」
母はもう一度娘から鑑定書を取り上げようとするが、ディアナはそれよりも早く父に手渡した。
「これは、お父様とローゼの『非』親子関係を証明するものです。そして、二枚目はローゼととある歌劇俳優の親子関係の証明ですわ」
「嘘よっ!!」
母の金切り声が響く。
「ど、どういうことですか、お姉様!? お母様!?」
さっきまで勝利を確信していた妹は、打って変わって動転した様子だ。
「どうもこうも、あなたはお父様の子供ではないの。お母様と平民が不貞をして出来た子なの」
「ディアナ! 出鱈目なことを言わないでちょうだい!」
「王家の紋章入りなのに、出鱈目なはずないでしょう? ローゼは平民の子供なの」
「そんなことないもんっ! あたしは伯爵令嬢だもん! お姉様の嘘つき!」
「これは陰謀よっ! ディアナが婚約者を奪われた腹いせに――」
「もう、いい。黙れ」
父の重々しい声が響く。
見ると、これまでに見たこともない恐ろしい顔をした伯爵家の当主が鎮座していた。
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