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第一章
第二話 留学生
しおりを挟む「留学生?」
「ああ、留学生がA組に来たらしい」
昼休み。どこからか情報を仕入れてきた晴人が言った。俺たちはいつもの場所、校庭の隅のベンチとテーブルが揃っている東屋へ向かっている。
「でも今どき留学生なんか珍しくもないだろう。この間も惑星ティリアリスからローデン君が来ただろう?」
別惑星の凄まじい美形の少年に女子達が色めきだったのを思い出す。
「そうなんだけどさ」
晴人は俺に顔を近づけると小さな声で、
「可愛い女の子らしい」
「マジか」
そうなると話が変わる。可愛い女の子の留学生となれば、男子にとっては一大イベントとなる。
「A組ったら可奈ちゃんのクラスだろ?いろいろ聞き込みたい」
D組の俺たちと可奈子はクラスが違う。しかも可奈子はクラス委員長なのでより情報は得られるかもしれない。
「そうだな。今日もいつもの場所に来るだろうから、聞いてみるか」
基本的に俺たちは三人で昼休みを過ごしている事が多い。可奈子もクラスに友人もいるはずだが、律儀に付き合ってくれる。晴人は「俺、邪魔か?」などと言って来るが、よく意味がわからない。
そうして俺たちは校庭の隅の東屋に着く。天気がいい時はいつもここにいる。新緑の木々の香りが風に運ばれてくる。
爽やかな風にうとうとしていると、いつもより少し遅れて可奈子がやって来た。留学生を連れて。
「何か、教室だと騒がれてお弁当が食べられないみたいで」
可奈子がそう言って連れてきた留学生は、
「とんでもなく可愛い子だな」
晴人が思わず呟くほどの美少女だった。
すこし青みがかった銀髪に、少し垂れた深い海のようなエメラルドグリーンの瞳。曇りのない白い肌。
「天使ってこんな感じかな」
惚けたように晴人が呟く。
「こんにちわ」
留学生はそう言って俺たちに笑顔を見せる。混じりっけのない、笑顔を具現化したような笑顔。いや、自分でも言ってる意味がわからない。
「こ、こんにちは。俺、長月晴人です」
立ち上がって晴人が言う。ん?珍しく緊張しているのか?
「こんにちわ。私はクリオナです。惑星セレストから来ました」
にっこり以外に表現しようのない笑顔。それを見て晴人は顔を赤くする。
ほう。晴人がこんな反応するとは珍しい。
そんな事を思っていると、可奈子が肘で俺をつついて来た。
俺の耳元で、
「晴人、気に入ったのかな」
「どう見てもそうだな」
「珍しいね」
「うん」
可奈子も俺と同じ意見らしい。晴人はどちらかと言うと女子にはモテる方で、時折告白される話も聞く。だが、特定の彼女は作っておらず、基本的に告白は断っているらしい。
そんな晴人の反応はある意味新鮮だった。
「じゃあ、お弁当を食べようか」
少し緊張してるのか?
硬くなっている様子の晴人がベンチに座る。隣にクリオナ。向いに俺と可奈子が座る。
晴人は菓子パンを二つ、クリオナは売店で購入したであろうランチボックス。俺と可奈子は、
「あら?同じですか?」
色違いの弁当箱、内容は同じ二つの弁当を眺めながら、クリオナが言う。
「お二人は恋人同士なんですね」
「ちょっと飛躍しすぎ」
「可奈子に作ってもらってるだけだよ」
慌てて否定する俺と可奈子。変な誤解されると困る。
「やっぱり分かるよね。皆んな」
晴人がなぜか満足そう。
「私たちはそんなんじゃないから。誤解しないでね」
「そうそう。俺たちはただの幼馴染み」
「って、いつも言い訳してるんだ、この二人は」
「はあ。二人はお似合いだと思ったのですが」
「多分二人以外はそう思ってるんだよな」
よく分からない事を言うな、晴人は。
俺はそう思いながら可奈子の手作り弁当を食べる。いつものように揚げ物の少ない、野菜多めのバランスの取れた弁当だ。
「そう言えば、いつからだったかな。可奈子が弁当作るようになったの」
言いながらピーマンの肉詰めを口に入れる。しょっぱすぎない優しい味付け。
「ママが死んじゃった時かな」
可奈子が遠い目をする。可奈子が高校に入学した頃、可奈子の母親は病気で亡くなった。元々そんなに体が強かった方ではなかったらしく、可奈子が高校に入学したのを見届けると、静かに息を引き取った。
その時可奈子は一晩中泣いていて、一晩中俺が隣にいた。俺には何も出来ないし、何も言ってやれない。ただ、そばにいただけ。
それは、可奈子の母親である美沙子さんに俺が最期に言った言葉のためでもある。
『可奈子をよろしくね』
今では平然としているが、当時は葛藤があったんだと思う。でもそれ以来可奈子が泣いている姿は見たことがない。
そんな事もあるので、可奈子が弁当を作ったと言えば食べない訳にはいかない。
「一人分のお弁当の分量が分からなかったから、二人分作っちゃっただけよ」
「あの時は急に弁当持って来るからびっくりしたな。母さんの弁当もあったから、二つ食べる羽目になったし」
しばらく二つ弁当を食べる生活が続いた後、俺の母親が引き下がって可奈子の弁当を食べる生活が続いている。
「そうですか」
俺と可奈子の話を聞いていたクリオナが目を丸くしている。いつの間にかランチボックスが半分ほどになっている。
「やはりお二人は恋人同士なのですね」
「なんでそうなるのよ」
「ただの幼馴染みだって」
クリオナがぽかんとしている。
「幼馴染み、と言う関係がわかりません。友達や恋人と何が違うのですか?」
「そう言われると・・・」
「何なんだろうな」
可奈子と顔を見合わせる。友達とも恋人とも、兄弟とも違う。あまり考えたことがなかった。
「俺が思うに」
菓子パンを食べ終わった晴人が口を挟む。
「友達以上恋人未満って奴かな。それでいて、恋人までの距離が遠い」
「あんまりピンとこないな」
「洸平と可奈ちゃんを見てると、友達以上、恋人以上、家族未満って感じもするが」
「もっとわからん」
「とにかく、仲がいいって事ですね」
クリオナが完璧な笑顔で下した結論。もうそれでいいと思う。
「でも洸平、気をつけろよ」
晴人が可奈子に聞かれないように声を潜めて言って来る。
「可奈ちゃんは密かに人気だからな。いろんな奴が狙ってると聞く。あんまり洸平が恋人じゃないとか何でもないとか言ってると、そんな奴らが安心して可奈ちゃんを落としに来るかもしれん」
「そうなのか?」
「ああ、手を繋いで登校するような仲の良さを見せつけられたら、その間に入り込もうって奴なんかいないだろうけど」
「今日手を繋いでたのはたまたまで」
「とにかく、可奈ちゃんを誰にも渡したくないなら」
「それはちょっと語弊があるな」
「あまり幼馴染みを強調しない方がいいと思うぞ」
うーん。やっぱりよく分からない。男避けになってるって事か?
「何を二人でこそこそ話してるの?」
「洸平さんと晴人さんも仲がいいんですね」
弁当を食べ終わった二人がこっちを見ている。
「洸平が、可奈ちゃんを独り占めしたいって言うからさ」
「そんな事言ってないだろ!」
「へー、そんな事思ってるんだ」
にやにやする可奈子。くそっ、二人してからかいやがって。
「と言う訳だから、今度の日曜日にデートしよう」
「どう言う訳だよ」
弁当を食べ終え、暑くなり始めた六月の陽光を浴びていると、唐突に晴人が言った。
「洸平と可奈ちゃんのデートに、俺とクリオナが付き合ってやろうって言ってるんだよ」
「私もですか?」
「晴人がクリオナとデートしたいだけじゃないの?」
どう考えてもそっちだろう。
晴人は腰に手を当てて胸を張り、
「そうとも言える」
「俺たちをだしに使うなよ」
「だったら、クリオナがこの街に慣れるために案内するって言う名目で」
素直に誘えばいいのに。
「いいですよ」
クリオナは太陽のような笑顔を見せる。
「この街を案内してもらいたいです。それに、皆さんと仲良くなりたいです」
その返事を聞いて晴人が密かに拳を握る。
「いいのか?」
俺は可奈子に尋ねる。今日来たばかりの留学生を連れ出す事に、学級委員の可奈子は何を思うのか。
可奈子は腕を組んで少し考えると、
「まあ、晴人だったら私の目の届く範囲だからね。変な事しようとしても、まだ監視出来る」
信用出来る、とかじゃないんだ。
「どうにか監視をかいくぐらないとな」
超高性能センサーにマークされた晴人は、その監視を逃れる術を考え始めていた。
「その時はよろしく。洸平」
俺に言われてもなぁ。
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