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第二章
第十六話 初夜
しおりを挟む「いいもんだなぁ」
リビングの食卓に座った父親が、台所を眺めながら言った。母親に負けず劣らず穏やかな人で、声を荒げたところなど見た事がない。俺も二人に怒られた記憶はないが、それでもわがままに育たなかったのは、可奈子にずっと怒られて来たからだろう。
そんな可奈子はジャージ姿で俺の母親と二人で台所に立っている。
「何が?」
ドーナツを咥えながら聞き返すと、ご飯の前なんだからおやつ食べないの!と可奈子に怒られる。
真向かいの父親はそんな様子も楽しそうに眺めながら、
「いや、お嫁さんが来たらこんな感じなのかなって」
「何言ってんだよ」
そう言って残ったドーナツを口に放り込むと、食べるなって言ったでしょ!とまた怒られる。
そんな可奈子をにこにこと眺めながら、母親は夕食の準備を一緒に進めていた。
タイミングの関係で、夏休みに入ったのと同時に可奈子を預かる事になり、終業式を終えた今日は初日となる。
晴人にさんざんからかわれながら帰って来たのがさっき。可奈子は着替えと必要なものを持ってくるために一度帰ってからやって来て、母親の料理を手伝い始めた。
可奈子が俺の家にやってくるのは珍しい事ではない。なんなら、朝学校へ行く時に、鍵さえ開いていれば勝手に入って来て俺を叩き起こす事が日常になっている。そのために我が家は朝は鍵をかけないのではないかという疑念を俺は持っている。
だが今回はそう言うのとも違う。可奈子が泊まりに来ている。
泊まりに来た事もないわけでもない。それこそ幼稚園の頃などは毎日のようにどちらかの家でお泊まり会が開催されていたし、泊まるまではなくても夜遅くまで部屋で一緒に騒いでいる事は最近でもあったりする。
まあ、泊まりに来ていると言っても学校から帰って来てご飯を食べて寝るだけだし。さほど気にする事もないか。お風呂の時に少し気をつけなければならないくらいか。
お風呂?
・・・
いやいや、やめておこう。
「どうしたのよ。変な顔して」
可奈子はそう言って、俺の前にハンバーグの乗った皿を置いて俺の顔を覗き込んだ。
「なななな、何でもない」
わかりやすくうろたえる俺。決して邪な事を考えた訳じゃない。
可奈子は自分の分のハンバーグを俺の隣の席に置くとそのまま席についた。正面に座る両親がにこにこしている。
その日の夕食は楽しかった。いつもはいない可奈子のおかげで話が弾んだと言うのもあるが、可奈子がいつもよりイキイキしているように見えたからかもしれない。
「私、最近ずっと一人で晩御飯食べてたんですよ。パパが帰ってこないもんだから」
可奈子も何だか楽しそうだ。
「美沙子の事は——残念だったわね」
母親がしんみりと言う。可奈子の母親である美沙子さんとは仲が良く、それがきっかけで二組が結婚したようなものだ、とはしょっちゅう聞かされる。
だから美沙子さんが亡くなって以来、母親は可奈子を娘のように可愛がっているし、本当の娘にしたがっている。父親はそんな母親をにこにこと見守っている。
「今回だけに限らず、いつでもうちに来ていいからね。むしろ、帰らなくてもいいくらい」
「それはいいね」
「それは言いすぎだろ」
母親と父親の意見が一致したのをたしなめながら、俺は味噌汁をすする。濃い目になりがちな母親の味と違い、優しいながらもしっかりした味。可奈子の味だな。
「なぁに?」
母親は可奈子から俺に視線を移す。
「洸ちゃんは可奈子ちゃんに帰ってもらいたいの?」
「そういう訳じゃないよ」
「ほら」
俺の言葉を聞くと勝ち誇ったように、
「洸ちゃんも可奈子ちゃんにはずっとここにいてもらいたいって」
そう言って可奈子を見る。
「深雪さん、洸平はそうは言ってないと思いますけど・・・」
可奈子は答えに困りながら、ご飯を口に運んでいる。
「あとは可奈子ちゃんが『はい』って言いさえすれば丸く収まるのよ。どう?洸ちゃんが一生幸せにするから」
「待て待て待て」
俺が慌てて割り込むと、母親は『何か?』みたいな顔をする。
「それじゃまるで結婚するみたいじゃないか。さすがに飛躍しすぎだろう」
俺と可奈子の周りにいる人たちはなぜか俺たちをくっつけたがる。晴人もそうだし、母親もそう。もっと言えば源治おじさんだってそうだ。
「覚えてないの?」
母親はうふふと笑う。
「洸ちゃんと可奈子ちゃんが、『大きくなったら結婚しようね』って約束したの。私は昨日の事のように覚えてるのよ。ね?もう充分大きくなったと思うんだけど」
「そんな昔の事覚えてる訳ないだろう!」
「・・・覚えてる」
可奈子の答えに俺は思わず可奈子を見る。可奈子はうつむいて箸の先を噛んでいる。
「ほら」
母親は胸を張った。
「ちゃんと約束はしてあるんだから」
「子供の言質を取るなよ」
そんな事を言ったら、あらゆる事が約束済みじゃないか。
「ふーん。じゃあ、まだ婚約者って事でいいや」
いいや、って何だよ。
「可奈子も否定していいんだぞ。黙ってると調子に乗るだけだから」
ったく。母親にも困ったものだ。
「そんなに強く否定しなくていいと思うの」
そう言う可奈子は気を使っているのだろう。うちの両親とも長い付き合いだし、これからしばらくうちに泊まる訳だし。
そうやって思いの外賑やかな夕食が終わる。
「私お皿洗います」
「あら。洸ちゃん、手伝ってあげて」
「あ、うん」
テーブルの上の皿をまとめてシンクへ持って行くと、可奈子に布巾を渡された。
「私が洗うから、洸平は拭いて」
「わかった」
そうして並んで皿を洗う二人。それを見て両親はまたにこにこしながら、何やらコソコソと耳打ちを始める。子供みたいな二人だな。
「洗い物が終わったら、お風呂にしなさい。洸ちゃん」
「子供じゃないって」
「可奈子ちゃんが先に入る?」
「その方がいいんじゃないのか?」
「いいんですか?」
そうやって一番風呂は可奈子が入る事になった。
その間俺は自室にベッドに寝転んで雑誌などを読んで時間を潰しているが——
今この瞬間、可奈子が俺の家の浴室でどのような姿になっているかを考えてしまい、おかしな気持ちになる。この気持ちは水着の試着を待っている時と同じような気持ちか。どうやら、俺は可奈子を異性として意識はしていないが、異性であると理解はしているようだ。
胸の奥に去来する気持ち。あまり感じたことのない気持ちに胸やけがしそう。
どうにも処理出来ない気持ちを抱えていると、
「洸平。お風呂次いいよ」
突然自室の扉が開く。
「ノックもせずに開けるなって言ってるだろう」
「今日は梢さんがいないから大丈夫」
「・・・それは言わないでくれよ」
何だか可奈子が一瞬怖い目をしたので、逃げるように浴室へ向かう。
・・・ここで可奈子が裸になって、あの湯船に浸かって——
お風呂のせいでのぼせそうになった俺がいつもより素早く終わらせて自室に戻ると、可奈子がベッドに寝転んでスマートフォンを眺めていた。
柔らかい生地のショートパンツに、ゆったりめのTシャツというラフというか無防備な格好で、
扉を開けけた俺の方を見た。
「ノックぐらいしなさいよ。私が変な事してたらどうするのよ」
「見届けてやるよ」
そう言って俺が椅子に座ると、
「洸平、ここ、ここ」
可奈子は体を起こして、ベッドの枕の辺りを叩く。可奈子が頭を置いていた辺り。ここに座れって?
仕方なく移動する。
「いひひひひ」
髪を解いて少し幼い印象になった可奈子が、俺の太ももに頭を乗せた。
「どうしたんだ?急に甘えたくなったか?」
可奈子を見下ろして言う。学校以外だと可奈子は子供っぽく感じる事がある。
「この間膝枕してあげたでしょ。そのお礼」
「だったら今度は可奈子におぶってもらわないとな」
「えー、無理だよ」
可奈子は言いながら、俺の太ももに頭をぐりぐりと押し付ける。
「洸平の膝枕はどんなのかな、って思っただけ」
うちのシャンプーとボディーソープの匂いを漂わせる可奈子の顔が上気しているのは、お風呂からあがったばかりだからだろう。
「結構いいね」
俺の目を見る。こうして真下からまっすぐな目で見つめられると何だか恥ずかしい。
そんな恥ずかしさを誤魔化すために、俺は可奈子の頭を撫でる。
「猫になったみたい」
可奈子はくすぐったそうに体を丸くする。本当に猫になったみたいだ。
ここで母親に目撃されたらあらぬ誤解をされそうだとは思いつつも、可奈子の機嫌がよさそうななので仕方ない。
「でね、洸平。海水浴に行こうって言ってたじゃない?」
「うん」
可奈子は俺の太ももの上でスマートフォンを操作すると、俺に画面を見せてきた。
高校に入学した記念に二人で一緒に買いに行ったスマートフォンの画面に映っていたのは、青い海と、白い砂浜。
「ここに行きたいの」
「入舟山海岸?」
画面に浮かぶ文字を読み上げる。
「ここは日帰りじゃ行けないぞ」
住所から考えると幾つもの電車を乗りかなければ行く事が出来ない場所のようだ。あとは自家用車か。どちらにせよ、日帰りは無理。
「でも、ここは温泉もあるんだよ。近くに縁結びのご利益がある神社もあるし」
「いや、それは彼氏作ってから行けばいいだろう。
まだそこの海岸でいいんじゃないのか?」
「うーん。綺麗なんだけどな」
綺麗ではあるけど。俺たちもそうだが、晴人とクリオナにも提案しずらい。
「たまには違う所も行ってみたい」
可奈子は言いながら、唇をとがらせる。
「じゃあさ」
そう言えば、思い出した。
「地球連合軍の敷地内にプライベートビーチがあるらしいぞ。あらかじめ言っておけば融通してくれるって言ってたけど」
「梢さん情報?」
「え?あ、うん」
「じゃあダメ」
なぜか却下される。
「きっと梢さんも来るでしょ?」
「いや、それは分からないけど。梢さんが来るのが嫌なの?」
「・・・」
可奈子は口を結んで答えない。聞こえないフリをしているのか、スマートフォンを眺めている。
「・・・」
俺も何も言えず可奈子の頭を撫でると、可奈子は猫のように身じろぎする。
それから数分の時間が流れ、ようやく可奈子が口を開いた。
「洸平さぁ」
「ん?」
可奈子はスマートフォンから目を離さない。
「梢さんの事が好きなの?」
「な、何だよ急に」
動揺が口から漏れてしまった。
「梢さん可愛いもんね。大きいし」
何が?とは聞けるはずもない。
「いや、た、た、確かに可愛いけど、そういうのじゃないよ」
「動揺してる」
俺を上目遣いで見る可奈子。
「梢さんの胸触って嬉しかったでしょ?」
答えにくい質問。本音を言うと『うん』だが、さすがにここでそ言う勇気はない。だが、『いいえ』はあからさまに嘘だし。
答えに困った俺は、可奈子の頭を撫でながら話を逸らす事にする。
「可奈子、やきもちやいてるのか?
「・・・」
また答えない可奈子。
「ひとに聞いておいて、自分は答えないのはずるいぞ」
「・・・」
「おい可奈子——」
「すう」
「寝るのはもっとずるいぞ」
俺は言いながら、可奈子の寝顔を見下ろす。穏やかで子供のような寝顔。
「本当に寝たのか?」
可奈子の鼻をつまんでみる。
「みゅ」
変な声が漏れたが、目を開ける事はなかった。
続いて頬をつまんでみる。
「ぐう」
やはり妙な声が漏れる。目を覚さない。
俺はじっと可奈子の寝顔を見る。やっぱり可愛いな。もし俺が幼馴染みじゃなかったらどうだっただろうか。いや、幼馴染みだからこうやって無防備な姿を晒すのだろう。
異性として見られていないのか、よほど信用されているのかは分からないが、安心しきっている様子の可奈子の頬を撫でる。しっとりとすべすべの肌は柔らかくて少しピンク色をしている。
桜色の小さな唇に目がいく。思わすそこに手を伸ばして——
「はっ」
と、我に帰る。
やっぱりダメだ。いくら可奈子でも触るわけにはいかない。
それと同時に、いくら可奈子でもこうして無防備な姿を見せられると、冷静でいられなくなる。
間違いを犯しそうな予感のした俺は、ゆっくりと可奈子の頭の下から抜け出す。そっと首の後ろに手を入れて枕に頭を乗せようとする。
・・・なんだかお姫様抱っこでベッドまで運んできたみたいな体制になったが、こうしてゆっくり寝かせれば——
その瞬間寝ている可奈子に抱きつかれて、身動きが取れなくなる。それどころか、両足でがっちりと俺を挟み込んできた。
「・・・!!」
マズイ。非常にマズイ。目の前に可奈子の顔がある。少しの気の迷いで触れてしまいそうな距離にその唇がある。
そして全身に可奈子を感じる。柔らかくて温かい感触に包まれて、気絶しそうなほど心臓が鼓動を速くしている。同じように可奈子の鼓動も感じる。
どうにか離れないと・・・だが思いの外可奈子の力が強く離れられない。足もがっちり締められて抱き枕にされてしまっている。その上俺の腕は可奈子の頭の下にある。無理に振り解いて起こしてしまっても面倒だ。あらぬ誤解どころじゃない。
離れなければならないと思いつつ下手に身動きもとれず、ただただ可奈子の温もりを感じる。
なぜだか可奈子の唇から目が離せない。それならもうその唇にくっつけちまえば悩む事はなくなるぞ、という悪い自分も現れる。いやいや、さすがにそんな訳にはいかない。
「んん」
可奈子が身じろぎすると、さらに距離が縮まってくる。俺はどうにかじりじりと後退しつつ、衝動を呼び起こさないように目を閉じる。
可奈子の温もりも感触も心地よく、抗いがたい衝動を感じるが、視界を遮ってしまえば夢の中の出来事だったと処理できる。できるだろう。
俺は視界を遮られたまま、可奈子の柔らかな感触に誘われ、いつの間にか眠りについていた。
「はっ」
と目を覚ますと可奈子の顔が目の前にあった。そりゃあそうだ。そういう体勢のままだし。
思い出したように汗が全身から吹き出すのを感じながら、先程よりは弱まった可奈子の腕をどうにか解き、体を離す。俺の体を挟んでいた可奈子の足を持って開かせると、転がるように抜け出す。
「いで」
勢い余ってベッドから転がり落ちる。
「助かった・・・」
この身に危険が迫っていた訳ではないが、思わずその言葉が漏れる。
「ん?」
その時ポケットのスマートフォンが振動する。メールを着信したらしい。
現在一時。二時間位寝てたのか・・・そしてメールの送り主は晴人。こんな時間に何の用だ。
『初夜はどうだった?』
うるせえよ。
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