エッチな玩具オナニーがやめられないのにコミュつよイケメン従弟(ぶっちゃけ苦手)と同居することになってしまった

松任 来(まっとう らい)

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45 俺はずっと怖かった

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これまでの人生で、この話を誰かにするのは初めてだった。もうずっと自分の中にこびりつくようにして存在していた、自分でもどうしていいか分からず、でも捨てることもできずにいたもの。
 
「どういうこと?」
静かな声で、大海が問いてくる。まるで、大切な何かを壊してしまうのを恐れているみたいに。
「そのー、……気とか、やっぱ、使ってたの?……誠司伯父さんと早苗伯母さんに」
おずおずと尋ねられ、暖雪はぶるぶると首を左右に振る。
「違う」
涙に濡れた声は、二人の住む家に消えていった。この一ヶ月間、二人で笑って眠って食べて会話した家。
たった一ヶ月。けれど、ちゃんと二人の歴史を積み重ねてきたのだ。そのことがほんの僅かではあるが、暖雪の後押しをしてくれる。
 
昔も今も、暖雪が養子であるということに言及してくる親族はほとんどいない。そんなことをする必要などないという、心からの愛情の形だった。だから多分、こんな風に大海が言ってくるということは、かなり考えを巡らせに巡らせて暖雪のことをかなり慮った結果だろう。

(なら、俺もその想いに応えなきゃ)
覚悟を決めて、暖雪はぽつぽつと語りだす。
「俺はさ……、俺の両親は、昔からずっと子供が欲しかったんだって。でも母さんの身体の事情で、どうしても子供が望めなくて。それで遠く離れた土地で保護された俺を引き取ったんだ」
暖雪のまとまっていない話を、大海は黙ってじっと聞いている。
「小さい頃から、俺は……、ずっとずっと、“お父さんとお母さんのところに来てくれて本当にありがとう”って。“お父さんとお母さんの一番大切なものはお前だからね。宝物だ”って。“運命的な出会いだった”って。言われ続けて育ったんだ」
「うん」
大海が声を出して頷いた。
「知ってる。それは聞いたことある。めちゃくちゃ良いご両親だよね」
その通りだ。
誰に言われるまでも、確認するまでもない。
あの二人は、とても素晴らしい両親なのだ。
そのことが、こんなにも暖雪を苦しめる。

「父さんと母さんは俺に目いっぱいの愛をくれた。だから、俺も少しでも返せるように……」
泣きながら一気に喋りすぎて苦しくなり、大きく息を吸い込んで吐き出す暖雪のことを、大海はじっと静かに待ってくれた。
「”良い息子”になりたいんだ……」

あれは暖雪が高校生の時。家族揃って夕飯を摂っている場でのことだった。暖雪はふとした会話の流れで、男性の先輩と付き合っていることを両親にカミングアウトしてしまった。
ぱっと顔色を変えた両親を見て、暖雪は最初”自分は大変なことをしてしまったんだ”と思ったのだ。だが、それからの両親の反応は想像していたものとは違った。驚いた表情は浮かべたものの、二人はすぐに、“暖雪にそんな人ができて嬉しい”と暖雪の初めての恋愛を肯定してくれたのだった。そして翌日からは、普段と同じように接してくれた。きっと、一生懸命LGBTについて勉強したのではないかと思う。今よりももっと同性愛について理解のなかった時代だったというのに。

「……そういうことがあってからさ、俺は”この人たちにとって、誇れるような息子になりたい”ってすげえ思うようになったんだ」

そうなるにはどうしたらいいか。色々な経験を経て大人になるにつれ、暖雪はどんどん深く考えていくようになる。
そうだ、両親の宝物たる自分が幸せになっているところを見れば、きっとあの素敵な両親は喜んでくれる。うんと幸せになろう。両親がかつて描いた幸せ、それと同じくらいのものを自分も手にすれば、きっと両親は誇りに思ってくれるし、自分も自分を誇ることができる。

”今の自分はこんな姿になることができました”と堂々と両親に自分の得た幸せを見せることができれば、二人は安心してくれる。育ててよかったなと、思ってもらえる。

なのに。
「……そのうちだんだん、すげえ焦ってきたんだよ。先輩と別れてから、全然次の彼氏ができないから。そんな時、昔聞いたこと思い出してさ。父さんと母さん、子供ができない身体だって医者に聞かされた時すげえショックを受けたって。息子の俺がまた子供できない人生を歩むってなったら……。あの人たち、自分たちが昔背負った苦しみをまた俺も背負うことになるって感じるんじゃないかって」
「ええとー、親に孫の顔を見せられなくて申し訳ないとか、……そういう話?」
「違う」

暖雪はまた首を振る。
「そういうんじゃない。それはただのきっかけだ。……俺、絶望に近い感じになっちゃったんだよ。父さんと母さんの描いた”幸せ”と、今の俺はちょっとあまりにもかけ離れてるんじゃないかって」
愛する人と一生過ごす、幸せな場所を自分たちの手で作る。それが、両親の追い求めた幸せ。
そんな二人の、”正解”に沿いたい。

ゲイであることはどうしてもやめられない。結婚をしたり、子供を授かるというのは現時点では困難だ。
だとしても、十分自分は幸せだと。
愛する人を見つけて、きちんと”立派に”生きている人間だと。そんなところを両親に見せたかった。

「ええと、……ごめん、その」
未だ目に不安の色を宿した、大海が言う。
「雪ちゃんのご両親は、……雪ちゃんに対してそんなこと思ってないと思うけど」
繊細に言葉を選ぼうとする大海の心の中が伝わってくる。ほとんど囁きに近かった。
「もっと、雪ちゃん自身の生きたいように生きてほしいって……。あの二人は思いそうだけどな……」
言ってからすぐに、「俺がこれまで見てきた限りではね、誠司伯父さんと早苗伯母さんはそんな人じゃないかなって思うんだけど」と付け加えた。
「分かるよ。自分でも意味分かんねーことで悩んでるなって。幸せになる方法は俺自身で考えるべきだとも思う。でも……」
震える声がどうしても抑えられず、暖雪はとうとう顔を両手で覆った。
「両親にあまりに可愛がられて育ったから……。小さい頃から、あの二人がくれる幸せを、そればかりをもらって育ってきたから……。いざ”幸せの形”ってのを考えると、……それ以外のものが分からない。……いや」

痛いほど歯を食いしばり、何とか暖雪はさらに溢れ出そうになる嗚咽を殺した。
「その形から自分が外れるのが怖いんだ」
ぐずぐずと泣き声交じりに、なんとかそれだけ絞り出す。

「雪ちゃんがそんな想いでいること、ご両親は知らないんだよね?」
「……うん」
この荷を降ろしたいと思ったことはある。何度も。軽い感じででもいいから、彼らに尋ねるべきだったのかもしれない。自分はあなたたちのように、早く愛する人を見つけて一緒になるべきかと。
でもできなかった。それをした瞬間、自分が”良い息子”でなくなってしまうような気がしたのだ。

「ん……。うう~ん……」
大海は、テーブルの一点を見つめたまま、腕を組んだ。それから、ものすごく言いにくそうに、口を開く。
「ごめん。……正直、あまりよく理解できない。いや、何となくは分かるけど。完全には分からないかも」
「う……」
ずんと重くなった胸を、暖雪は右手で掴んだ。
そう、これまで誰にも己の内を打ち明けることができなかったのは、こういう理由も大きい。こういう風に言われるに決まっている。だからずっとずっとずっと誰にも言えなかった。目の前の相手に困った顔などさせたくない。似た境遇の人間にだって出会ったことがなく、長年一人で抱えているしかなかったのだ。

「う~ん……」
やがて大海は立ち上がり、椅子の周辺を行ったり来たりしはじめた。
「でも、当事者としてはそんな風に悩むものなのか……」
難しい顔をして、口に片手を当て、うんうん唸りながらそんなことを呟いている。
「いや、てか実際、雪ちゃんがそうやって長年ずっと悩んできたんだから。そう言ってるんだから。それは事実なんだしな。……うん。うん」
言葉の後半を、なんだか自分自身に言い聞かせるみたいにして、大海は言った。
「要はさ、雪ちゃんのご両親が雪ちゃんに対してそんなことを思ってないってことがはっきりすればいいんだよね?」
そして、そんな不思議な質問を投げかけてくる。
「……?」
ただただその場で中途半端に口を開いたままの暖雪に大海は続けてこう言い放つのだった。宣言するように。
「今すぐ聞きに行こう!雪ちゃんの実家まで行って!」
さも名案を思い付いたというように、人差し指を立てて。

「……は?」
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