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第5話

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 嘘を発表してから半年が過ぎたころ、クリスから話をされた。

「なあ、ミラには会っているのか?」
「いや、最初に話してから、少し距離を置かれている。ひどく泣かしてしまったから僕も会いに行けなくて」
「昨日、ミラに二人で会わないかと言われたよ」

 貴族の男性、女性が二人で会うことは基本的にない。
 従者や護衛が絶対についているからだ。
 婚約者同士なら会わないことはないが、ミラとクリスはそんな関係ではない。

「なんの話か聞いている?」
「俺と話すことなんかレオのことだけだろ?本当に嘘のことはミラにも言わないんだな?」
「うん。信じているから」
「そっか。なら俺からは何も言わない」
「ありがとう」

 そう言って、その日は話を切り上げた。


 その数日後、クリスからその時の話があった。

「ミラは辺境に行きたくないんだとさ」
「それはそうだね。僕の時にも言ってたよ」

 発表後の話し合いで泣きだしたのはそれが原因だった。
 正直僕には意味がわからなかった。
 愛する二人が辺境に行っても、幸せに領地経営できるだろう。
 
 王都にだって2週間で行くことができる。
 それに年始の式典があるので二か月ぐらいの間、貴族は王都に滞在することになる。
 だから、それがなぜ泣き出すほど悲しいことなのか僕にはわからなかった。

 ミラのことを信じているとクリスには伝えたが、初めの話し合いの時に疑惑があったので伝えないと決めただけだ。

「ミラは別れたいって言ってたの?」
「いや、それは聞いてない。ただ迷っている感じだった」

 このことで振られるなら仕方がないのかもしれない。
 
 ただ、男側から婚約破棄するとされた側の女性は腫れ物扱いされる。
 ひどい場合だと、次の婚約者が見つからず修道院に行く人も出てくる。
 ミラのことは嫌いではない。だから別れを告げるならミラからにしてほしい。


 その時は本心からミラの心配をしていた。

 事態が進展したのは嘘の発表から一年を過ぎたころだった。
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