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第6話

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「ミラ頭がおかしくなったんじゃないか?」
「え?なんで?」
「俺に付き合ってほしいと言ってきた。それに好きだとも」

 嘘を発表してから一年の間、クリスはミラの相談という二人の密会を続けていた。

 僕と婚約しているのにクリスに告白するのは違う。
 それは貴族としてもタブーだし、人間としても終わっている。

 その言葉を聞いてからだ、僕がおかしくなったのわ。

「クリス付き合ってみてよ」
「はぁ?本気で言っているのか?それに俺はこんなことでレオから離れていく女なんか大っ嫌いだ。絶対に嫌だね」
「そんなこと言わずさ。フリだけでいいから」

 その時の僕は悪魔のような顔をしていただろう。
 今思い返してもひどい発想だ。
 ミラを心配するどころかもてあそぶようにミラに仕返ししようとしていた。

「本当にやるんだな?」
「クリスが好きなら。ちゃんとミラと付き合ってもいいよ?」
「それは絶対にない。くそみたいな女と付き合う気なんかない」
「そうなんだ」
「ミラに婚約破棄するように俺から言うよ。婚約破棄したなら俺とミラの関係もそれで終わり。それでいいか?」
「うん。それでいいよ」

 悪魔との契約。
 人に甘い蜜を与え、悪魔に個人的な欲望を叶えてもらったと思わせる。
 そして、最終的にその対価として人間の魂を刈り取る。

 僕とクリスで行われた密約はミラへの悪魔召喚みたいなものだった。
 クリスという悪魔を与え、ミラの気持ちを満たしていく。

 ただし、この契約では悪魔にならない可能性も秘めている。
 婚約破棄をすぐに行えば、ただただ僕と別れ、クリスという悪魔が離れていくだけ。
 ミラにとってプラスなことはないだろうが、マイナスがない。
 優しい悪魔との契約だ。

 逃げ道はちゃんと残してある。

 ただ、その時の僕は婚約破棄をしないでほしいと思っていた。
 僕という婚約者がいながらクリスと仲良くしている姿を他の人にも見てほしい。
 軽蔑を添えた白い目でミラが見られることを望んでしまっていた。
 
 クリスはあまり白い目見られないようにした。
 僕から気落ちしているミラの面倒を頼んでいるという噂を流しただけだが。
 噂はすぐに広まる。特に第二王子の僕の噂わね。

 そのあともミラとクリスの密会は続き。
 学校でも一緒にいる姿を時折目にした。

 結局、学園卒業のパーティーまで婚約破棄の申し入れはない。
 ミラは何を思っていたのだろうか。
 学園卒業までに僕に下された王位継承権はく奪の決定が取り消されると思っていたのだろうか。
 もともと下されていない決定が取り消されるはずがないのだけどね
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