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第11笑『見える者、見えざる者』4/4
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翌日、そこには諦観したのか、完全にふっきれたガリベンの姿があった。
悪ガキとの相性も良くなり、絶妙の掛け合いで二人はクラスの笑いの中心になっていた。
そこに不報が届く。
「吉田はいるかっ!」
叫びながら休み時間中の教室に入ってくる先生。
先生を不安な表情で見るガリベン。
無理も無い、吉田はガリベンの苗字だからだ。
「お前の母親が倒れた! 危篤だそうだ! 直ぐに来い!」
彼の顔から血の気が引く。
そして震えながら、全てを悟ったかのように叫び出した。
「やっぱそうか、昨日のアレいけなかったんだ! 昨日僕が、キレることを辞めてクラスに笑いを振りまけなかったから」
怯えるように教室の隅を見据え、そこにいるピエロに窺うように言う。
そしてその反応を見たガリベンは、悪ガキのほうを見て目配せをする。
その目は言っていた。
私には分かった。
『やれ』と。
悪ガキも少し逡巡していたが、決意を固めたように神妙な面持ちから無言で頷く。
その意志を受け取ったガリベンは全力で叫んだ。
「だから母さんが倒れたーーー! あーっはっはっはーー!」
完全に壊れた……おそらくフリだ。
私達三人以外はそれに気付いてない。
「お前の母ちゃん、身体弱すぎだろー!」
堪えきれずに流れた涙を流しながら悪ガキはガリベンをいじり。
「なんてこというんやっ!」
鬼の形相で涙を流しながらキレるガリベンは直ぐにフッと自嘲的な声を漏らし。
「まあそやな、こんなんじゃ看護師失格やなあーーー! はーはっはー!」
涙を流してガリベンは自虐的に笑う。
そして二人の友情をあざ笑うかのように。
けたけたけた
そんな擬音を響かすかのごとく、口をあけて一切声を出さずに笑っているピエロマスターの姿があった。
そして時が止まったように二人をただ黙って取り巻いているクラスの様子があった。
それがピエロマスターの望んだ最高の喜劇的結末とでもいうように。
翌日、ガリベンの母親の調子はウソのように調子が良くなり。
直ぐに退院してしまった。
そう、まさにピエロマスターのご機嫌が取れたから命が助かったとでも言わんばかりに。
あれから幾日……放課後。
来る日も来る日もガリベンと悪ガキ二人のコンビはキレ芸を披露している。
クラスの中でもある程度の笑いの位置についている。
でも二人はもう完全に達観し、別の世界に逝ってしまったかのように生気を感じられない。
涙を流しながらキレるガリベンの姿を見ることはもう無いだろう。
そしてもう二人が泣くこともおそらく無いだろう。
――――二人は完全に笑いの『場』へと堕ちたのだから――――
一度『芸人』になってしまえば、イバラの道が待っている。
厳しい道だ。
だが、それは自らの意志でソレを選んだ者たちの事であって……ピエロマスターへの恐怖から、無理矢理なるものじゃない。
二人の様子を見守りながら、私は声にならない声でヤツを断罪する。
「恐怖から笑いを創っている……それで、お前は神にでもなったつもり?」
睨みつける私の眼光を受けてもヤツはただひたすら邪悪な笑みを崩さずに微笑み続けるだけだった。
悪ガキとの相性も良くなり、絶妙の掛け合いで二人はクラスの笑いの中心になっていた。
そこに不報が届く。
「吉田はいるかっ!」
叫びながら休み時間中の教室に入ってくる先生。
先生を不安な表情で見るガリベン。
無理も無い、吉田はガリベンの苗字だからだ。
「お前の母親が倒れた! 危篤だそうだ! 直ぐに来い!」
彼の顔から血の気が引く。
そして震えながら、全てを悟ったかのように叫び出した。
「やっぱそうか、昨日のアレいけなかったんだ! 昨日僕が、キレることを辞めてクラスに笑いを振りまけなかったから」
怯えるように教室の隅を見据え、そこにいるピエロに窺うように言う。
そしてその反応を見たガリベンは、悪ガキのほうを見て目配せをする。
その目は言っていた。
私には分かった。
『やれ』と。
悪ガキも少し逡巡していたが、決意を固めたように神妙な面持ちから無言で頷く。
その意志を受け取ったガリベンは全力で叫んだ。
「だから母さんが倒れたーーー! あーっはっはっはーー!」
完全に壊れた……おそらくフリだ。
私達三人以外はそれに気付いてない。
「お前の母ちゃん、身体弱すぎだろー!」
堪えきれずに流れた涙を流しながら悪ガキはガリベンをいじり。
「なんてこというんやっ!」
鬼の形相で涙を流しながらキレるガリベンは直ぐにフッと自嘲的な声を漏らし。
「まあそやな、こんなんじゃ看護師失格やなあーーー! はーはっはー!」
涙を流してガリベンは自虐的に笑う。
そして二人の友情をあざ笑うかのように。
けたけたけた
そんな擬音を響かすかのごとく、口をあけて一切声を出さずに笑っているピエロマスターの姿があった。
そして時が止まったように二人をただ黙って取り巻いているクラスの様子があった。
それがピエロマスターの望んだ最高の喜劇的結末とでもいうように。
翌日、ガリベンの母親の調子はウソのように調子が良くなり。
直ぐに退院してしまった。
そう、まさにピエロマスターのご機嫌が取れたから命が助かったとでも言わんばかりに。
あれから幾日……放課後。
来る日も来る日もガリベンと悪ガキ二人のコンビはキレ芸を披露している。
クラスの中でもある程度の笑いの位置についている。
でも二人はもう完全に達観し、別の世界に逝ってしまったかのように生気を感じられない。
涙を流しながらキレるガリベンの姿を見ることはもう無いだろう。
そしてもう二人が泣くこともおそらく無いだろう。
――――二人は完全に笑いの『場』へと堕ちたのだから――――
一度『芸人』になってしまえば、イバラの道が待っている。
厳しい道だ。
だが、それは自らの意志でソレを選んだ者たちの事であって……ピエロマスターへの恐怖から、無理矢理なるものじゃない。
二人の様子を見守りながら、私は声にならない声でヤツを断罪する。
「恐怖から笑いを創っている……それで、お前は神にでもなったつもり?」
睨みつける私の眼光を受けてもヤツはただひたすら邪悪な笑みを崩さずに微笑み続けるだけだった。
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