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第22笑『ピエロ君の告白』3/3
しおりを挟む私が意識を取り戻す瞬間
『わたくしはあの男達を、ピエロさん達のやり方を絶対に認めませんわ!』
意識を笑いの場に完全に落とされてもなお、くすぶり続ける強い意志を感じた。
そして私の意識は、いつも通りの手順で私の時間ではついさっきまでいた教室に戻ってきた。
今までだと誰もいない空間に取り残され、放置プレイを享受するのだけれど、今回は違う。
私の視線の先にはピエロ君。
彼は私が目覚めたのを確認するとニコリと微笑みかける。
『理解した?』とでも言いたげなように。
「なに……これ」
私は信じられないとでも言いたげな風体で呟いていた。
そりゃそうだ。
私はさっき見た情景を心底理解できないでいたから。
あれが本当にピエロ君なのかさえ信じることが出来なかった。
「……人を殺しといてその理由を理解し、自分の存在を認めて欲しいなんてそんなの、子供のワガママじゃない!」
言葉の最後のほうはもう叫んでいた。涙が混じった声で。
「じゃあ、お前は体験したことがあるかっ」
「『俺』……いや『僕』はずっと大将にいじめられていたんだ。毎日、まいにちまいにち……『何か面白いことをしろ』と強要されていた。学校に来るんが苦痛で仕方あらへんかったんやっ!」
語尾がおかしい。
オツボネ様のビジョンを見ていた私は理解する。
恐らく二つの人格が混ざっているのだろう。
もはや、どちらのピエロ君がしゃべっているかも分からない。
二人のピエロ君による毒吐……もとい独白は続く。
「大将はんにさんざんに言われたでえ」「言われたよ」
「アイツは笑いにうるさかった。いや、笑いの無い人間の生存価値さえ認めていなかったんや」
「笑いの場を、タイミングを見定められない目……『お前、そんな目いらんやろっ!』」
そして「そんな目潰したるわ」と目に指を入れようとする。
「面白いことをいえない口……『お前、そんな口いらんやろっ!』」
そして「そんな口裂いたるわ」と両手を突っ込み、千切らんばかりの力で押し開こうとする。
「ツッコミの切れも悪く動作の遅い手足……『お前、こんな手足いらんやろっ!』」
そして「そんな手足捥いだるわ」と仲間と一緒に両手両足を引っつかみ、間接が外れるギリギリまで、激痛が走る中、引っ張り上げる。
「何も面白くない自分……『面白う無いなら、お前なんて要らんやろっ!』」
そして「生きてる意味、無いやろっ」『僕を』『俺を』屋上まで引っ張って、柵の先に立たせ、いつまでもいつまでも飛び降りろと急かし続ける。
「ここまで…ここまで『僕は』『俺は』アイツに言われ続けたんだぞ! 自分の存在価値、アイデンティティ、ささやかに生きていくことさえも否定されたっ!」
「この悔しさがお前に分かるかっ! このやるせなさがお前に理解できるか? 絶望が見えるのか……」
「お前は何も分かっていない『おもしろくない』と言われることがどんなに辛いか……全く解かってなどいないっ!」
ピエロ君は泣きはらした目を全開にして、私を睨みつけながら言葉を浴びせてきた。
私に告白してきた時のひょうひょうとした感じは微塵も無く
これが、まごうことなきピエロ君の『本音』だと確信した。
そして、涙が溢れてきた。
止まらなかった。
私はピエロ君が言うところの『辛さ』をほんの一握りも解っていないのかもしれない。
それでも涙が止まらなかった。
これはただの同情なのかもしれない。
恋じゃないのかもしれない。
でも、それでも涙は尽きなかった。
とめどなく溢れ続けた。
そして、私はもうどうしようもなくピエロ君のことを放っておけなくなってしまった。
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