2 / 2
桜の咲く頃に吹く風
しおりを挟む
初春になり春の陽気が段々と近づく頃、私は薄手の黄緑色のカーディガンを肩にかけながら、病院の中庭で本を読んでいた。私は読書をするのが好きだ。この中庭で、初夏までの季節をここで色々な本を読んでいる。でも、元から好きだったわけじゃない。いじめられるようになってから、現実世界から離れて色々な場所へ行けて、色々な者になれるから。
例えば探偵、時には中世のお姫様など。本当に色々なことが頭の中で想像できる。読書を始めてから、相手の気持ちに寄り添えるようになれたかもしれない。まだ、水面下の感情だが。桜の蕾が膨らむ木の下の石づくりのベンチで春の陽気に誘われながら読書をしていた時にふわりとそよ風が吹き、ウッディ系の香りが頭上からして、人の気配を感じた。
「へぇー、ドイルか。」
アルトとバスの中間の様な柔らかい声がして、ふと顔を上げた。
くっきり二重で黒目がちな綺麗な顔立ちの男性が興味深そうに私と本を交互に見ていた。私はびっくりし過ぎて声も出ず、その場を逃げるように去った。
「びっくりした、何なのあの人。」
まるで、春の訪れと共に吹いた風の様な感じだった。中庭の方をチラリと見る。
もう、さっきの人は中庭には居なかった。
「ゆ、幽霊??!」
いや、違う。ちゃんと足はあったし、肌の色も艶もあった。だとしたら……、ただの物好き……?
ふと、脳裏に三島春樹の名前が浮かんだ。まさか……。そう思った瞬間、何か胃の辺りがムカムカした。
「ふんっ」と鼻を鳴らして、病室で本の続きを読んだ。
「ふざけんなっ!」
ある昼ご飯の時だった。私はその日頭の血が昇る程の怒りを覚えていた。拓斗からやり直したいというラインがきたのだ。やり直したい理由は、今の彼女との関係が上手くいっておらず、私しか居ないんだと言ってきたからだ。都合よく扱って、そしてまた棄てる気なんだ、そう感じた。昼ご飯をトレーごとベッドの下に叩きつけた。ご飯は茶碗から飛び出し、味噌汁のワカメやら豆腐が散乱し、大好きなチキンピカタは無惨に砕け散った。異変に気づいた看護師が、駆けつけてトレーやお椀を片付けていた。何も言わず、何も触れず。ただ、「ご飯、食べれる?」と聞いただけで、私は首を横に振った。看護師は事務的に話してベッドを直して、出て行った。
「何、ほざいてんだ、、今更。」
ポソリと悔しい気持ちで呟いた。ラインをブロックしてベッドに横になった。けれども、気持ちが落ち着くわけでもなくムシャクシャしてこっそりと隠していたカッターをサイドテーブルから取り出し、ジジっとカッターの刃を上げて手首に当てた。鉛色の刃が手首に冷たく当たる。刃先を手首に当てた時だった。
「何やってんの?」
病室の前に男の人の声がして、慌ててカッターを布団の中に入れようとした。けど、カッターは手から滑って床に落ちてしまった。
「あんた、誰?」
平静を装いながら、私は内心ドキドキしていた。ふぅっと息を吐きながら、カッターを拾い上げた。
「俺は三島春樹。宮野あかりちゃん。」
優しいけれど、声は尖っていた。その名前を聞いた瞬間、ヒヤリと背中に冷たいものが伝う様な感じがした。佑斗のお兄さんか。。。
「もしかして、以前中庭に居ました?」
佑斗とは、似ても似つかない様なその風貌は、何処か麗人を思い浮かべるような容姿だった。
「なんだ、気づいてたんだ。」
おどけた感じで、三島春樹は落ち着いた態度で病室に入ってきた。
「ちょっと!ナースコール鳴らすわよ!」
「落ち着いたら?ナースコール鳴らすのはいいけど、俺顔見知りだから、看護師さんと。」
淡々と彼は言った。私はその堂々とした姿に気圧されて、何も言えなかった。
「何で私のこと、知ってるのよ。」
ようやく言葉をふりしぼって出した。
「あぁ、それは、君がよく中庭で読書してるのを弟と散歩してる時に見つけたからだよ。」
少し鼻にかかった声で飄々と彼は言った。
例えば探偵、時には中世のお姫様など。本当に色々なことが頭の中で想像できる。読書を始めてから、相手の気持ちに寄り添えるようになれたかもしれない。まだ、水面下の感情だが。桜の蕾が膨らむ木の下の石づくりのベンチで春の陽気に誘われながら読書をしていた時にふわりとそよ風が吹き、ウッディ系の香りが頭上からして、人の気配を感じた。
「へぇー、ドイルか。」
アルトとバスの中間の様な柔らかい声がして、ふと顔を上げた。
くっきり二重で黒目がちな綺麗な顔立ちの男性が興味深そうに私と本を交互に見ていた。私はびっくりし過ぎて声も出ず、その場を逃げるように去った。
「びっくりした、何なのあの人。」
まるで、春の訪れと共に吹いた風の様な感じだった。中庭の方をチラリと見る。
もう、さっきの人は中庭には居なかった。
「ゆ、幽霊??!」
いや、違う。ちゃんと足はあったし、肌の色も艶もあった。だとしたら……、ただの物好き……?
ふと、脳裏に三島春樹の名前が浮かんだ。まさか……。そう思った瞬間、何か胃の辺りがムカムカした。
「ふんっ」と鼻を鳴らして、病室で本の続きを読んだ。
「ふざけんなっ!」
ある昼ご飯の時だった。私はその日頭の血が昇る程の怒りを覚えていた。拓斗からやり直したいというラインがきたのだ。やり直したい理由は、今の彼女との関係が上手くいっておらず、私しか居ないんだと言ってきたからだ。都合よく扱って、そしてまた棄てる気なんだ、そう感じた。昼ご飯をトレーごとベッドの下に叩きつけた。ご飯は茶碗から飛び出し、味噌汁のワカメやら豆腐が散乱し、大好きなチキンピカタは無惨に砕け散った。異変に気づいた看護師が、駆けつけてトレーやお椀を片付けていた。何も言わず、何も触れず。ただ、「ご飯、食べれる?」と聞いただけで、私は首を横に振った。看護師は事務的に話してベッドを直して、出て行った。
「何、ほざいてんだ、、今更。」
ポソリと悔しい気持ちで呟いた。ラインをブロックしてベッドに横になった。けれども、気持ちが落ち着くわけでもなくムシャクシャしてこっそりと隠していたカッターをサイドテーブルから取り出し、ジジっとカッターの刃を上げて手首に当てた。鉛色の刃が手首に冷たく当たる。刃先を手首に当てた時だった。
「何やってんの?」
病室の前に男の人の声がして、慌ててカッターを布団の中に入れようとした。けど、カッターは手から滑って床に落ちてしまった。
「あんた、誰?」
平静を装いながら、私は内心ドキドキしていた。ふぅっと息を吐きながら、カッターを拾い上げた。
「俺は三島春樹。宮野あかりちゃん。」
優しいけれど、声は尖っていた。その名前を聞いた瞬間、ヒヤリと背中に冷たいものが伝う様な感じがした。佑斗のお兄さんか。。。
「もしかして、以前中庭に居ました?」
佑斗とは、似ても似つかない様なその風貌は、何処か麗人を思い浮かべるような容姿だった。
「なんだ、気づいてたんだ。」
おどけた感じで、三島春樹は落ち着いた態度で病室に入ってきた。
「ちょっと!ナースコール鳴らすわよ!」
「落ち着いたら?ナースコール鳴らすのはいいけど、俺顔見知りだから、看護師さんと。」
淡々と彼は言った。私はその堂々とした姿に気圧されて、何も言えなかった。
「何で私のこと、知ってるのよ。」
ようやく言葉をふりしぼって出した。
「あぁ、それは、君がよく中庭で読書してるのを弟と散歩してる時に見つけたからだよ。」
少し鼻にかかった声で飄々と彼は言った。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
借りてきたカレ
しじましろ
恋愛
都合の良い存在であるはずのレンタル彼氏に振り回されて……
あらすじ
システムエンジニアの萩野みさをは、仕事中毒でゾンビのような見た目になるほど働いている。
人の良さにつけ込まれ、面倒な仕事を押しつけられたり、必要のない物を買わされたり、損ばかりしているが、本人は好きでやっていることとあまり気にしていない。
人並みに結婚願望はあるものの、三十歳過ぎても男性経験はゼロ。
しかし、レンタル彼氏・キキとの出会いが、そんな色の無いみさをの日常を大きく変えていく。
基本的にはカラッと明るいラブコメですが、生き馬の目を抜くIT企業のお仕事ものでもあるので、癖のあるサブキャラや意外な展開もお楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる