サブドロップ症候群の南さんと、恋に落ちたDom

あゆみん

文字の大きさ
4 / 12

3話 仮のパートナー

しおりを挟む
「先日はすみませんでした」

俺は小さな手土産を抱えて、マスターの店の扉を押した。
あの日、あまりの賢の圧しに負けた俺は、以前連絡先を交換していたマスターへメッセージを送った。
迷惑をかけたことへの謝罪と、きちんとお礼をさせてほしいというお願い──そして、あの日の“彼”について。

「全然気にしてないわよ。もとはと言えばあの男の方が悪いんだから。南ちゃんが謝る必要なんてないの」

マスターは手をひらひらさせながら笑ってくれる。
ああ、こののにこういう所に常連さんも惹かれるんだろうな。

ただ、それよりも気になるのはマスターの隣から真っ直ぐに向けられた視線。
真正面から見つめられるのに慣れていないせいで、喉の奥がつまったみたいに呼吸が落ちつかない。

「そういえば、メッセージの件ね。二人の方が話しやすいでしょ」

俺が事前に送ったメッセージ、──それは『彼と話す場をもらえないか』という内容。
マスターは、驚くほどすぐ『いいわよ』と返事をくれた。

「今日は店、お休みだから好きに席使ってちょうだい」

それだけ言い残して、マスターは裏へ消えていく。

残されたのは俺と彼の二人──やはり、とても整った顔をしている。
人と深く関わらない生活が続いていたせいか、どこに目を置けばいいのかさえ迷ってしまう。

「はじめまして、朝倉南です。先日は助けていただき、ありがとうございました」

そんな定型文みたいな挨拶しか出てこず、情けなくも思う。
彼の前にそっと菓子折りを差し出し返事を待つ。
だが、そのままじっと俺の顔を見ているだけで反応がない。

「……苦手でしたか?」

「あ、いえ。そんな、大したことしてないので。お礼なんて」

彼はわずかに戸惑ったように目を伏せた。
誰かを助けるのは“当たり前”だとでも言いたいのだろう、その表情は不思議だと、言いたげだ。

「苦手じゃなければ、ぜひ食べてください。美味しいものを共有したい大人のおせっかいとでも思って」

少し肩の力を抜くように言うと、彼はようやく袋をぎゅっと握りしめた。
沈黙が落ちた頃、彼の方から口を開く。

「南さん。俺は獅倉薫です。みんなからは“かおる”って呼ばれてます」

「薫くん…」

「年下なんで、敬語じゃなくて大丈夫です」

意外だった。
甘い顔立ちで、きっと言い寄られることも多いだろうに、浮ついたところのない落ち着き方。
挨拶ひとつで、彼の律儀さがよくわかる。

俺たちはカウンターの端に並んで座り、本題に入った。

話すからには年齢は関係ない。俺は彼と対等に向き合いたかった。
だから、自分の持病のこと、これまでの生活、体調がどう悪化しているか──包み隠さず全部話した。
薫くんは、少しも退屈そうな素振りを見せず、真剣に耳を傾けている。

すべて話し終えたあとで、俺は静かに切り出した。

「……今話した通り、治療も兼ねて、君に”パートナー”を頼みたい」

賢から必ず打診するように言われたこと──domsubのパートナーについて。
正直プレイすらできない俺には無縁の事だと思っていたけど、俺の身体は既に薬でごまかせない程限界を迎えているようだった。それでも──。

「だが、俺の体調より、俺は薫くんの気持ちを尊重したい」

薫くんが目を瞬かせる。

「これは俺の問題で……相性がいいからって押し付けるのは違うだろう? 俺は、本能だけで関係を決めたくないんだ。自分たちの意思を置き去りにしたくない」

運命だの、赤い糸だの──言葉はいろいろある。
でも俺は、domsunなんていう性別のカテゴリで関係を決めるより、自分で選びたい。
その点、助けてもらったことを抜きにしても、薫くんの変に擦れていなくて真面目なところは魅力的だし、そういう”人として”惹かれた部分もある。

「………」

薫くんは驚いたように固まっている。
気まずさが胸に広がり、俺は席を立ちかけた。

「やっぱり忘れてくれ。変な頼みをして悪かった」

「待ってください!」

薫くんが慌てて俺の腕を掴んだ。
思っていた以上に強い力で、俺はその場に立ちすくむ。

「その話……引き受けます。俺、南さんのパートナーになってみたいです」

まっすぐな瞳だった。
俺が頼んだはずなのに、どこか薫くんの方が覚悟を決めたような声音。

「お、俺は薫くんが大丈夫なら……お願いしたい、けど──」

「俺は大丈夫です」

即答だった。

「そ、それなら……よろしくお願い、したい」

まさかOKをもらえるとは思わず動揺して、語尾がうまくまとまらなかった。
けれど、そのぎこちなさすら救われるような温度で、薫くんは小さく微笑んでいた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~

たら昆布
BL
獣人の世界に異世界転生した人間が愛される話 一部終了 二部終了

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
ある日ハイランクDomの榊千鶴に告白してきたのは、Subを怖がらせているという噂のあの子でー。 更新がずいぶん遅れてしまいました。全話加筆修正いたしましたので、また読んでいただけると嬉しいです。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

イケメンな先輩に猫のようだと可愛がられています。

ゆう
BL
八代秋(10月12日) 高校一年生 15歳 美術部 真面目な方 感情が乏しい 普通 独特な絵 短い癖っ毛の黒髪に黒目 七星礼矢(1月1日) 高校三年生 17歳 帰宅部 チャラい イケメン 広く浅く 主人公に対してストーカー気質 サラサラの黒髪に黒目

悪夢の先に

紫月ゆえ
BL
人に頼ることを知らない大学生(受)が体調不良に陥ってしまう。そんな彼に手を差し伸べる恋人(攻)にも、悪夢を見たことで拒絶をしてしまうが…。 ※体調不良表現あり。嘔吐表現あるので苦手な方はご注意ください。 『孤毒の解毒薬』の続編です! 西条雪(受):ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗(攻):勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

処理中です...