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5話 顔色の悪い男性 side 薫
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初めて見たその人は、今にも倒れてしまいそうなほど血の気がなく、いつ消えてもおかしくない命の灯火を燃やしているような人だった。
その日、たまたま職場の近くにある親友の店に寄ろうとしたら、入口に見えた人だかり。何やらただ事ではない様子だった。
嫌な予感がして扉を押し開けると、倒れている人物と蓮司の姿が目に飛び込んだ。
その人の肌の色、呼吸の浅さ──一目でサブドロップだとわかった。
通常、サブドロップはDomのグレアで精神を安定させ、必要なら医療処置に移る。
その知識があった俺は、身体が先に反応した。
蓮司の言葉を遮って、俺はその人に微弱なグレアを流す。
すると、みるみるうちにその人の頬に血色が浮かび、呼吸が安定する。
一瞬、蓮司が驚いた顔をしたのが視界の端に見えたけど、まもなく救急隊が到着し、その人は運び出されていった。
俺も仕事が後に控えていたこともあって、その日はろくに話もできないまま店を出た。
だけど、思いもしない形でその男性に再会することになる。
「え、どういうことだ?」
「だから、あんたが助けた男性いたでしょ? 南ちゃんって言うんだけど、あなたに会って話したいって言うのよ」
助けたことへのお礼か何か、だと思った。
けれど蓮司の言い方がどこか含みを持っていて、胸の奥に小さな疑問が残る。
その時、最後に見た──弱々しいけど、真っすぐに「ありがとう」と言った男性がふと脳裏をよぎった。
体調も少し気になっていたのもあって、俺は会うことにした。
約束の日。
店に現れたのは、シンプルな服装で菓子折りを手にした、あの日の男性──朝倉南さん。
だが、顔色は前よりも酷く見える。目の下の深いクマ、青ざめた肌、焦点の定まらないような瞳。
健康とは程遠い状態なのに、当たり前のようにそこに立っていた。
けど、蓮司が小声で「いつものことよ」と囁いたのが、妙に説得力のある声音で、俺は何も言えなくなる。
それから挨拶を交わし、南さんの抱えている事情を全て聞いた。
“サブドロップ症候群”。初めて耳にする病名だけど、あの日倒れた理由も、この顔色も、全部が納得いった。
そして切り出された話───『君に”パートナー”を頼みたい』
予想はしていた。相性の良いDomを見つけたら、sub側が必死になって縋ることはよくある話だけど、まして南さんの病状ならなおさらだ。
けれど、胸の奥に、じわりと滲んだ嫌な記憶──。
───────────────────
正直、この外見のせいか、相手に困ることはなかった。
もちろん適当に遊んだことはないし、ちゃんと自分が好意を持った人とだけ付き合ってきた。
だけど、いつも同じだった。
「もっとちょうだい」
「プレイしてよ」
「恋人なんだからいいでしょ?」
みんな、俺のグレアばかりを求めた。
その時、初めて医者に言われて知った。
自分の”特殊なグレア”について。というのも、俺のグレアは、強く相手を酔わせる性質──いわば、”惚れ薬”みたいな中毒性があるらしい。
実際、世界中でそういう人はいるにはいるが、珍しい体質のようだった。
だからこそ、俺自身を見てくれる人は少なかった。
恋愛をしても、付き合えば結局グレアだけを欲しがられる。
それが、自分の存在を無視されてるような気がして、いつの間にかプレイそのものが怖くなった。
だから、南さんには悪いけど、この話も断るつもりだった。
そう決めていたのに──。
『俺は薫くんの気持ちを尊重したい』
まっすぐな目でそう言われた。
俺のグレアを浴びて、そんな言葉を返すなんて、予想もしなかった。
いつもならもっと欲しがって、離れたがらない人ばかりだったから。
なのに、南さんは俺に選ばせてくれた。
自分の病状が良くなるかもしれない未来を捨てても、俺の意思を優先した。
初めてだった。
初めて、「薫」という俺自身をそのまま見てもらえた気がした。
俺は逃げるように席を立とうとした南さんの腕を思わず掴んで、自分でも驚くほど素直に言った。
「その話……引き受けます。俺、南さんのパートナーになってみたいです」
その日、たまたま職場の近くにある親友の店に寄ろうとしたら、入口に見えた人だかり。何やらただ事ではない様子だった。
嫌な予感がして扉を押し開けると、倒れている人物と蓮司の姿が目に飛び込んだ。
その人の肌の色、呼吸の浅さ──一目でサブドロップだとわかった。
通常、サブドロップはDomのグレアで精神を安定させ、必要なら医療処置に移る。
その知識があった俺は、身体が先に反応した。
蓮司の言葉を遮って、俺はその人に微弱なグレアを流す。
すると、みるみるうちにその人の頬に血色が浮かび、呼吸が安定する。
一瞬、蓮司が驚いた顔をしたのが視界の端に見えたけど、まもなく救急隊が到着し、その人は運び出されていった。
俺も仕事が後に控えていたこともあって、その日はろくに話もできないまま店を出た。
だけど、思いもしない形でその男性に再会することになる。
「え、どういうことだ?」
「だから、あんたが助けた男性いたでしょ? 南ちゃんって言うんだけど、あなたに会って話したいって言うのよ」
助けたことへのお礼か何か、だと思った。
けれど蓮司の言い方がどこか含みを持っていて、胸の奥に小さな疑問が残る。
その時、最後に見た──弱々しいけど、真っすぐに「ありがとう」と言った男性がふと脳裏をよぎった。
体調も少し気になっていたのもあって、俺は会うことにした。
約束の日。
店に現れたのは、シンプルな服装で菓子折りを手にした、あの日の男性──朝倉南さん。
だが、顔色は前よりも酷く見える。目の下の深いクマ、青ざめた肌、焦点の定まらないような瞳。
健康とは程遠い状態なのに、当たり前のようにそこに立っていた。
けど、蓮司が小声で「いつものことよ」と囁いたのが、妙に説得力のある声音で、俺は何も言えなくなる。
それから挨拶を交わし、南さんの抱えている事情を全て聞いた。
“サブドロップ症候群”。初めて耳にする病名だけど、あの日倒れた理由も、この顔色も、全部が納得いった。
そして切り出された話───『君に”パートナー”を頼みたい』
予想はしていた。相性の良いDomを見つけたら、sub側が必死になって縋ることはよくある話だけど、まして南さんの病状ならなおさらだ。
けれど、胸の奥に、じわりと滲んだ嫌な記憶──。
───────────────────
正直、この外見のせいか、相手に困ることはなかった。
もちろん適当に遊んだことはないし、ちゃんと自分が好意を持った人とだけ付き合ってきた。
だけど、いつも同じだった。
「もっとちょうだい」
「プレイしてよ」
「恋人なんだからいいでしょ?」
みんな、俺のグレアばかりを求めた。
その時、初めて医者に言われて知った。
自分の”特殊なグレア”について。というのも、俺のグレアは、強く相手を酔わせる性質──いわば、”惚れ薬”みたいな中毒性があるらしい。
実際、世界中でそういう人はいるにはいるが、珍しい体質のようだった。
だからこそ、俺自身を見てくれる人は少なかった。
恋愛をしても、付き合えば結局グレアだけを欲しがられる。
それが、自分の存在を無視されてるような気がして、いつの間にかプレイそのものが怖くなった。
だから、南さんには悪いけど、この話も断るつもりだった。
そう決めていたのに──。
『俺は薫くんの気持ちを尊重したい』
まっすぐな目でそう言われた。
俺のグレアを浴びて、そんな言葉を返すなんて、予想もしなかった。
いつもならもっと欲しがって、離れたがらない人ばかりだったから。
なのに、南さんは俺に選ばせてくれた。
自分の病状が良くなるかもしれない未来を捨てても、俺の意思を優先した。
初めてだった。
初めて、「薫」という俺自身をそのまま見てもらえた気がした。
俺は逃げるように席を立とうとした南さんの腕を思わず掴んで、自分でも驚くほど素直に言った。
「その話……引き受けます。俺、南さんのパートナーになってみたいです」
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