愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

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68話 長男と次男

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事件の日から一週間──。
歩夢と優兄ちゃんは未だ目を覚まさず、静かに眠り続けている。

その間、俺はほとんど二人の傍を離れなかった。
看病と言っても、できることは限られている。
それでも、そばにいることだけはやめられなかった。

たまに、時間を忘れていると、居候中のアイザックが迎えに来る。
要は、俺が無茶をしないようにするための監視役だ。

それはそうと──あの日、突然家に来た見知らぬ男。
後で聞いた話では、ザックたちの旧友らしい。
詳しいことは教えてもらえなかったが、訳あっての訪問だという。

ただ、俺にとって第一印象は最悪だった。
それ以降会うこともなく、自然と警戒対象に入っている。

それから、あの日俺たちの姿が一時的に消えた件。
ザックから、俺のスキルが暴走した結果だと知らされた。

まさか、自分が原因だったなんて思いもしなかった。
でも今思えば、歩夢と優兄ちゃんを守りたいという気持ちが、あの力を引き出したのかもしれない。
もう少し落ち着いてきたら、また暴走が起きないよう練習をしようとベンさんたちとは話がまとまっている。

そんなこんなで、ようやく訪れた落ち着いた日々。
俺は日課になっている二人の食事の準備をしていた。

意識がないから、今はスープが中心だ。
それでも、喉を動かして飲んでくれるのを見ると、胸の奥が少し安心する。
トレーを手に、二階の部屋の扉を開ける。
向こうの世界でも、歩夢が体調を崩すことはよくあったから、看病はもう慣れっこだ。

歩夢、そして優兄ちゃんへと順番に食事を与え、最後に優兄ちゃんへスプーンを運ぼうとした、その時だった。

わずかに、身体が動いた。

反射的に目線を向けると、しかめるような表情。
そして、ゆっくりと、長いまつげに縁取られた瞳が開かれた。

「……っ、優兄ちゃん!」

「……太一……?」

言葉より先に、身体が動いた。
俺は優兄ちゃんに抱きつき、優兄ちゃんは、寝起きで少し戸惑ったあと、優しく俺の頭を撫で返してくれた。

俺はそのまま階下へ駆け下り、ベンさんたちにも兄ちゃんが目覚めたことを伝えた。
それからすぐに医師の診察が入り、俺はザックと別室で待つことになった。

意識がない間も、診察は何度か受けていたけど、その度、俺は必ず別室待機だった。
ベンさんからそうするように言われて、初めに理由を聞いても、ベンさんは教えてくれなかった。
「話す時が来たら──」と、いつも曖昧に濁される。

それでも、優兄ちゃんが無事なら、俺はそれでよかった。

無事に診察は終わり、結果は問題なしで、あとは安静にして、回復を待つだけとのことだ。

その言葉に、胸を撫で下ろす。
あと、残る心配は、歩夢だった。

歩夢は、極限まで魔力を放出した反動で、回復に時間がかかるらしいと医師から言われていた。
さらに、魔力暴走による後遺症が出る可能性も否定できないという。

「太一君、お兄さんが呼んでるよ」

そんな心配の中、そうベンさんに声をかけられ、俺はすぐ部屋へ向かった。

コンコン。

「はい」

懐かしい声だ──。

「優兄ちゃん、太一だけど……入るよ」

扉を開けると、ベッドに身体を預け、こちらを見る兄の姿。
昔に比べるとだいぶやつれてしまったけど、その面影は変わらない。

久しぶりに向き合う優兄ちゃん、俺は思ったように言葉にできなかった。
そんな沈黙を破ったのは、優兄ちゃんだ。

「太一、背が伸びたね。元気そうで安心した」

「っ…、ごめん、兄ちゃん。俺、あの時も、今回も……」

その言葉に兄ちゃんは首を振る。

「太一が思いつめることなんて何もないよ。それに、こうしてまた会えたんだ。それが一番嬉しい」

屈託のない優しい笑顔。
その表情に、胸に引っかかっていた過去の記憶や今回の出来事が、消えないという事実はあるけれど、それでも少しだけ軽くなった気がした。

───────────────────

side優人

目を覚まして最初に見えたのは、弟の泣きそうな顔だった。
それだけで、どれほど心配をかけたかがわかる。

霊聴のスキルで心の内を覗かなくても、十分すぎるほどだ。
それでも聞こえてくるのは、自分を責める声ばかり。

……やっぱり、昔のことも引きずらせてしまっている。

申し訳なさが胸を締め付けた。

けれど、それとは別に、知れたこともあった。
診察の際に会った、中年の男性──ベンさん。

この人が弟たちを救い、養子として迎え入れてくれたこと。
太一と歩夢に、それぞれ想い人がいること。

ベンさんから聞こえてくる内容はどれも兄として、素直に嬉しかった。

無事、診察を終え、部屋にぼくとベンさんの二人だけになった際、僕はベンさんに頭を下げた。

「ありがとうございます」

「……?」

唐突な礼に、戸惑う表情。

「弟たちのこと、それと……僕の身体の《傷》についても、配慮してくださったんですよね」

「……もしかして、──私の考えていることが読めるのかい?」

僕はその質問に素直に頷いた。
普段、スキルの話は、誰にもしない。けれど、太一の中にあるこの人への信頼が、はっきりと伝わってきた。
それだけで、十分だった。

ジオナルドに囚われていた間につけられた
切り傷に火傷、それ以外にも数え切れない痕。

正直、太一たちに見せられるものじゃない。
あれを見せれば、また自分を責めるだろう。

だから、その配慮がありがたかった。

「……それでジオナルドは君を──。その様子だと、番のことも──」

ベンさんからは病み上がり早々に、番の話をしてしまうことへの申し訳なさを感じた。
けれど、既に僕の中に流れてきた情報──僕に運命の番がいるという…。

だけど、僕の気持ちとしては嬉しい感情は全くなく、無に近かった。

というのも、この世界に来たばかりの頃、ジオナルド以外にも僕を見て囲おうとした奴は少なくない。
その値踏みするような視線と性的な視線を浴び続ける日々に、次第と僕も周りを信用できなくなっていった。
それこそ、優しい人もいたけど、その優しさにも、必ず見返りがあった。

だから、期待なんてしていない。

「君は、どうしたい?」

「……自分の目で見て、判断します」

霊聴の前では、誰も嘘をつくことは許されない。

「その人が、どういう人なのか。それを確かめて、決めようと思います」

そう、僕は淡々と、告げた。
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