愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

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70話 歩夢の夢 

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なんだか、夢を見ているような気分だった。
身体は軽くて、浮かんでいるような、意識もどこか曖昧だ。

──あぁ、このまま消えてしまいたい。

そんな考えがよぎった、その時だった。

『ゅ……、あ……む』

微かに、耳に届く声。

『……ゆ……あゆ……』

この声は──。

『……あゆむ』

はっきりと呼ばれて、意識が揺さぶられる。

(メルエム…?)

でも、声に出したはずの言葉は、音にならなかった
それでも、メルエムの声は頭の奥に響いてくる。

『いつまで寝てるの』

いつもの聴きなれた優しい声。
でも、僕はその質問に答えられなかった。

なんだったら、このまま眠っていたい。
僕みたいな弱い存在がいなければ、誰も傷つかない。僕のせいで、誰かが犠牲になる必要もない。
そう思った途端、暗い靄がじわじわと意識を覆っていく。

──でも。

『歩夢の番も、寂しがってるよ』

その一言で、靄がぴたりと止まった。

(……番?)

でも、僕が想っているのはディランさんだ。
もしその番が、別の誰かなら、今さら出会っても──。

『歩夢の番は──ディランだよ』

(……え?)

突然のメルエムの言葉に混乱する。
ディランさんには気になる人が…好きな人がいるはず。
本人もそう言っていた、だから僕は運命の番が見つかったんだって──。

『それは本人に直接聞いてみるといいよ──』

その言葉とともに遠ざかっていく声。

だって、ディランさんには気になる人がいるって。
好きな人がいるって、そう言っていたはずで。
だから僕は、運命の番が見つかったんだって——。

『それは、本人に直接聞いてみるといいよ』

そう言い残して、メルエムの声は遠ざかっていく。

嘘をつくはずがない。
だからこそ、気になって仕方がなかった。

(ねぇ、ディランさん…、ディランさんの好きな人って──。)

その問いで、胸がいっぱいになった瞬間。
意識の奥に、強い光が差し込んできた。

「……まぶし……あれ……僕……?」

まるで、長い夢から覚めたような感覚。
意識はまだふわふわしているけれど、肩を覆う包帯や、身体の痛みが、現実をはっきりと教えてくれる。

──そうだ。僕、あの後……。

「あゆむ」

目が覚めて、最初に呼ばれた名前。
夢の中でも聞いていた声だ。

「……メルエム」

視線の先には、安堵と、少し怒った表情を浮かべたメルエムがいた。

「もう……本当に。心配したんだから!」

そう言って、勢いよく抱きついてくる。
額に感じる温もりが、確かに現実だった。

話を聞くと、僕はあの日から一ヶ月近く眠り続けていたらしい。
精霊魔法の暴走で寿命の三分の一を削り、魔力循環経路にも損傷が残ったという。
つまり──魔法がうまく回らず、体調不良がつきものの身体となった。

……でも、それは自業自得だ。
兄ちゃんを守るための選択だったから、その結果に、後悔はない。

そんな説明の最中、不意に扉が開いた。

そこに立っていたのは——太一兄ちゃんと、優兄ちゃん。

二人が並んでいる姿を、また見られるなんて思っていなかった。
思わず呆然としていると、二人も僕が起きていることに気づいて固まる。

「……おはよう」

やっと絞り出した声に、二人が一斉に動いた。

両側から、強く、包み込むように抱きしめられる。

「よかった……目、覚めないかと思った」

「歩夢……本当によかった……」

胸が、ぎゅっと締め付けられる。
僕も、痛みをこらえながら二人に抱きついた。

——ああ、やっと。
みんな、無事だった。

それからお兄ちゃんたちはベンさんへ知らせに部屋を出て行ったけど、普段見られない二人の慌てた様子に僕を笑みをこぼす。けれど、またすぐにドアのノック音が響いた。

兄ちゃんたちかと思ったけれど——違った。
そこに立っていたのは、僕の“好きな人”。

「歩夢くん」

「……ディランさん」

安堵と、わずかな緊張が入り混じった表情。
目を逸らせず、ただ見つめてしまう。

「魔力の揺らぎを感じてね。もしかして、と思って」

そう言いながら、ゆっくりと近づいてくる。
そして目の前で膝をつき、流れるように僕の手を取った。

その瞬間気付いた──指輪がない。

そう思い返して、暴走してしまう直前、指輪がはじけ飛んだことを思いだす。
指輪をしていない状態でディランさんに会うのは初めてだ。
そのことに一人緊張に身を固まらせた。

「……君が無事で、本当によかった」

その声は、確かな安堵に満ちていた。

「本当はね……運命だと分かる前に伝えたかった」

そうしてディランさんは、はっきりと僕を見つめる。

「歩夢くん。──君が”好き”だ」

「……え、……でも、気になる人がいるって……」

混乱する僕に、真剣な視線が返ってくる。

「はじめは力になりたいっていう善意だった。けれど、いつの間にか君が気になって仕方なかった。…私は、君が運命だとわかる前から、既に君に落ちていたよ」

胸が、じんわりと熱くなる。

——両想い、だったんだ。

恥ずかしさと、嬉しさが一気に込み上げる。

「……本当に、僕で……いいんですか」

「君じゃなきゃ、駄目だ」

その言葉に、堪えていた感情が溢れ、僕は衝動のまま、ディランさんに抱きついた。
ディランさんも僕をしっかりと受け止めてくれて、優しく腕の中へと抱き込んでくれる。

柑橘のような、爽やかな香り。
──ああ、安心する。

僕はその香りに顔を埋めながら、今度は恐怖も不安もないまま、静かに眠りへと落ちていった。
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