愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

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70話 ジオナルドのその後

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街では何事もなかったかのように、穏やかな時間が流れている。
だが、騎士団本部の地下深く――最下層の牢獄では、その平和とあまりにかけ離れた殺気が霧のように溜まっていた。
今回の事件の容疑者、ジオナルド侯爵が幽閉されている牢へと続く通路。
先頭を歩くのは騎士団長ノア。その後ろにアイザック、ディラン、そしてベンが続く。

目的の牢に辿り着いた瞬間、全員の視線が一斉に一点へと集まった。
片腕を失いながらも、ジオナルドは椅子にふんぞり返るように腰掛け、鉄格子越しにこちらを見下ろしている。


自分の置かれた立場を理解していないかのような尊大な態度――歪んだ確信に満ちた笑みが、その口元に張り付いている。

「やはり、片腕程度じゃ懲りないみたいだよ」

低く吐き捨てるようにディランが言う。
それに対し、アイザックも顔をしかめ、込み上げる怒りを噛み殺していた。
そんな中、一番殺気が隠せていないノアが沈黙を破る。

「四肢を削ぎ、舌を落として喋れなくすれば、多少は理解するか」

「それだとショック死するだろ。……逆に、甘いな」

殺すことは簡単だ。
だが、この場にいる誰もが同じ結論に辿り着いていた。
この男にとって、「死」は軽すぎる。

それぞれが運命の番の姿を思い浮かべ、抑えきれない殺意を滲ませる中――
ただ一人、感情から距離を置いたまま状況を見つめていたベンが、静かに口を開いた。

「「いい案がある。今の君たちだと、衝動で終わらせかねない」

そう言いながら、ベンは牢の中へと手をかざす。
途端に牢の床に魔方陣が刻まれ、ゆっくりと、その存在を主張し始めた。

やがて魔方陣の中心から、異形の“角”が姿を現す。

「今ほど、自分が魔法に長けていて良かったと思うことはないだろう」

感情のこもらない微笑。
それが、かえって背筋を凍らせた。

現れたのは、冒険者なら誰もが名を知る魔獣。
黒光りする歪な身体、複数の腕、捻じ曲がった顔と鋭い角。
魔法は通じず、力でしか制圧できない厄介な存在。
そして、精力を糧に、相手が尽きるまで貪り続ける――それだけのために存在する魔獣。

その場にいた全員が、これから起きることを悟った。
ノアはベンの意図を理解し、あえてジオナルドの拘束を解く。

次の瞬間、ジオナルドの表情が変わった。
冷や汗は消え、代わりに安堵と優越の笑みを浮かべる。

「はッ……判断を誤ったな。こいつらをわしの配下に――」

言葉の途中で、違和感に気づいたのだろう。
慌てて魔法を発動しようとするが、何も起こらない。

「ここは重罪人用の牢だ。中にいる者は魔法が使えない」

ノアは淡々と告げる。

「……残念だったな」

その直後、魔獣は扉に縋り、抵抗の術もないジオナルドを容赦なく押さえつけた。
そして、準備も与えられぬまま、無理やりねじ込まれる衝撃に、下の肉は裂け、床には奴の血が滲む。
さらに上の口も塞がれ、ジオナルドは白目を剥き、言葉にならない声を喉から漏らした。
よだれと涙、何か判別のつかないものを垂れ流しながら、ただ身体を痙攣させる。

地下牢に反響し続ける悲鳴。
それも時間とともに掠れ、次第に息すら満足にできなくなっていく。

それを見下ろしながら、番を持つ三人は心のどこかで思っていた。
――これでも、まだ甘いのではないかと。

だが、その考えはすぐに覆されることになる。

限界が近づいたのを見計らい、ベンが再び魔法を展開すると、牢全体が淡く光り、徐々にその光が収まっていく。
そして気づけば、牢屋内でボロ雑巾のように項垂れていたジオナルドの身体は、まるで何事もなかったかのように元へと戻っていた。

「……ッな、なぜ……!」

「簡単に終わらせるわけがないだろう」

ベンは変わらぬ冷めきった笑顔で、そう返す。

既に、牢獄内は、彼の手によって作り変えられ、中の者が寿命を迎えるまで、死の直前で自動的に再生する魔法が掛けられていた。
逃げも、終わりも、赦しもない。

ただ追い詰められ、回復され、再び貪られる。──それが、永遠に続く。

――生きながら壊れていくには、十分すぎる時間だった。

それを可能にしているのも、ベンの高度な魔法あってのもの。

三人は改めて理解した。
最も怒らせてはいけない人が、彼であることを。

そんな無惨な行為が続く中、その光景から視線を外し、やっとそれぞれが、守るべき番の姿を胸に浮かべる。
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