3 / 76
2話 10年後の俺たち
しおりを挟む
それから十年が経った。
あの日から逃げるように時間は進み、気づけば俺は二十三歳、歩夢は十九歳になった。
高校を出たあと、俺は知り合いの銀師に弟子入りした。
昔から手先が器用だったのもあって、気づけば自分の作品を店に置いてもらえるほどになっていた。
好きなことを仕事にできるなんて夢みたいで、銀細工の仕事は今の俺の誇りだ。
歩夢は歩夢で、絵を描く才能を活かしてデザインの道に進んだ。
専門学校に通いながら派遣のデザイナー業をしていて、繊細で惹きつけられる作品を次々に生み出す。
デザインなんてわからない俺ですら、見惚れるほどの完成度だ。
うちの店の品も何度かデザインしてもらったが、どれも売れ行きが良くて、兄として嬉しくなる。
けれど、幸せなんて本当に脆い。
平日の昼過ぎ。
新作のデザインを歩夢と話していたとき、店のベルがカラン、と鳴った。
入口には帽子を深くかぶり、長いコートを羽織った男が立っていた。顔は見えない。
「いらっしゃいませ」
いつものように声をかける。けれど男は、一歩も動かない。
なんだこいつ……と歩夢と視線を交わした次の瞬間。
「テメェらのせいで俺の人生は台無しだ……! どうせ死刑になるなら、テメェらも道連れにしてやる‼︎」
そう叫びながらこちらへ走り出し、手元には光る何かが一瞬きらっと見えた。
まさか──っ!
腹に熱い衝撃が走って、ようやく理解した。
その光の正体はナイフだった。
「クソ親父ッ……!」
腹の辺りが焼けるように熱を持つ。
なんで、あいつが……!
そこで俺の視界の端に震えて固まる歩夢の姿があった。
次に、歩夢が狙われる前になんとかしないと。
そう思ったのに、逆に歩夢が駆け寄ってきて、俺を庇うように覆いかぶさってきた。
「歩夢、逃げろ……っ!」
「……っ、いやだ……!」
優兄ちゃんがいなくなって途端に喋らなくなった歩夢が、涙目で俺を必死に押さえるようにしている。
守られるなんて、本末転倒だろ……。
「テメェらなんか死んじまえっ!」
終わった、と思った。
俺は優兄ちゃんも守れなかったくせに、今度は歩夢すら守れないのか。
そんな悔しさと情けなさで胸が潰れそうだった。
だが、その衝撃が来ることはなかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開けた。
「……は?」
ふと、零れた一言。
さっきまで店にいたはずの俺たちは、どう見ても森の中に立っていた。
木々の匂い、土の湿気。現実味がなさすぎる。
なにがどうなって……。
腹の痛みで頭が回らず、理解が追いつかない。
視界が揺れて、歩夢の呼ぶ声だけが遠く響く。
その声を最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。
あの日から逃げるように時間は進み、気づけば俺は二十三歳、歩夢は十九歳になった。
高校を出たあと、俺は知り合いの銀師に弟子入りした。
昔から手先が器用だったのもあって、気づけば自分の作品を店に置いてもらえるほどになっていた。
好きなことを仕事にできるなんて夢みたいで、銀細工の仕事は今の俺の誇りだ。
歩夢は歩夢で、絵を描く才能を活かしてデザインの道に進んだ。
専門学校に通いながら派遣のデザイナー業をしていて、繊細で惹きつけられる作品を次々に生み出す。
デザインなんてわからない俺ですら、見惚れるほどの完成度だ。
うちの店の品も何度かデザインしてもらったが、どれも売れ行きが良くて、兄として嬉しくなる。
けれど、幸せなんて本当に脆い。
平日の昼過ぎ。
新作のデザインを歩夢と話していたとき、店のベルがカラン、と鳴った。
入口には帽子を深くかぶり、長いコートを羽織った男が立っていた。顔は見えない。
「いらっしゃいませ」
いつものように声をかける。けれど男は、一歩も動かない。
なんだこいつ……と歩夢と視線を交わした次の瞬間。
「テメェらのせいで俺の人生は台無しだ……! どうせ死刑になるなら、テメェらも道連れにしてやる‼︎」
そう叫びながらこちらへ走り出し、手元には光る何かが一瞬きらっと見えた。
まさか──っ!
腹に熱い衝撃が走って、ようやく理解した。
その光の正体はナイフだった。
「クソ親父ッ……!」
腹の辺りが焼けるように熱を持つ。
なんで、あいつが……!
そこで俺の視界の端に震えて固まる歩夢の姿があった。
次に、歩夢が狙われる前になんとかしないと。
そう思ったのに、逆に歩夢が駆け寄ってきて、俺を庇うように覆いかぶさってきた。
「歩夢、逃げろ……っ!」
「……っ、いやだ……!」
優兄ちゃんがいなくなって途端に喋らなくなった歩夢が、涙目で俺を必死に押さえるようにしている。
守られるなんて、本末転倒だろ……。
「テメェらなんか死んじまえっ!」
終わった、と思った。
俺は優兄ちゃんも守れなかったくせに、今度は歩夢すら守れないのか。
そんな悔しさと情けなさで胸が潰れそうだった。
だが、その衝撃が来ることはなかった。
不思議に思い、恐る恐る目を開けた。
「……は?」
ふと、零れた一言。
さっきまで店にいたはずの俺たちは、どう見ても森の中に立っていた。
木々の匂い、土の湿気。現実味がなさすぎる。
なにがどうなって……。
腹の痛みで頭が回らず、理解が追いつかない。
視界が揺れて、歩夢の呼ぶ声だけが遠く響く。
その声を最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。
241
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる