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26話 楽しい時間と太一の番
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今日は、ついにお祭り当日だ。
街のライトアップが始まる夕方に出かける予定で、のんびりしていたつもりが、気づけばもう時間になっていた。
例の耳飾りも、ちゃんと身につけている。
初めて“昼ではない”街へ足を踏み入れる。
昼間とはまるで別の顔を見せる景色に、胸が自然と高鳴った。
中心街へ近づくほどに人の流れが厚くなり、やがて広場らしき場所に辿りつく。
見上げれば、ノウゼンカズラの花が灯りに照らされて、風に揺れるたび金色の粉が舞ったように見えた。
街路に並んだ無数のランプが、夜の黒に橙色の川をつくっている。
「すご……。夜の方が綺麗って、こういうことだったんだ」
「ふふ、ノウゼンカズラだけじゃなくてランプも灯るから、本当に綺麗なのよ」
歩夢も目をきらきらさせていた。
「ぼ、ぼく……今ならいくらでも絵が描けそう」
その様子につられ、俺まで浮き立つ気持ちになる。
そのあとは屋台をいくつも見て歩き、食べ歩きながら笑っていた。
俺と歩夢はこれまで見たこともない巨大な串焼きに目を丸くし、それをベンさんとリサさんが微笑ましそうに眺めている。
時間はあっという間に過ぎ、祭りの目玉──ランタンの打ち上げの時間が近づいた。
毎年いちばんの盛り上がりらしく、人の気配がどんどん熱を帯びていく。
俺たちも会場へ向かったが、そこはもう人で溢れていて、夜気よりも体温が勝っていた。
たまたま空いたベンチを見つけ、開始までそこで休むことになる。
だけど、食べ歩きでたくさん食べ、飲みしていたこともあって、急にトイレへ行きたくなる。
たまたま運よく空いていたベンチを見つけ、打ち上げ開始までそこで休もうということになった。
だけどずっと食べ歩いてたのもあって俺はトイレに行きたくなった。
「ベンさん、俺ちょっとお手洗いに行きたいんだけど…」
「あぁ、あっちの通りを右に行って、突き当たりを左。ついて行こうか?」
「大丈夫!何かあったらこれもあるから」
耳飾りを指さして笑ってみせる。
ベンさんたは心配そうに苦笑する。
それから人混みをかき分けながら進むと、教えられた通りにトイレを見つけることができた。
ただし想像以上の混雑で、用を済ませるまでに思ったより時間を取られてしまう。
「早く戻らないと」
「早く戻らないと」
そう思い、足早に来た道を戻ろうとした、そのとき。
ふいに、甘い香りが鼻先を掠めた。
……なんだ、この匂い。
熟れた果実を煮詰めたような、逃がさない甘さ。
胸の奥がざわりと波打ち、理由もないのに、その香りへと強く惹かれる。
気づけば足がそちらへ向かおうとしていた。
なんで……。
香りはみるみる濃くなり、それに合わせて思考が霧に包まれていく。
体の内側がじんじん熱く、息は浅く震えて、胸がつまる。
どうしようもない熱を逃がすために、壁に手をついてしゃがみ込んだ。
その時、声が落ちてきた。
「……やっと見つけた」
「え?」
顔を上げると、数メートル先に見知らぬ男が立っていた。
視線が触れた瞬間、背骨の奥に電流が走ったような感覚が走る。
あいつが欲しい。
あいつのものになりたい。
今すぐ繋がりたい。
自分の内側に存在するはずのない渇きが、理性の外側から押し寄せる。
あの男を本能が求めている。
誰か別の人間に中身をすり替えられたみたいで、冷たい汗が滲んだ。
男はゆっくり、でも確実に距離を詰めてくる。
怖い。
逃げなきゃ。
でも、体の奥では別の熱が男を呼んでいた。
混乱の中、思わず耳飾りに触れる。
その瞬間、祭りの喧騒がふっと遠のき、気づけば家のリビングに立っていた。
膝が震えて、次の瞬間には腰が抜けた。
「なんだったんだ……あれ……。くそ……落ち着け……」
とにかくその熱を逃がしたくて、俺はただその場にうずくまることしかできなかった。
街のライトアップが始まる夕方に出かける予定で、のんびりしていたつもりが、気づけばもう時間になっていた。
例の耳飾りも、ちゃんと身につけている。
初めて“昼ではない”街へ足を踏み入れる。
昼間とはまるで別の顔を見せる景色に、胸が自然と高鳴った。
中心街へ近づくほどに人の流れが厚くなり、やがて広場らしき場所に辿りつく。
見上げれば、ノウゼンカズラの花が灯りに照らされて、風に揺れるたび金色の粉が舞ったように見えた。
街路に並んだ無数のランプが、夜の黒に橙色の川をつくっている。
「すご……。夜の方が綺麗って、こういうことだったんだ」
「ふふ、ノウゼンカズラだけじゃなくてランプも灯るから、本当に綺麗なのよ」
歩夢も目をきらきらさせていた。
「ぼ、ぼく……今ならいくらでも絵が描けそう」
その様子につられ、俺まで浮き立つ気持ちになる。
そのあとは屋台をいくつも見て歩き、食べ歩きながら笑っていた。
俺と歩夢はこれまで見たこともない巨大な串焼きに目を丸くし、それをベンさんとリサさんが微笑ましそうに眺めている。
時間はあっという間に過ぎ、祭りの目玉──ランタンの打ち上げの時間が近づいた。
毎年いちばんの盛り上がりらしく、人の気配がどんどん熱を帯びていく。
俺たちも会場へ向かったが、そこはもう人で溢れていて、夜気よりも体温が勝っていた。
たまたま空いたベンチを見つけ、開始までそこで休むことになる。
だけど、食べ歩きでたくさん食べ、飲みしていたこともあって、急にトイレへ行きたくなる。
たまたま運よく空いていたベンチを見つけ、打ち上げ開始までそこで休もうということになった。
だけどずっと食べ歩いてたのもあって俺はトイレに行きたくなった。
「ベンさん、俺ちょっとお手洗いに行きたいんだけど…」
「あぁ、あっちの通りを右に行って、突き当たりを左。ついて行こうか?」
「大丈夫!何かあったらこれもあるから」
耳飾りを指さして笑ってみせる。
ベンさんたは心配そうに苦笑する。
それから人混みをかき分けながら進むと、教えられた通りにトイレを見つけることができた。
ただし想像以上の混雑で、用を済ませるまでに思ったより時間を取られてしまう。
「早く戻らないと」
「早く戻らないと」
そう思い、足早に来た道を戻ろうとした、そのとき。
ふいに、甘い香りが鼻先を掠めた。
……なんだ、この匂い。
熟れた果実を煮詰めたような、逃がさない甘さ。
胸の奥がざわりと波打ち、理由もないのに、その香りへと強く惹かれる。
気づけば足がそちらへ向かおうとしていた。
なんで……。
香りはみるみる濃くなり、それに合わせて思考が霧に包まれていく。
体の内側がじんじん熱く、息は浅く震えて、胸がつまる。
どうしようもない熱を逃がすために、壁に手をついてしゃがみ込んだ。
その時、声が落ちてきた。
「……やっと見つけた」
「え?」
顔を上げると、数メートル先に見知らぬ男が立っていた。
視線が触れた瞬間、背骨の奥に電流が走ったような感覚が走る。
あいつが欲しい。
あいつのものになりたい。
今すぐ繋がりたい。
自分の内側に存在するはずのない渇きが、理性の外側から押し寄せる。
あの男を本能が求めている。
誰か別の人間に中身をすり替えられたみたいで、冷たい汗が滲んだ。
男はゆっくり、でも確実に距離を詰めてくる。
怖い。
逃げなきゃ。
でも、体の奥では別の熱が男を呼んでいた。
混乱の中、思わず耳飾りに触れる。
その瞬間、祭りの喧騒がふっと遠のき、気づけば家のリビングに立っていた。
膝が震えて、次の瞬間には腰が抜けた。
「なんだったんだ……あれ……。くそ……落ち着け……」
とにかくその熱を逃がしたくて、俺はただその場にうずくまることしかできなかった。
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