28 / 76
27話 side 番
しおりを挟む
俺たち冒険者は、ある依頼をこなしていた。
「なんで俺たちが見回りなんてしなくちゃいけねぇんだよ!」
「お祭り行きたかったっすよ~……」
「しょうがねぇだろ。騎士団は遠征中でいないんだ。ほら、愚痴言ってないで歩け」
「待ってくださいよ~アイザックさぁん!」
「アイザックさんの鬼~!!」
年に一度のノウゼンカズラ祭で、街はどこもかしこも浮かれ騒ぎだ。
例年は酔っぱらいを騎士団が回収して回るんだが、その騎士団がいないせいで、今年は俺たちの仕事になったというわけだ。
三人一組で巡回しながら歩いていると、ふいに甘い香りが鼻を掠めた。
……ん?
足が止まる。
俺は、もう一度、静かに息を吸い込む。
果実が熟れきったような、濃く深い甘さ。
その匂いに触れた瞬間、胸の奥が震えた。
胸のざわつきはすぐ腹の底に落ち、そこから熱になって全身をじんわり満たしていく。
その抗いがたいような感覚。
まさか──。
ある可能性が頭をよぎった瞬間、理性より先に足が動いていた。
「ちょっ、アイザックさん!? どこ行くんすか!」
「アイザックさーん!!」
仲間の声が後方で響く。遠い世界の雑音みたいだ。
今は、この匂いだけが俺の世界を占めていた。
数分ほど全力で走り続け──匂いが飽和するほど濃くなった場所で、俺は足を止めた。
街灯の裏。
影になった場所で、小さくうずくまる影がある。
……間違いない。
胸の奥で何かがはっきりと鳴った。
そこで初めて、自分の心臓が異様なほど速く打っていることに気づく。
「……やっと見つけた」
そう、声が勝手に漏れた。
その瞬間、その子が顔を上げる。
目がぶつかった瞬間、全身を鋭い稲妻が貫いた。
今すぐ抱き寄せたい。
押し倒して、自分の匂いを刻みつけたい。
甘やかして、俺がいないと生きられないくらい、徹底的に堕としてしまいたい。
そんな危うい欲が、気づけば理性を押し流していた。
胸の奥の“虎”が、ゆっくりと目を覚ましたみたいだ。
俺はその子へ向かって歩み寄る。
一歩、また一歩。
距離が縮まるほど、体の奥で渇きが強くなる。
そのとき──
その子が怯えたように目を見開き、ふっと輪郭が揺らいで──消えた。
「な、転移魔法…っ⁈」
しばらく呆然と立ち尽くす。
転移なんて、上級の中でも選ばれた者しか扱えない魔法だ。
一体、あの子は何者なのか。
だが、それ以上に胸に焼き付くのは──“逃げられた”という事実。
喉の奥が低く鳴る。
追いかけたい。
出会った瞬間に刻まれた衝動が、血の中でうずく。
「綺麗な子だったな……まさか俺の番が、落ち人だったとは──」
しかも、あの子がしていた耳飾り──あいつらがしてたのと同じものだ。
そこで俺は状況理解し、すぐさま仲間の元へと戻った。
「なんで俺たちが見回りなんてしなくちゃいけねぇんだよ!」
「お祭り行きたかったっすよ~……」
「しょうがねぇだろ。騎士団は遠征中でいないんだ。ほら、愚痴言ってないで歩け」
「待ってくださいよ~アイザックさぁん!」
「アイザックさんの鬼~!!」
年に一度のノウゼンカズラ祭で、街はどこもかしこも浮かれ騒ぎだ。
例年は酔っぱらいを騎士団が回収して回るんだが、その騎士団がいないせいで、今年は俺たちの仕事になったというわけだ。
三人一組で巡回しながら歩いていると、ふいに甘い香りが鼻を掠めた。
……ん?
足が止まる。
俺は、もう一度、静かに息を吸い込む。
果実が熟れきったような、濃く深い甘さ。
その匂いに触れた瞬間、胸の奥が震えた。
胸のざわつきはすぐ腹の底に落ち、そこから熱になって全身をじんわり満たしていく。
その抗いがたいような感覚。
まさか──。
ある可能性が頭をよぎった瞬間、理性より先に足が動いていた。
「ちょっ、アイザックさん!? どこ行くんすか!」
「アイザックさーん!!」
仲間の声が後方で響く。遠い世界の雑音みたいだ。
今は、この匂いだけが俺の世界を占めていた。
数分ほど全力で走り続け──匂いが飽和するほど濃くなった場所で、俺は足を止めた。
街灯の裏。
影になった場所で、小さくうずくまる影がある。
……間違いない。
胸の奥で何かがはっきりと鳴った。
そこで初めて、自分の心臓が異様なほど速く打っていることに気づく。
「……やっと見つけた」
そう、声が勝手に漏れた。
その瞬間、その子が顔を上げる。
目がぶつかった瞬間、全身を鋭い稲妻が貫いた。
今すぐ抱き寄せたい。
押し倒して、自分の匂いを刻みつけたい。
甘やかして、俺がいないと生きられないくらい、徹底的に堕としてしまいたい。
そんな危うい欲が、気づけば理性を押し流していた。
胸の奥の“虎”が、ゆっくりと目を覚ましたみたいだ。
俺はその子へ向かって歩み寄る。
一歩、また一歩。
距離が縮まるほど、体の奥で渇きが強くなる。
そのとき──
その子が怯えたように目を見開き、ふっと輪郭が揺らいで──消えた。
「な、転移魔法…っ⁈」
しばらく呆然と立ち尽くす。
転移なんて、上級の中でも選ばれた者しか扱えない魔法だ。
一体、あの子は何者なのか。
だが、それ以上に胸に焼き付くのは──“逃げられた”という事実。
喉の奥が低く鳴る。
追いかけたい。
出会った瞬間に刻まれた衝動が、血の中でうずく。
「綺麗な子だったな……まさか俺の番が、落ち人だったとは──」
しかも、あの子がしていた耳飾り──あいつらがしてたのと同じものだ。
そこで俺は状況理解し、すぐさま仲間の元へと戻った。
169
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜
たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる