上 下
31 / 50

30話 アイザック・ティンバーレイク

しおりを挟む
どれくらいそうしていたのか、うずくまっていた俺はなんとか気を落ち着けて現状を整理する。


とりあえず今はベンさんたちと合流しなきゃ、絶対にみんな心配してるはずだ。
かといって街に戻るのはなぜか気が進まなかった。

どうしたらいいか一人で考えているとそこでドアの開く音がする。

「太一くんいるかい?」
「太一ちゃんっ、いるなら返事をしてちょうだい!」

いきなりドアが開いたことに驚いたもののみんなが帰ってきたと理解した時には安心してまた座り込みそうになってしまった。

「い、います!すみませんでした、勝手にいなくなって…。」

「いいのよ。何かあったのでしょう?」

「太一くん一体何があったんだい?」

「あの、正直俺もまだ混乱してて言ってることがおかしいかもしれないんですけど実は………。」


俺はみんなと別れてから何があったのかを事細かく話した。


「…太一ちゃんにも現れたのね。」
「太一くん、それは君の運命の番だと思う。間違いない。」

え、俺の運命の番?
会えるのなんて一握りじゃないのか…?

「運命の番…。」

「太一兄ちゃん。」

横の歩夢を見ると少し複雑そうな顔をしている。
たぶん昨日運命の番が現れても結ばれる気がないって話したからだろう。


「太一くん、ちなみにその人はどんな人だったか覚えてるかい?この街の人なら知っているかもしれない。」

「えーと、赤茶色の髪を後ろになでつけていて、金色の眼をしていました。あと身長も高くて、たしか…黄色と黒色の模様が入った耳としっぽがついてた気がします。」

「まさか…あいつが太一君の番だとは。」

そういうベンさんにリサさんも驚いた表情をしていた。
え、もしかしてベンさんたちあの人と知り合いなのか。

「ベンさんたちその人のこと知っているんですか?」

「知っているわ、彼ちょっとした有名人なのよ。」

「二人とも私と街に降りたとき冒険者を見たことがあったと思う。その冒険者には強さに応じてランクが定められていて、その太一くんが会った彼は最高ランクと言われているS級冒険者なんだよ。数多くいる冒険者のうちS級になれる者は5年に一度いるかいないかだと言われている。ちなみに今は10人もいなかったはずだ。」


そんなすごい人が俺の運命の番…。
俺どうすればいいんだろう。

「ちなみに彼はトラ族で竜族と同じく番への執着が強い種族ではあるけれど、彼あなたの嫌がることはしないと思うの。彼を知っている私たちが保証するわ。でも太一ちゃんの気持ちが一番大事、運命の番だからって結ばれなきゃいけないなんてことないわ。太一ちゃんはどうしたい?」


二人がこう言うってことはいい人なのかもしれない、でもそこで俺の中にあの苦い思い出がよぎる。

「昨日歩夢には話したんですけど、俺一歩踏み出す勇気がないんです。これは完全に俺の問題なんですけど今は誰かと番になるなんて考えられないです…。」

「…そうか、わかった。私たちは太一君の意思を尊重するよ。」
「えぇ、私もよ。太一ちゃんの気持ちが第一だもの。」

「二人ともありがとうございます。それとごめんなさい、今日はこのまま部屋で休んでもいいですか?」

「いきなりのことで疲れたんだろう。気にせずゆっくり休みなさい。」
「もし寝れないようだったら私たちはまだリビングにいるからいつでもいらっしゃい。ホットミルクなら作ってあげられるから。」


それから俺は部屋に戻りベットに飛び込んだ。
今は何も考えたくないのに頭の中はあの人のことでいっぱいになっている。
だから早く寝て頭の中を空にしたいのにこういうときに限って全然寝ることが出来ない。

「太一兄ちゃん」

そういって歩夢が俺に声をかけてきたと思ったら俺の頭をゆっくり撫でてくれた。
これは優兄ちゃんがよく俺たちを寝かしつけるときにやっていたんだ。

「ありがとな歩夢。」

それから不思議と俺はすぐ眠くなり意識を手放した。
















しおりを挟む

処理中です...