愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん

文字の大きさ
31 / 76

30話 キューピット?

しおりを挟む
「行ってきます」

朝食の後、俺はいつものように工房へ向かった。
実のところ、あの日以来ずっと工房に籠もりきりだ。
理由はふたつ。
ひとつは――最近、俺の工房にちょっとした常連客ができたせいだ。

「よ、今日もすごい綺麗な石持ってきたな。ありがとう、ぴーすけ」

「ピー!」

工房の窓辺に降り立つその鳥――ぴーすけは、今日も鮮やかに光る石を脚に挟んで届けてくれた。
呼ぶ名前がないのも不便で、鳴き声から勝手に名付けたのがもうすっかり定着している。

初めの頃は、その石をただ置きに来ているだけだと思っていた。
けれど石を置いたあと、必ず俺の手元まで歩いてきて、頭を撫でろと言わんばかりに額をこすりつけてくる。撫でれば嬉しそうにひと鳴きして、満足したように帰っていく。

今ではすっかり、工房の小さな癒しだ。

もうひとつの理由は――頭を空にしたくて作業に没頭していることだ。
手を止めると、どうしても「あの人」の姿が脳裏に蘇る。

がっしりした身体に、美丈夫という言葉の似合うルックス。
歳は俺より上に見えるけど、ただ更けてるだけじゃなくて、妙な色気を放っていた。

正直、気になっている部分はあるけど、番うなんて無理だ。二度とみじめな思いだけはしたくない。
そんな感じで工房に引きこもっていた。

だけど、一度倒れた件もあり、皆がやけに俺を気にかけてくれる。
今日も気分転換に、とベンさんが街に誘ってくれた。

久しぶりの外は、思っていた以上に晴れやかだ。

「お祭り以来だね。どこか行きたいところはあるかい?」

「そういえば……ベンさんが頼た錬金術師の人、少し気になってて。その人の店に行ってみたいかも」

「ああ、おじいさんの店だね。人気店だから、事前予約した方がいいかもしれない」

その提案に俺は素直に頷いた。

同業者の、しかも緻密な錬金を施す人物に会えるなんて、想像するだけで胸が躍った。

それからもいろいろな店を回り、昼時になったのを確認して俺たちは街で評判の店へ入った。
料理を待つ間、ベンさんと雑談していたが、なぜか落ち着かない。
胸の奥が妙にざわつくとうか、思考が定まらない感じ。

だが、そのざわつきの理由はすぐにわかった。

俺が入り口に視線を向けたとき――そこに“あの人”がいたんだ。
自然と鼓動が早まる。

その人は、俺を視線の先に捉えるとゆっくりとこちらに近づいてきた。

「よお、ベンさん。…お前とは二度目ましてだな。俺はアイザック・ティンバーレイクだ。アイザックとでも呼んでくれ。お前の名前、聞いてもいいか?」

わざわざ挨拶しに来てくれるなんて、案外、律儀なのかもしれない。

「た、太一…」

そう言ってベンさんの背に半歩隠れると、アイザックはふっと笑った。
視線のやり場に困っていたそのとき、アイザックの横に見慣れた姿がとまる。

「……ぴーすけ?」

「ピー!」

工房の常連鳥が、ちゃっかりアイザックの肩にとまっている。
背筋に変な汗が流れた。

「ん?グランツを知っているのか?」

「……え、グランツ?」

「こいつは俺の従魔だ。血の契約で主に力を貸す魔獣のことだな。気性が荒い魔獣もいるが、こいつは知性が高くてな、レア個体なんだ。にしても滅多に人に懐かないんだが、──太一は気に入られたみたいだ」

なるほど。
ほとんどの魔獣は街に害を及ぼすって聞いていたけど、こんな例外もあるのか。
それと同時に──。

……いや、お前、従魔だったのかよぴーすけ。

頭を擦り付けてくる“グランツ”を、俺は内心でうっすら叱った。

「こんなに甘えるなんて、太一は本当に気に入られたんだな。これからもよろしく頼む」

アイザックが渋い笑みを浮かべる。

関わらないようにしてきたのに、完全にコースアウトじゃねぇか。
この先どうなるんだと頭を抱えたくなる横で、ぴーすけ――いやグランツは、飽きもせず俺にすり寄っていた。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

処理中です...