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30話 キューピット?
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「行ってきます」
朝食の後、俺はいつものように工房へ向かった。
実のところ、あの日以来ずっと工房に籠もりきりだ。
理由はふたつ。
ひとつは――最近、俺の工房にちょっとした常連客ができたせいだ。
「よ、今日もすごい綺麗な石持ってきたな。ありがとう、ぴーすけ」
「ピー!」
工房の窓辺に降り立つその鳥――ぴーすけは、今日も鮮やかに光る石を脚に挟んで届けてくれた。
呼ぶ名前がないのも不便で、鳴き声から勝手に名付けたのがもうすっかり定着している。
初めの頃は、その石をただ置きに来ているだけだと思っていた。
けれど石を置いたあと、必ず俺の手元まで歩いてきて、頭を撫でろと言わんばかりに額をこすりつけてくる。撫でれば嬉しそうにひと鳴きして、満足したように帰っていく。
今ではすっかり、工房の小さな癒しだ。
もうひとつの理由は――頭を空にしたくて作業に没頭していることだ。
手を止めると、どうしても「あの人」の姿が脳裏に蘇る。
がっしりした身体に、美丈夫という言葉の似合うルックス。
歳は俺より上に見えるけど、ただ更けてるだけじゃなくて、妙な色気を放っていた。
正直、気になっている部分はあるけど、番うなんて無理だ。二度とみじめな思いだけはしたくない。
そんな感じで工房に引きこもっていた。
だけど、一度倒れた件もあり、皆がやけに俺を気にかけてくれる。
今日も気分転換に、とベンさんが街に誘ってくれた。
久しぶりの外は、思っていた以上に晴れやかだ。
「お祭り以来だね。どこか行きたいところはあるかい?」
「そういえば……ベンさんが頼た錬金術師の人、少し気になってて。その人の店に行ってみたいかも」
「ああ、おじいさんの店だね。人気店だから、事前予約した方がいいかもしれない」
その提案に俺は素直に頷いた。
同業者の、しかも緻密な錬金を施す人物に会えるなんて、想像するだけで胸が躍った。
それからもいろいろな店を回り、昼時になったのを確認して俺たちは街で評判の店へ入った。
料理を待つ間、ベンさんと雑談していたが、なぜか落ち着かない。
胸の奥が妙にざわつくとうか、思考が定まらない感じ。
だが、そのざわつきの理由はすぐにわかった。
俺が入り口に視線を向けたとき――そこに“あの人”がいたんだ。
自然と鼓動が早まる。
その人は、俺を視線の先に捉えるとゆっくりとこちらに近づいてきた。
「よお、ベンさん。…お前とは二度目ましてだな。俺はアイザック・ティンバーレイクだ。アイザックとでも呼んでくれ。お前の名前、聞いてもいいか?」
わざわざ挨拶しに来てくれるなんて、案外、律儀なのかもしれない。
「た、太一…」
そう言ってベンさんの背に半歩隠れると、アイザックはふっと笑った。
視線のやり場に困っていたそのとき、アイザックの横に見慣れた姿がとまる。
「……ぴーすけ?」
「ピー!」
工房の常連鳥が、ちゃっかりアイザックの肩にとまっている。
背筋に変な汗が流れた。
「ん?グランツを知っているのか?」
「……え、グランツ?」
「こいつは俺の従魔だ。血の契約で主に力を貸す魔獣のことだな。気性が荒い魔獣もいるが、こいつは知性が高くてな、レア個体なんだ。にしても滅多に人に懐かないんだが、──太一は気に入られたみたいだ」
なるほど。
ほとんどの魔獣は街に害を及ぼすって聞いていたけど、こんな例外もあるのか。
それと同時に──。
……いや、お前、従魔だったのかよぴーすけ。
頭を擦り付けてくる“グランツ”を、俺は内心でうっすら叱った。
「こんなに甘えるなんて、太一は本当に気に入られたんだな。これからもよろしく頼む」
アイザックが渋い笑みを浮かべる。
関わらないようにしてきたのに、完全にコースアウトじゃねぇか。
この先どうなるんだと頭を抱えたくなる横で、ぴーすけ――いやグランツは、飽きもせず俺にすり寄っていた。
朝食の後、俺はいつものように工房へ向かった。
実のところ、あの日以来ずっと工房に籠もりきりだ。
理由はふたつ。
ひとつは――最近、俺の工房にちょっとした常連客ができたせいだ。
「よ、今日もすごい綺麗な石持ってきたな。ありがとう、ぴーすけ」
「ピー!」
工房の窓辺に降り立つその鳥――ぴーすけは、今日も鮮やかに光る石を脚に挟んで届けてくれた。
呼ぶ名前がないのも不便で、鳴き声から勝手に名付けたのがもうすっかり定着している。
初めの頃は、その石をただ置きに来ているだけだと思っていた。
けれど石を置いたあと、必ず俺の手元まで歩いてきて、頭を撫でろと言わんばかりに額をこすりつけてくる。撫でれば嬉しそうにひと鳴きして、満足したように帰っていく。
今ではすっかり、工房の小さな癒しだ。
もうひとつの理由は――頭を空にしたくて作業に没頭していることだ。
手を止めると、どうしても「あの人」の姿が脳裏に蘇る。
がっしりした身体に、美丈夫という言葉の似合うルックス。
歳は俺より上に見えるけど、ただ更けてるだけじゃなくて、妙な色気を放っていた。
正直、気になっている部分はあるけど、番うなんて無理だ。二度とみじめな思いだけはしたくない。
そんな感じで工房に引きこもっていた。
だけど、一度倒れた件もあり、皆がやけに俺を気にかけてくれる。
今日も気分転換に、とベンさんが街に誘ってくれた。
久しぶりの外は、思っていた以上に晴れやかだ。
「お祭り以来だね。どこか行きたいところはあるかい?」
「そういえば……ベンさんが頼た錬金術師の人、少し気になってて。その人の店に行ってみたいかも」
「ああ、おじいさんの店だね。人気店だから、事前予約した方がいいかもしれない」
その提案に俺は素直に頷いた。
同業者の、しかも緻密な錬金を施す人物に会えるなんて、想像するだけで胸が躍った。
それからもいろいろな店を回り、昼時になったのを確認して俺たちは街で評判の店へ入った。
料理を待つ間、ベンさんと雑談していたが、なぜか落ち着かない。
胸の奥が妙にざわつくとうか、思考が定まらない感じ。
だが、そのざわつきの理由はすぐにわかった。
俺が入り口に視線を向けたとき――そこに“あの人”がいたんだ。
自然と鼓動が早まる。
その人は、俺を視線の先に捉えるとゆっくりとこちらに近づいてきた。
「よお、ベンさん。…お前とは二度目ましてだな。俺はアイザック・ティンバーレイクだ。アイザックとでも呼んでくれ。お前の名前、聞いてもいいか?」
わざわざ挨拶しに来てくれるなんて、案外、律儀なのかもしれない。
「た、太一…」
そう言ってベンさんの背に半歩隠れると、アイザックはふっと笑った。
視線のやり場に困っていたそのとき、アイザックの横に見慣れた姿がとまる。
「……ぴーすけ?」
「ピー!」
工房の常連鳥が、ちゃっかりアイザックの肩にとまっている。
背筋に変な汗が流れた。
「ん?グランツを知っているのか?」
「……え、グランツ?」
「こいつは俺の従魔だ。血の契約で主に力を貸す魔獣のことだな。気性が荒い魔獣もいるが、こいつは知性が高くてな、レア個体なんだ。にしても滅多に人に懐かないんだが、──太一は気に入られたみたいだ」
なるほど。
ほとんどの魔獣は街に害を及ぼすって聞いていたけど、こんな例外もあるのか。
それと同時に──。
……いや、お前、従魔だったのかよぴーすけ。
頭を擦り付けてくる“グランツ”を、俺は内心でうっすら叱った。
「こんなに甘えるなんて、太一は本当に気に入られたんだな。これからもよろしく頼む」
アイザックが渋い笑みを浮かべる。
関わらないようにしてきたのに、完全にコースアウトじゃねぇか。
この先どうなるんだと頭を抱えたくなる横で、ぴーすけ――いやグランツは、飽きもせず俺にすり寄っていた。
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