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38話 竜族
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side:歩夢
「ディランさんは、いつから冒険者になったんですか?」
「私が冒険者になったのは、随分前だよ。竜族は長命だから年数を細かく数えないんだけれど……たぶん百年ほど前になるかな」
「ひゃ、百年…⁈」
思ってた以上に大きな桁だ。
精霊たちから色んな話を聞いてきたけど、それでも知らないことは山ほどある。
異世界は、知れば知るほど底なしだ。
「僕、初めて知ることばかりで、…たくさん話してくれてありがとうございます」
「冒険の話でこんなに楽しく聞いてくれるなら冒険者も捨てたものじゃないね」
ディランさんは柔らかい笑みを浮かべて、まるで本当に嬉しそうに言った。
百年も生きてきた人の笑顔は、なんだか安心をくれる。
「他にも気になることはあるかい?」
「気になること──」
その言葉を合図みたいに、昨日メルエムに言われたことが頭をよぎる。
「……番について。僕がいた世界は獣人がいなくて…、少し教えてもらったんですけど、ディランさんたち竜族は、どうなんですか…?」
「………」
「あ、あの…?」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていた。番そのものは他種族と大きくは変わらないよ。ただ──竜族は番への執着がとても強いんだ。過去には番を拉致した者もいれば、番を得られず狂い、自分の番を手にかけてしまった者すらいる。」
リサさんたちから聞いた話と同じだ。
「けれど、どうしても番と共に生きられない時のために“救命措置”があるから、最悪の事態は防ぐことができる」
「救命、措置…」
「運命の番がいても、既に別の相手と結ばれていることもある。そうした場合、拒絶された側は苦しんで狂ってしまうことも多い。その時のために用意された最終手段だよ。運命の番を忘れさせる禁術──」
「でも、運命の番は、切っても切れない縁だって…」
「公には出ていないが、できるよ。竜族のみが知る禁術だ。一度使えば、その人を運命の番として認識することはもう二度とない」
こんな方法まであるなんて思っていなかった。竜族は怖いという印象ばかりだったけど、ディランさんの話を聞くほど、その印象は薄れていく。
「ディランさんだったら……運命の番がもう別の人と番になっていたら、どうしますか?」
「そうだね……私は百年以上、番を探している。もちろん、本当は私を選んでほしい。でも、その相手が幸せなら、それを奪ってまで自分の想いを押し付ける気にはなれない。狂ってしまう前に、記憶を消すだろうね」
静かに言われたその答えが胸に落ちて、僕はそれ以上なにも返せなかった。
知らないことを一気に詰め込まれたみたいで、思考の整理が追いつかないままだ。
―――――
side:ディラン
気づけば外はすっかり夜だった。
太一くんは夕飯を食べた瞬間にソファで眠り込み、歩夢くんもその肩にもたれて静かに寝息をたてている。
「おいおい、そんなとこで寝たら風邪ひくぞ」
「ふふ、でもこんなに幸せそうに寝ていたら、起こせないね」
アイザックと二人でそっと抱き上げ、同じ部屋のベッドへ寝かせる。毛布をかけ、息を乱さないようそっと扉を閉じてリビングに戻る。
「俺も今日は疲れた。すぐ寝れそうだ」
「アイザック、その前にひとついいかい?」
「ん、なんだ?」
「太一くんと歩夢くんに……私の種族について、話したかい?」
「いや、話してねぇよ。お前が“怖がらせるから言うな”って自分で言ったんだろうが」
「……そうだったね」
「どうした?」
「いや。なんでもないよ。邪魔して悪かった」
「気にすんな。じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
部屋に戻ってから、胸の中にひっかかった違和感が再び顔を出す。
アイザックは話していない。それは確かだ。
なのに──歩夢くんは“私が竜族である”と理解したうえで番の話をしてきた。
獣人の特徴は外見に出るが、肌に模様が出る種族は珍しくない。服で隠せばまず見抜かれないはず。その状態で、竜族だと断言できる理由は──
彼は何故わかった?
考えれば考えるほど、ひとつの可能性だけが浮かんできて、頭の中で静かに重みを増していく。
そのまま答えを固めきれないまま、私は横になった。
「ディランさんは、いつから冒険者になったんですか?」
「私が冒険者になったのは、随分前だよ。竜族は長命だから年数を細かく数えないんだけれど……たぶん百年ほど前になるかな」
「ひゃ、百年…⁈」
思ってた以上に大きな桁だ。
精霊たちから色んな話を聞いてきたけど、それでも知らないことは山ほどある。
異世界は、知れば知るほど底なしだ。
「僕、初めて知ることばかりで、…たくさん話してくれてありがとうございます」
「冒険の話でこんなに楽しく聞いてくれるなら冒険者も捨てたものじゃないね」
ディランさんは柔らかい笑みを浮かべて、まるで本当に嬉しそうに言った。
百年も生きてきた人の笑顔は、なんだか安心をくれる。
「他にも気になることはあるかい?」
「気になること──」
その言葉を合図みたいに、昨日メルエムに言われたことが頭をよぎる。
「……番について。僕がいた世界は獣人がいなくて…、少し教えてもらったんですけど、ディランさんたち竜族は、どうなんですか…?」
「………」
「あ、あの…?」
「あぁ、すまない。少し考え事をしていた。番そのものは他種族と大きくは変わらないよ。ただ──竜族は番への執着がとても強いんだ。過去には番を拉致した者もいれば、番を得られず狂い、自分の番を手にかけてしまった者すらいる。」
リサさんたちから聞いた話と同じだ。
「けれど、どうしても番と共に生きられない時のために“救命措置”があるから、最悪の事態は防ぐことができる」
「救命、措置…」
「運命の番がいても、既に別の相手と結ばれていることもある。そうした場合、拒絶された側は苦しんで狂ってしまうことも多い。その時のために用意された最終手段だよ。運命の番を忘れさせる禁術──」
「でも、運命の番は、切っても切れない縁だって…」
「公には出ていないが、できるよ。竜族のみが知る禁術だ。一度使えば、その人を運命の番として認識することはもう二度とない」
こんな方法まであるなんて思っていなかった。竜族は怖いという印象ばかりだったけど、ディランさんの話を聞くほど、その印象は薄れていく。
「ディランさんだったら……運命の番がもう別の人と番になっていたら、どうしますか?」
「そうだね……私は百年以上、番を探している。もちろん、本当は私を選んでほしい。でも、その相手が幸せなら、それを奪ってまで自分の想いを押し付ける気にはなれない。狂ってしまう前に、記憶を消すだろうね」
静かに言われたその答えが胸に落ちて、僕はそれ以上なにも返せなかった。
知らないことを一気に詰め込まれたみたいで、思考の整理が追いつかないままだ。
―――――
side:ディラン
気づけば外はすっかり夜だった。
太一くんは夕飯を食べた瞬間にソファで眠り込み、歩夢くんもその肩にもたれて静かに寝息をたてている。
「おいおい、そんなとこで寝たら風邪ひくぞ」
「ふふ、でもこんなに幸せそうに寝ていたら、起こせないね」
アイザックと二人でそっと抱き上げ、同じ部屋のベッドへ寝かせる。毛布をかけ、息を乱さないようそっと扉を閉じてリビングに戻る。
「俺も今日は疲れた。すぐ寝れそうだ」
「アイザック、その前にひとついいかい?」
「ん、なんだ?」
「太一くんと歩夢くんに……私の種族について、話したかい?」
「いや、話してねぇよ。お前が“怖がらせるから言うな”って自分で言ったんだろうが」
「……そうだったね」
「どうした?」
「いや。なんでもないよ。邪魔して悪かった」
「気にすんな。じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
部屋に戻ってから、胸の中にひっかかった違和感が再び顔を出す。
アイザックは話していない。それは確かだ。
なのに──歩夢くんは“私が竜族である”と理解したうえで番の話をしてきた。
獣人の特徴は外見に出るが、肌に模様が出る種族は珍しくない。服で隠せばまず見抜かれないはず。その状態で、竜族だと断言できる理由は──
彼は何故わかった?
考えれば考えるほど、ひとつの可能性だけが浮かんできて、頭の中で静かに重みを増していく。
そのまま答えを固めきれないまま、私は横になった。
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