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40話 竜族

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side歩夢

「ディランさんはいつから冒険者になったんですか?」

「私が冒険者になったのはずっと前のことだよ。竜族は長命ゆえあまり年数を数えないから覚えていないのだけれどだいたい今から100年くらいは前かな。」

「ひゃ、百年!?」

僕はディランさんと冒険者に関する話をずっとしていたけどさっきから初めて知ることばかりで驚きばかりだ。
精霊たちと話せる僕は精霊たちからいろんな話を聞けるけどまだこんなに知らないことがあるなんて、異世界は面白いことがいっぱいだ。

「ぼく、初めて知ることばかりです。たくさんお話聞かせてくれてありがとうございます。」

「いいえ、歩夢くんが楽しんでくれたならよかったよ。冒険者をしていてよかった。」

ディランさんは相変わらず優しそうな笑顔を浮かべている。

「ほかになにか気になることはある?いまならなんでも答えるよ。」

「気になること…。」


僕はその問いに昨日メルエムに言われたことを思い出す。

「…番について少しだけ聞いてもいいですか?僕の世界にはアイザックさんたちのような獣人の人はいなくて番っていう概念もないんです。一応ベンさんたちから教えてもらったんですけど種族によって違う部分もあるのかなって…、ディランさんのような竜族の人たちはどうなんですか?」

「………。」

「ディ、ディランさん?」

「あぁ、ごめん、少しぼーっとしちゃってたね。番については知っているってことだよね。だいたいどの種族も変わりはないと思う。ただ少し違うところがあるとしたら番への執着の違いかな。特に竜族は番への執着が強い種族として有名で、過去には番を拉致した人もいれば番が手に入らず精神が狂い自分で番を殺してしまった者までいる。」

「やっぱりそうなんですね…。」

「でもそれは昔の話で今じゃそんなことする人は極稀だよ。もし出会ってしまったとしても番いたくなければそういう人に向けた救命措置もあるからね。」

「救命措置?」

「運命の番といえどすでに番っている場合も少なくはない、だけど運命の番に拒まれた相手は狂ってしまうものが多いのも事実。そんな者たちのためにあるのが救命措置で、運命の番を忘れさせるんだよ。」

「…でも運命の番は切っても切り離せないくらい強く結ばれた人たちって聞きました。忘れることなんてできるんですか?」

「できるよ。おおやけには出回ってはいないけど竜族には昔から受け継がれている秘術があって運命の番を完全に記憶から消し去る術があるんだ。一度それを使ってしまえば二度と運命の番と認識することはない。」


そんな術があったんだ…。
今まで竜族は怖い印象だったけどディランさんの話を聞いて少しずつその考えが変わっていく。

「ディ、ディランさんだったら運命の番がもう違う人と番になっていたらどうしますか…?」

「そうだね…、私はもう百年以上運命の番を探している、もちろん私と番になってほしい。だけどその人が幸せならいいんだ、その幸せを奪ってまで自分のエゴを相手に押し付けることなんて私にはできない。自分が狂ってしまうまえに記憶を消すつもりだよ。」


僕は自分で聞いておきながらその情報量に戸惑ってしまいそれ以上聞くことが出来なくなってしまった。










side ディラン


「ただいまー。」
「ただいま。」

「お帰り太一兄ちゃん。」
「おかえり二人とも。」


歩夢くんと話している間に外は夜になっていたようで二人とも帰ってくる。
太一君はたくさん動いたのもあって疲れたのか夕飯を食べてからソファの上で寝てしまい、歩夢くんも太一君によりかかるようにして寝てしまう。

「おいおい、風邪ひいちまうぞ。」

「ふふ、こんな幸せそうな寝顔を見てしまっては起こすにも起こせないね。」

私とアイザックは二人を横抱きで抱えゆっくりベットに寝かせてから二人を起こさないよう静かにリビングに戻る。

「俺も今日は疲れたからすぐ寝れそうだな。」

「私もすぐ寝るよ。だけどその前に一つ聞きたいことがある。」

「なんだ?」

「太一君や歩夢くんに私の種族を話したかい?」

「いや、話してないぞ。そもそもお前が怖がらせるといけないから話すなって言ったんじゃねぇか。」

「そうだよね…。」

「?どうしたんだ?」

「いや、なんでもない。とめて悪かったねアイザック。」

「大丈夫だ。じゃおやすみな。」

「あぁ、おやすみ。」


私は部屋に戻ってから一人考え込む。

やっぱりアイザックは話してなかった。
でも歩夢くんはたしかに私が竜族・・だってことを分かったうえで番について聞いてきた。

獣人はその身体に獣の特徴を残す耳や尻尾を持つだけでなく、中には瞳や肌にその特徴が現れる者もいて私の場合は肌に現れるが、他にもトカゲ族や蛇族も肌に特徴が現れる。
だから服で隠していたらほとんど見分けがつかないはずだ、でも彼はそんな状態で私が竜族であるとわかっていた。

なぜわかったんだ?

その後しばらく考えを巡らせある可能性を頭に結局その日は寝ることにした。




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