魔王が強くてニューゲームを始めるらしいので、次代の勇者を育成することになった。

青木十

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『勇者ヴァルの物語』では語られない物語

女神の青 第四話

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『それで、その勇者様が何しに来たの』
「いや、前の主が残した財宝の中に、魔石化した宝石がないかと思ってな」

 俺は昔、ここで主と派手にやり合ったので、魔力溜まりができて財宝が魔石化しているのではないかと思い至ったのだ。

『これ、僕のなんだけど……』

 ドラゴンは小さな念話で所有権を主張する。

「まあ、まずは確認させろって」

 神子の様子を無視して、前の主が貯め込んでいた財宝の山へと足を向けた。
 体を動かして遮ろうとするが、そんなのも無視だ。

 光魔法で灯りの球体を作る。
 さすがに十二年も放置された場所。
 随分と埃は溜まっているし、風化しているものもある。
 しゃがみこんでごそごそと漁っていると、お目当ての条件にあったものが見つかった。

「お、これがいいな」

 俺が財宝の山から取り出したのは、五つの大振りなサファイアが連なった首飾りだった。
 金の細工で飾られている美しいものだ。
 親指と人差し指で作った輪よりもやや小ぶりで、小さすぎず大きすぎずといった具合で良さそうだった。

 裏を見ると、中央の宝石の金座に太陽と星の紋章が刻まれている。
 これは、リュエール王国のものだ。
 昔、ここ、レオミュール王国が前身の帝国だった時代に属国だった国の一つだ。レオミュールが王国に戻る際、しっかり吸収されてレオミュール王国の一部となってしまったため、今では滅んでしまった国となる。
 その紋章が入った装飾品って、かなりの価値があるのではないだろうか。

 確か、帝国を廃したのが俺の前の代の魔王誕生の頃だから、九十年以上前なのか。もしリュエールが属国になったタイミングだとしたら百年は優に超える。
 これは出すとこに出すとかなりの価値になりそうだが、面倒が嵩みそうだなぁ。


 そんな算段をしつつ、空いている手で宝石を握り込む。少し魔力をまとわせてみると、反応があった。
 魔宝石の反応だ。
 明かりにかざしてみたが、横から見る限り綺麗な青色をしている。中の魔力も無色の自然魔力が込められているようだ。完璧な状態と言っても過言ではない。
 よし、これで良さそうだな。

 俺がしたり顔でそれをインベントリにしまうと、竜の神子は咆哮と共に強い念話を送ってきた。

『だからそれは僕のだって!』

 口端から火の粉がチラついている。

『お前がどれだけ強くたって、女神から僕を殺すなと言われてるんだろ。だったら僕の言うことを聞け』

 パチパチと火の粉が爆ぜる音と共に、喉の奥から唸り声が聞こえてくる。
 小賢しいやつだな。
 しかし残念なことに、俺は殺すなとは言われていない。
 お前が殺されるなと言われただけなんだがな。

 俺の言葉はすぐに届くが、神託は早々降ろしてくれるなと女神には言い含めてある。神託など面倒だし、女神の相手はたいそう手間がかかるからだ。
 かと言って、戯れに子竜一匹殺めるのも気が引ける。
 女神も俺の性分は十分に理解していることだろう。なので、直接何かしらも言ってこないのだ。

 インベントリに手を突っ込みながら、ドラゴンへと歩みを寄せる。

「ほら、頭を下ろせ」

 反抗して何になるわけでもない。
 そう理解できているのか、大人しく頭が下ろされた。
 インベントリから取り出したものを、頭に乗せてやる。
 こいつにはやや小ぶりだが、喜ぶんじゃないか。

 神子の前に、水魔法と光魔法を合わせて水鏡を作ってやる。本当は通話しながらの姿見の魔法なのだが、目前の姿を写すのは容易だし、通信をしない分、簡易な魔法になっている。

 恐る恐る水鏡を覗き込んだ神子は、嬉しそうな表情――なのだろう顔で俺を見返した。

『王冠! 王冠だ! かっこいい!』

 予想以上の反応に、俺も笑みが溢れてしまう。
 なんだ、本当にまだまだ子供じゃないか。

 誇らしそうな顔で水鏡を覗き込み、色々な角度で王冠やそれを被る自身を眺めている。

 俺が被せてやったのは、前に来た時にここから失敬してインベントリに入れっぱなしだった財宝の一つ、紅の宝石を中央に抱いた王冠だった。金色の細工と小さな透明の宝石で装飾された豪奢な逸品だ。
 サファイアの何かを失敬するなら、何かしら置いていこうと思い目星をつけていたものの一つだ。
 他にも何個かあるのだが、ここまで喜んでくれるならこれにしよう。

「首飾りの対価に、これを置いていくつもりだった。お前の審美眼に適うとよいのだが」
『うむ、もちろんだ。これは良い品だ、私もそう思う』

 俺の言い回しに気を良くしたのか、神子は愛らしく見栄を張る。
 まあ、気に入ってくれたのなら良かった。

「ならばそれを置いていこう。得るものも得られたし、俺は去ろうと思う。突然訪ねてきて悪かったな」

 俺は水鏡を霧散させて踵を返した。
 背後から声がかかる。

『待たれよ。私からも渡したいものがある。女神と引き合わせてくれた礼がしたいのだ』

 俺が振り返ると、凛々しい表情の竜の神子は体をひねり姿勢を正した。
 そして左の前腕を右手の爪でカリカリと掻いた。
 すると、ぽろぽろと数枚の鱗が剥がれ落ちる。

『これを持っていけ。武具に埋め込んでも良いし、防具に練り込んでも良いだろう。好きに使うといい』

「竜鱗を素材としてくれるっていうのか。なんとありがたい申し出だ」

 俺は再び神子へ歩み寄って身を屈めた。
 美しく煌めく鱗は、空の青にも海の青にも見えた。
 その美しい青鱗を丁寧に拾っていく。
 七枚もあった。

『少し多かったがよかろう。体が小さい内は、すぐに鱗が剥がれるのだ。何も心配することはない』
「そうであれば、ありがたく頂戴しよう。感謝する」

 俺は神子に礼を伝え、七枚の青い鱗をインベントリへとしまうことにした。
 インベントリの中の方が、品質が維持されるし紛失してしまうということもない。とかく便利なのだ。

『ただし、全ては使うなよ』

 青い神子は、金色の瞳を細めて俺を見つめた。

『手元に必ず残しておけ。そうすれば、お前がいる場所を私は知ることができる。
 もし女神が神託を以て、お前を助けよと申されるのであれば、必ずや馳せ参じよう。もし女神がお前を頼れと申されるのであれば、必ずや力を請いに訪ねよう』

 なるほど、女神が何か入れ知恵したな。
 ならばそれには乗ってやろう。

「相分かった」

 俺は大きくうなずいた。
 そして、右手を胸に当てて勇ましく誓いを立てる。

「我が名は勇者ヴァル。同じく女神の使徒たる竜の神子を盟友とし、助力を誓おう。我らが女神サフィーアの名の下に」
『我が盟友ヴァルよ、痛み入る』

 青き竜は、金色に輝く瞳を閉じて、一つ首肯した。

「では、また相見まえるその時まで」

 俺は軽く手を振って、格納庫を後にした。


 通路の明かりを消したり、いずれ消えるだろうことを確認し、南トーカの深層から転移にて地上へと脱出した。
 南トーカ廃都市遺跡群の周りは厚い森で覆われている。
 ここでもう一つ、素材を手に入れていく予定だった。

 俺はしばらく森を散策し、目的のドレイクを発見した。
 ドレイクというのは、ドラゴンやらワイバーンやらトカゲやらに似たモンスターのことだ。この説明は正確には正しくはないのだろうが、詳細に語るは小難しい。
 ラオーシュが聞いたら声を荒らげそうだ。

 外傷が目立たぬようにとどめを刺したドレイクもインベントリへとしまう。この皮を加工して素材にしようと思っている。
 これでラインハルトやラオーシュ、ヴィンダブルと相談した素材の内、二つを手に入れることができた。

 木の上で一休みしながら、残りの素材である鉱石について考える。
 ミスリルにはしないが、素材は自分で取ってきた方が良いだろうか。初めての剣だし、鉄鉱石で作ってもらおうと思っている。俺が人目につかないように行動しようとなると、どうしても上位素材になりがちだ。

 うーむと思案してはみるが、俺の結論は一つだった。

 鉱石素材は工房に任せよう。

 それが明快で単純で、一番安心できる答えだった。
 そうと決まれば遅くなる前に帰宅する。座学をさせているアレクをいつまでも一人にしておけないし、進捗も確認してやらないとな。工房にも顔を出さねばならないし、しばらくは忙しくなりそうだ。
 そんなことを何となしに考えながら、俺は辺境の家へと転移で帰ったのであった。

 そうやって苦心して作成した特注品のショートソードを、アレクは大層気に入ってくれたようだった。
 俺の努力は無事、報われたのである。
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