オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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紅煌の金釦 3

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 機嫌よく尾をフリフリ揺らしながら、バースィルは手を拭きスペアリブを持ち上げた。
 がぶりと行儀悪くかぶり付けば、じゅわっと肉汁と脂が溢れてくる。甘辛く漬け込まれ焼き上げられた旨味たっぷりの肉汁と脂は、豚ならではで、滴るのも気にせずに骨から肉を剥がした。こうやって食べるのは、冒険者の時に野営で肉を焼いていた頃以来だから、久しぶりだ。口元に付いた煮汁のソースを長い舌でぺろりとしながら、豪快に肉を平らげていく。

 そんないい食べっぷりを眺めながら、シュジャーウは綺麗な所作でムニエルを口に運んだ。
 表面はカリッと焼かれ、中はふわりと柔らかな白身魚を口に含めば、魚の優しい味わいが広がってく。バターの風味とシンプルな塩胡椒が魚の味を引き立てた。胡椒は、肉とは違い細かく粉末状に挽いたもの。少しだけピリッと風味を足してくれている。添えられたレモンを絞れば、さっぱりとした味わいでも楽しめる。
 こういう心遣いが客足を増やす要因なのだろうなと、シュジャーウは考えていた。
 大衆向けの食堂よりは質を上げ、かと言って貴族向けのレストランのように作法にうるさくない。確かに常連客が多いわけだと納得する。
 これが昼でなければ、ワインの一杯でも頼むのになと、密やかに笑った。

「パンにすればよかった」

 ひと手間使って手を拭きカトラリーを手にしたバースィルは、少し後悔しつつもライスに手を付けた。
 スペアリブを煮たソースは甘辛くて旨味も染み出している。手で食べる楽さと、持ち替える手間をぼやきながらも、旨さには替えられない。肉の多いところをナイフで切り分け、ライスとともに口に運べば、ライスの甘みと肉の旨味が合わさってぼやきを駆逐していく。この旨さは、肉とライスでなければ味わえなかった。

「ライスでよかった」

 新たにそう呟けば、シュジャーウが肩を揺らして笑っていた。

「笑うなよ」
「ごめんごめん、パンへの気持ちがすぐに消えたんだなって思ったら、おかしくて」
「いいだろ、旨かったんだから」

 ぶすっとしながらも、肉を食べれば絆される。じっくりと焼き上げられたそれは、骨までしゃぶりつきたくなる旨さだった。
 スープも野菜たちも、肉の濃さを和らげてくれる。スープは丁寧に野菜の出汁が取られ、優しい味で肉の脂を流してくれた。
 バースィルは、手間暇かけて考えられたメニューなんだなと思いながら、野営で塩だけ肉や干し肉をかじっていた冒険者時代を思い出していた。


 食事を堪能し終えて、コーヒーに口をつけていた頃。
 バースィルとシュジャーウの元へ、そろりとウィアルがやってくる。

「お二人にはこれを」

 そう言って、皿を二枚カウンターに並べた。
 白の小ぶりの皿には、スコーンが一つずつ、赤苺のジャムと真白なクリームと一緒に置かれていた。スコーンは焼き立てなのか温かそうだ。ふわりと甘い香りが漂ってくる。
 どうしたのかと見上げれば、ウィアルが優しい声でこう言った。

「正規入団おめでとうございます」

 それから薄い唇に人差し指を添えて「私たちからお二人に。皆さんには内緒ですよ」と続けた。

「ありがとう、すげぇ嬉しい」

 喜びで自然と笑みがこぼれる。
 バースィルは満面の笑みで気持ちを伝えた。
 先日、班の皆で店に来た時、ちゃんとウィアルには報告していた。今のバースィルにとって、一番伝えたいと思っていたのが彼だから。
 その際に、ウィアルからは言葉で祝ってもらっていた。それだけでバースィルは心が沸き立ち、これからもウィアルのいる王都を守るぞと思えたのだ。だから改めてこんなことまでしてもらえるなんて、今の自分なら王都だけでなく王国まで守れそうだと思ってしまう。
 キラキラと目を輝かせるバースィルを微笑ましく見つめるウィアル。その後ろから、シェフが料理をカウンターに置きながら、

「スコーンはマスターが焼いてる、感謝して食えよ」

 と素っ気なく話してくれた。シェフが置いた料理は、流れるようにブラントが客の元へ運んでいった。

「手慰みから始まったものですが、シェフからはお墨付きを貰えるまでになったんですよ。あと――」

 ウィアルは二人へと顔を寄せる。

「赤苺のジャムはシェフがお二人にと。甘さを控えめに作ってくれたんです」

 トコトコとキッチンに戻る後ろ姿を見送りながら、ウィアルはふふふと穏やかな笑みを浮かべた。
 その後ろ姿を追って、バースィルとシュジャーウは声をかける。

「シェフ! ありがとな」
「ありがとう」

 当のシェフは二人をチラッと見ただけで、むすっとした顔のままキッチンに消えていった。
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