36 / 43
好意の差異 4
しおりを挟む
今後の約束や騎士団、魔術師会での決まりなどを軽く聞き、詳細は後日と、急な訓練の話はまとまった。
バースィルは気になっていたことを尋ねてみる。
「ところで、何で精霊の話を?」
「あぁ、それはね。君が来るようになってから、この店の魔術が少し弱まっているのではとなってね。原因は何かと調べているところなんだよ」
メルヒオールが言うことには、この店には色々な魔法、魔術が施されていて、店を保護しているのだそうだ。それを聞いたバースィルは、以前シュジャーウの話していたことを思い出した。
関係者の話し合いによると、その魔法や魔術はバースィルの何かに干渉を受けているのではという話になったそうだ。
ちなみに、家に魔術を施すことは、魔術師たちにとっては日常茶飯事で、特に珍しいことではないのだとか。
この辺り一帯の住居が基本的に主不在と分かっているのに、治安が取り沙汰されていない理由は、魔術での防犯が成り立っているから。主不在時に建物に入ったとして、床から火の壁が噴き出すような家には、空き巣も入りたくない、そういうことらしい。
ランディアの隠蔽や防音の魔法が干渉されている原因を、カタフニアの赤狼であれば精霊が絡んでいるのではと考えて、メルヒオールはバースィルから話が聞きたかったのだと語った。
「つまり、俺のせいってことか?」
「まさか!」
メルヒオールは、ひときわ語気を強めて否定した。
「君のせいなわけがあるかね。とどの詰まりは、我々の魔術が稚拙だということだよ。長年の研究は児戯に等しかったという訳だ」
滔々と語るメルヒオールの横で、コンラートはメルヒオールの皿からすっかり冷えたベーコンとひょいっと横取りした。
「簡単に言うと、メルヒオールは『みんなで頑張って作ったのに、バースィルくんが立ってるだけで効果が減っちゃうなんて、くやしいぃ~!』って言ってるんだよね」
そう言って、横取りしたベーコンをぱくっと食べた。
「うわっ美味しいね、これ」
「コンラート、誰がベーコンをやると言った」
「だってさっきから話に夢中で放ったらかしじゃないかぁ」
大の大人がベーコンの皿を取り合ってる様を見て、先程のメルヒオールの剣幕も忘れ、バースィルは笑ってしまった。
バースィルの目算だと、コンラートは三十半ば、メルヒオールは四十路、それも後半といったところだろう。その二人が損得なく親しくしている様は好感が持てた。
「二人は随分と仲がいいんだな」
「そう? そう見えるなら嬉しいな。もう十五年とかの付き合いだもんねぇ」
バースィルの言葉を受けて、にこりとしたコンラートだったが、メルヒオールは奪い返したベーコンを不貞腐れた顔で食べているばかりだ。
「君だって、金髪の獣人くんと仲良しだよねぇ」
「あぁ、生まれた時から一緒だからな」
シュジャーウのことだと、すぐに分かった。コンラートから見ても、シュジャーウとの関係は良好に見えるようで、バースィルは心から嬉しくて喜んだ。
そこでふと、気になることが浮かんでくる。
ウィアルとは?
ウィアルとは、どう見えるんだろうか。
聞いてみたい。
でも聞くのも怖くなっていた。
「あ、なぁ……、あのさ……」
珍しく言葉に詰まるバースィルの様子に、二人は首を傾げる。
「どうしたの~? お兄さんに話してごらん?」
「お兄さんという柄かね」
「年の離れたお兄さんだと思ってほしいなぁ」
照れたように笑うコンラートを他所に、メルヒオールは呆れた顔をした。彼はバースィルに歳を問うてくるので、十九と答えれば、今度はコンラートに「君の甥御くんはいくつだったかね」と尋ねる。
その問いの含みに気が付いたコンラートは、ふわりとした茶色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて嘆いた。
「うちのミランは十八だったよ、たしか!」
「ほら見ろ、お兄さんは無理があるだろう?」
したり顔のメルヒオールに、本当だぁとメソメソとするコンラートを見ていたら、悶々としていた自分が馬鹿らしくなってくる。バースィルの表情が柔らかくなったのを確認すれば、コンラートは優しげに言った。
「どうしたの? おじさんたちに話してごらん?」
おじさんたちという言葉に、メルヒオールの眉根が寄るが「僕より上なのにおじさんじゃないとは言わないよね?」と笑えば、彼は何も言及をしなかった。歯に衣着せぬ気心がしれた仲なのだなぁとバースィルは思う。
店での様子を見る限り、コンラートは人付き合いがよく、顔も広い。メルヒオールは立場上のためか一人でいることが多いが、たまに誰かから話を持ちかけられていることがある。
それらを踏まえると、相談に乗って貰えるのはありがたい話なのではないか。
バースィルは、常連の皆から見ての意見が聞きたくて問うてみた。自分がウィアルの特別になり得る可能性はあるのかどうか。
「特別、ねぇ~」
いいな、若いなぁと、コンラートにはニコニコされる。メルヒオールは、ワインを一口含み口内を潤わせてから口を開いた。
「君はウィアルに愛を乞うているようだが、それはカタフニアの作法だろう?」
「あ、あぁ。あっち程しつこくはしてねえけど。あと、その、言われる方が多かったから、言うのは上手くねえ」
バースィルが答えれば、メルヒオールは先程の許容という言葉を持ち出した。
「許容というのは受け手がする努力だ。なら送り手がする努力は何だと思う?」
バースィルは気になっていたことを尋ねてみる。
「ところで、何で精霊の話を?」
「あぁ、それはね。君が来るようになってから、この店の魔術が少し弱まっているのではとなってね。原因は何かと調べているところなんだよ」
メルヒオールが言うことには、この店には色々な魔法、魔術が施されていて、店を保護しているのだそうだ。それを聞いたバースィルは、以前シュジャーウの話していたことを思い出した。
関係者の話し合いによると、その魔法や魔術はバースィルの何かに干渉を受けているのではという話になったそうだ。
ちなみに、家に魔術を施すことは、魔術師たちにとっては日常茶飯事で、特に珍しいことではないのだとか。
この辺り一帯の住居が基本的に主不在と分かっているのに、治安が取り沙汰されていない理由は、魔術での防犯が成り立っているから。主不在時に建物に入ったとして、床から火の壁が噴き出すような家には、空き巣も入りたくない、そういうことらしい。
ランディアの隠蔽や防音の魔法が干渉されている原因を、カタフニアの赤狼であれば精霊が絡んでいるのではと考えて、メルヒオールはバースィルから話が聞きたかったのだと語った。
「つまり、俺のせいってことか?」
「まさか!」
メルヒオールは、ひときわ語気を強めて否定した。
「君のせいなわけがあるかね。とどの詰まりは、我々の魔術が稚拙だということだよ。長年の研究は児戯に等しかったという訳だ」
滔々と語るメルヒオールの横で、コンラートはメルヒオールの皿からすっかり冷えたベーコンとひょいっと横取りした。
「簡単に言うと、メルヒオールは『みんなで頑張って作ったのに、バースィルくんが立ってるだけで効果が減っちゃうなんて、くやしいぃ~!』って言ってるんだよね」
そう言って、横取りしたベーコンをぱくっと食べた。
「うわっ美味しいね、これ」
「コンラート、誰がベーコンをやると言った」
「だってさっきから話に夢中で放ったらかしじゃないかぁ」
大の大人がベーコンの皿を取り合ってる様を見て、先程のメルヒオールの剣幕も忘れ、バースィルは笑ってしまった。
バースィルの目算だと、コンラートは三十半ば、メルヒオールは四十路、それも後半といったところだろう。その二人が損得なく親しくしている様は好感が持てた。
「二人は随分と仲がいいんだな」
「そう? そう見えるなら嬉しいな。もう十五年とかの付き合いだもんねぇ」
バースィルの言葉を受けて、にこりとしたコンラートだったが、メルヒオールは奪い返したベーコンを不貞腐れた顔で食べているばかりだ。
「君だって、金髪の獣人くんと仲良しだよねぇ」
「あぁ、生まれた時から一緒だからな」
シュジャーウのことだと、すぐに分かった。コンラートから見ても、シュジャーウとの関係は良好に見えるようで、バースィルは心から嬉しくて喜んだ。
そこでふと、気になることが浮かんでくる。
ウィアルとは?
ウィアルとは、どう見えるんだろうか。
聞いてみたい。
でも聞くのも怖くなっていた。
「あ、なぁ……、あのさ……」
珍しく言葉に詰まるバースィルの様子に、二人は首を傾げる。
「どうしたの~? お兄さんに話してごらん?」
「お兄さんという柄かね」
「年の離れたお兄さんだと思ってほしいなぁ」
照れたように笑うコンラートを他所に、メルヒオールは呆れた顔をした。彼はバースィルに歳を問うてくるので、十九と答えれば、今度はコンラートに「君の甥御くんはいくつだったかね」と尋ねる。
その問いの含みに気が付いたコンラートは、ふわりとした茶色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて嘆いた。
「うちのミランは十八だったよ、たしか!」
「ほら見ろ、お兄さんは無理があるだろう?」
したり顔のメルヒオールに、本当だぁとメソメソとするコンラートを見ていたら、悶々としていた自分が馬鹿らしくなってくる。バースィルの表情が柔らかくなったのを確認すれば、コンラートは優しげに言った。
「どうしたの? おじさんたちに話してごらん?」
おじさんたちという言葉に、メルヒオールの眉根が寄るが「僕より上なのにおじさんじゃないとは言わないよね?」と笑えば、彼は何も言及をしなかった。歯に衣着せぬ気心がしれた仲なのだなぁとバースィルは思う。
店での様子を見る限り、コンラートは人付き合いがよく、顔も広い。メルヒオールは立場上のためか一人でいることが多いが、たまに誰かから話を持ちかけられていることがある。
それらを踏まえると、相談に乗って貰えるのはありがたい話なのではないか。
バースィルは、常連の皆から見ての意見が聞きたくて問うてみた。自分がウィアルの特別になり得る可能性はあるのかどうか。
「特別、ねぇ~」
いいな、若いなぁと、コンラートにはニコニコされる。メルヒオールは、ワインを一口含み口内を潤わせてから口を開いた。
「君はウィアルに愛を乞うているようだが、それはカタフニアの作法だろう?」
「あ、あぁ。あっち程しつこくはしてねえけど。あと、その、言われる方が多かったから、言うのは上手くねえ」
バースィルが答えれば、メルヒオールは先程の許容という言葉を持ち出した。
「許容というのは受け手がする努力だ。なら送り手がする努力は何だと思う?」
0
あなたにおすすめの小説
俺の婚約者は小さな王子さま?!
大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」
そう言い放ったのはこの国の王子さま?!
同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。
今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。
「年の差12歳なんてありえない!」
初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。
頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない
天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる