オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

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好意の差異 4

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 今後の約束や騎士団、魔術師会での決まりなどを軽く聞き、詳細は後日と、急な訓練の話はまとまった。
 バースィルは気になっていたことを尋ねてみる。

「ところで、何で精霊の話を?」
「あぁ、それはね。君が来るようになってから、この店の魔術が少し弱まっているのではとなってね。原因は何かと調べているところなんだよ」

 メルヒオールが言うことには、この店には色々な魔法、魔術が施されていて、店を保護しているのだそうだ。それを聞いたバースィルは、以前シュジャーウの話していたことを思い出した。
 関係者の話し合いによると、その魔法や魔術はバースィルの何かに干渉を受けているのではという話になったそうだ。

 ちなみに、家に魔術を施すことは、魔術師たちにとっては日常茶飯事で、特に珍しいことではないのだとか。
 この辺り一帯の住居が基本的に主不在と分かっているのに、治安が取り沙汰されていない理由は、魔術での防犯が成り立っているから。主不在時に建物に入ったとして、床から火の壁が噴き出すような家には、空き巣も入りたくない、そういうことらしい。

 ランディアの隠蔽や防音の魔法が干渉されている原因を、カタフニアの赤狼であれば精霊が絡んでいるのではと考えて、メルヒオールはバースィルから話が聞きたかったのだと語った。

「つまり、俺のせいってことか?」
「まさか!」

 メルヒオールは、ひときわ語気を強めて否定した。

「君のせいなわけがあるかね。とどの詰まりは、我々の魔術が稚拙だということだよ。長年の研究は児戯に等しかったという訳だ」

 滔々と語るメルヒオールの横で、コンラートはメルヒオールの皿からすっかり冷えたベーコンとひょいっと横取りした。

「簡単に言うと、メルヒオールは『みんなで頑張って作ったのに、バースィルくんが立ってるだけで効果が減っちゃうなんて、くやしいぃ~!』って言ってるんだよね」

 そう言って、横取りしたベーコンをぱくっと食べた。

「うわっ美味しいね、これ」
「コンラート、誰がベーコンをやると言った」
「だってさっきから話に夢中で放ったらかしじゃないかぁ」

 大の大人がベーコンの皿を取り合ってる様を見て、先程のメルヒオールの剣幕も忘れ、バースィルは笑ってしまった。
 バースィルの目算だと、コンラートは三十半ば、メルヒオールは四十路、それも後半といったところだろう。その二人が損得なく親しくしている様は好感が持てた。

「二人は随分と仲がいいんだな」
「そう? そう見えるなら嬉しいな。もう十五年とかの付き合いだもんねぇ」

 バースィルの言葉を受けて、にこりとしたコンラートだったが、メルヒオールは奪い返したベーコンを不貞腐れた顔で食べているばかりだ。

「君だって、金髪の獣人くんと仲良しだよねぇ」
「あぁ、生まれた時から一緒だからな」

 シュジャーウのことだと、すぐに分かった。コンラートから見ても、シュジャーウとの関係は良好に見えるようで、バースィルは心から嬉しくて喜んだ。

 そこでふと、気になることが浮かんでくる。

 ウィアルとは?
 ウィアルとは、どう見えるんだろうか。

 聞いてみたい。
 でも聞くのも怖くなっていた。

「あ、なぁ……、あのさ……」

 珍しく言葉に詰まるバースィルの様子に、二人は首を傾げる。

「どうしたの~? お兄さんに話してごらん?」
「お兄さんという柄かね」
「年の離れたお兄さんだと思ってほしいなぁ」

 照れたように笑うコンラートを他所に、メルヒオールは呆れた顔をした。彼はバースィルに歳を問うてくるので、十九と答えれば、今度はコンラートに「君の甥御くんはいくつだったかね」と尋ねる。
 その問いの含みに気が付いたコンラートは、ふわりとした茶色の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて嘆いた。

「うちのミランは十八だったよ、たしか!」
「ほら見ろ、お兄さんは無理があるだろう?」

 したり顔のメルヒオールに、本当だぁとメソメソとするコンラートを見ていたら、悶々としていた自分が馬鹿らしくなってくる。バースィルの表情が柔らかくなったのを確認すれば、コンラートは優しげに言った。

「どうしたの? おじさんたちに話してごらん?」

 おじさんという言葉に、メルヒオールの眉根が寄るが「僕より上なのにおじさんじゃないとは言わないよね?」と笑えば、彼は何も言及をしなかった。歯に衣着せぬ気心がしれた仲なのだなぁとバースィルは思う。
 店での様子を見る限り、コンラートは人付き合いがよく、顔も広い。メルヒオールは立場上のためか一人でいることが多いが、たまに誰かから話を持ちかけられていることがある。
 それらを踏まえると、相談に乗って貰えるのはありがたい話なのではないか。

 バースィルは、常連の皆から見ての意見が聞きたくて問うてみた。自分がウィアルの特別になり得る可能性はあるのかどうか。

「特別、ねぇ~」

 いいな、若いなぁと、コンラートにはニコニコされる。メルヒオールは、ワインを一口含み口内を潤わせてから口を開いた。

「君はウィアルに愛を乞うているようだが、それはカタフニアの作法だろう?」
「あ、あぁ。あっち程しつこくはしてねえけど。あと、その、言われる方が多かったから、言うのは上手くねえ」

 バースィルが答えれば、メルヒオールは先程の許容という言葉を持ち出した。

「許容というのは受け手がする努力だ。なら送り手がする努力は何だと思う?」
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