オオカミさんはちょっと愛が重い

青木十

文字の大きさ
37 / 43

好意の差異 5

しおりを挟む
 メルヒオールは、紫がかった青い瞳でバースィルをじっと見る。
 琥珀の瞳はそれを見返しながら、思案した。どのような答えを求められているかは分からない。ただ今は素直な心を伝えるべきだろうと。

「え……っと、そうだな、……相手が嫌な思いをしないようにとか、伝わるように伝える、とかか」

 バースィルは、自分が気をつけていること、気をつけねばと思っていることを答えた。正直、努めてはいるものの、できているかは自信がなかった。
 その答えを聞くと、メルヒオールは満足そうに頷いた。その仕草はどこかの教師のようだなとバースィルは思う。

「そうだ。相手を慮るということは、とても大切な努力だ。そして、それを成すには相手を理解する必要がある。為人、文化、嗜好、なんでもいい」

 候補を上げるたびに指折り、それをバースィルと共有しようとしてくれている。

「そこで見えてくるのは、差異だ」
「差異……」

 バースィルは、ぽつりと彼の言葉を繰り返した。

「そうだ。相手を理解するために、そういったものを見つける努力が必要だ。琴線の差、許容の可否、矜持の一線、互いに別の個である以上、様々な差異が有り得るだろう。
 もし君の求める特別な関係を成したいなら、まず見つけて理解しすり合わせなければならない差異がある」

 言葉を止めてこちらを見つめる紫青の瞳。探られた先ほどとは違う。まっすぐとした視線は、とても真摯さを感じさせた。

「それが、好意の差異だ」

 バースィルは、その言葉にぎくりとする。

「自分の好意と相手の好意、どこが違うかどう違うか、どうやったら同じ方向に収束するのか、そこを見出さなくてはならない。
 バースィルくん、果たして君の好意は、マスターの好意と同じかね」

 他人から見てもそう見えるのか。
 メルヒオールの問いは、バースィルの不安を刺激し煽る。

 バースィルが感じている不安、不満、物足りなさ、それは差異を理解していないからだとしたら。その差異を理解し、解消するなり落とし所を見つけるなりしなければ、不安も不満も消えないだろう。
 ウィアルに上手く伝えられないのは、自分がいろんな差異を理解できていないからだとしたら。ウィアルと距離が縮まったとしても、その要因に自分の望むものと差異があれば、悪いとは言わないが違う未来しか待っていない。
 差異によってもたらされる問題は多数考えられる。
 特にメルヒオールの指摘するそれは、あまりにも大きな問題となるだろう。

 だからと言って、その差異を押し付けては、最初に挙げた相手を慮るという努力の放棄だ。

「君は自分が差し出す好意が、相手から貰える好意と同じになっているかね。相手が求める好意と同じものが、果たして授けられているのかね。
 カタフニアの作法は魅力的だが、乞うばかりが愛ではないよ」

 メルヒオールは、口端を上げて笑った。バースィルには、その笑みが少々自嘲的なものに見えた。

「これは経験談だからねぇ。信憑性があるってもんだよ~」

 横から、コンラートが訳知り顔で大きく頷いた。それから、背筋を伸ばして人差し指を立てる。

「好意もないのに恋人ヅラされたり、勝手に不満を詰られたり、メルヒオールはなかなかひどかったんだよ?」
「だまれ、コンラート。それは俺の問題じゃない。親切と恋情を履き違えたり、口に出さないのに理解してもらおうとしたり、そんな考えはそもそもイカレてるんだ」

 メルヒオールは、端正な顔を歪めて吐き捨てるように言う。心底嫌だという顔をしていた。

「わはは、素が出てる。そんなのばかりに言い寄られるのが悪いんだよ~」

 それが原因で偏屈を隠さなくなっちゃったんだけどねと、コンラートは頭を振って笑った。
 メルヒオールは、黙れとばかりに大きめに切った厚切りベーコンをコンラートの口に突っ込んだ。ベーコンを咀嚼するために黙ったコンラートを認めると、続きを口にする。

「好意には色々ある。愛一つとっても、博愛、友愛、親愛、恋愛、愛慕とあるわけだ」

 ――果たして、君が受けているマスターからの好意はどれだろうね。

 あると分かっているのに、考えることを放置していた、甘んじて享受してきたことを突きつけられる。
 バースィル自身、差異を感じていてもそれを今はいいかで受け入れていた。でもそれは、許容ではなく妥協だ。

 それでウィアルから望む形の愛が得られるのか。

 メルヒオールの指摘は、そういうことだ。

「そういう意味では、君は確実にマスターに愛を乞えた、彼にとっての特別な存在だと言えるだろうね」

 メルヒオールは、片眉を上げて困ったように笑った後、ワインのグラスを煽った。

 貰いたかった言葉のはずだけれども、自分が望むものとかけ離れた意味に愕然とした。
 それが悪いわけではない。しかしそれで満足できるほど、バースィルは聞き分けが良いわけでもなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」 そう言い放ったのはこの国の王子さま?! 同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。 今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。 「年の差12歳なんてありえない!」 初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。 頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない

天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。 「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」 ――新王から事実上の追放を受けたガイ。 副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。 ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。 その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。 兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。 エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに―― 筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。 ※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!

中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。 無表情・無駄のない所作・隙のない資料―― 完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。 けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。 イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。 毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、 凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。 「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」 戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。 けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、 どこか“計算”を感じ始めていて……? 狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ 業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!

処理中です...