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好意の差異 5
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メルヒオールは、紫がかった青い瞳でバースィルをじっと見る。
琥珀の瞳はそれを見返しながら、思案した。どのような答えを求められているかは分からない。ただ今は素直な心を伝えるべきだろうと。
「え……っと、そうだな、……相手が嫌な思いをしないようにとか、伝わるように伝える、とかか」
バースィルは、自分が気をつけていること、気をつけねばと思っていることを答えた。正直、努めてはいるものの、できているかは自信がなかった。
その答えを聞くと、メルヒオールは満足そうに頷いた。その仕草はどこかの教師のようだなとバースィルは思う。
「そうだ。相手を慮るということは、とても大切な努力だ。そして、それを成すには相手を理解する必要がある。為人、文化、嗜好、なんでもいい」
候補を上げるたびに指折り、それをバースィルと共有しようとしてくれている。
「そこで見えてくるのは、差異だ」
「差異……」
バースィルは、ぽつりと彼の言葉を繰り返した。
「そうだ。相手を理解するために、そういったものを見つける努力が必要だ。琴線の差、許容の可否、矜持の一線、互いに別の個である以上、様々な差異が有り得るだろう。
もし君の求める特別な関係を成したいなら、まず見つけて理解しすり合わせなければならない差異がある」
言葉を止めてこちらを見つめる紫青の瞳。探られた先ほどとは違う。まっすぐとした視線は、とても真摯さを感じさせた。
「それが、好意の差異だ」
バースィルは、その言葉にぎくりとする。
「自分の好意と相手の好意、どこが違うかどう違うか、どうやったら同じ方向に収束するのか、そこを見出さなくてはならない。
バースィルくん、果たして君の好意は、マスターの好意と同じかね」
他人から見てもそう見えるのか。
メルヒオールの問いは、バースィルの不安を刺激し煽る。
バースィルが感じている不安、不満、物足りなさ、それは差異を理解していないからだとしたら。その差異を理解し、解消するなり落とし所を見つけるなりしなければ、不安も不満も消えないだろう。
ウィアルに上手く伝えられないのは、自分がいろんな差異を理解できていないからだとしたら。ウィアルと距離が縮まったとしても、その要因に自分の望むものと差異があれば、悪いとは言わないが違う未来しか待っていない。
差異によってもたらされる問題は多数考えられる。
特にメルヒオールの指摘するそれは、あまりにも大きな問題となるだろう。
だからと言って、その差異を押し付けては、最初に挙げた相手を慮るという努力の放棄だ。
「君は自分が差し出す好意が、相手から貰える好意と同じになっているかね。相手が求める好意と同じものが、果たして授けられているのかね。
カタフニアの作法は魅力的だが、乞うばかりが愛ではないよ」
メルヒオールは、口端を上げて笑った。バースィルには、その笑みが少々自嘲的なものに見えた。
「これは経験談だからねぇ。信憑性があるってもんだよ~」
横から、コンラートが訳知り顔で大きく頷いた。それから、背筋を伸ばして人差し指を立てる。
「好意もないのに恋人ヅラされたり、勝手に不満を詰られたり、メルヒオールはなかなかひどかったんだよ?」
「だまれ、コンラート。それは俺の問題じゃない。親切と恋情を履き違えたり、口に出さないのに理解してもらおうとしたり、そんな考えはそもそもイカレてるんだ」
メルヒオールは、端正な顔を歪めて吐き捨てるように言う。心底嫌だという顔をしていた。
「わはは、素が出てる。そんなのばかりに言い寄られるのが悪いんだよ~」
それが原因で偏屈を隠さなくなっちゃったんだけどねと、コンラートは頭を振って笑った。
メルヒオールは、黙れとばかりに大きめに切った厚切りベーコンをコンラートの口に突っ込んだ。ベーコンを咀嚼するために黙ったコンラートを認めると、続きを口にする。
「好意には色々ある。愛一つとっても、博愛、友愛、親愛、恋愛、愛慕とあるわけだ」
――果たして、君が受けているマスターからの好意はどれだろうね。
あると分かっているのに、考えることを放置していた、甘んじて享受してきたことを突きつけられる。
バースィル自身、差異を感じていてもそれを今はいいかで受け入れていた。でもそれは、許容ではなく妥協だ。
それでウィアルから望む形の愛が得られるのか。
メルヒオールの指摘は、そういうことだ。
「そういう意味では、君は確実にマスターに愛を乞えた、彼にとっての特別な存在だと言えるだろうね」
メルヒオールは、片眉を上げて困ったように笑った後、ワインのグラスを煽った。
貰いたかった言葉のはずだけれども、自分が望むものとかけ離れた意味に愕然とした。
それが悪いわけではない。しかしそれで満足できるほど、バースィルは聞き分けが良いわけでもなかった。
琥珀の瞳はそれを見返しながら、思案した。どのような答えを求められているかは分からない。ただ今は素直な心を伝えるべきだろうと。
「え……っと、そうだな、……相手が嫌な思いをしないようにとか、伝わるように伝える、とかか」
バースィルは、自分が気をつけていること、気をつけねばと思っていることを答えた。正直、努めてはいるものの、できているかは自信がなかった。
その答えを聞くと、メルヒオールは満足そうに頷いた。その仕草はどこかの教師のようだなとバースィルは思う。
「そうだ。相手を慮るということは、とても大切な努力だ。そして、それを成すには相手を理解する必要がある。為人、文化、嗜好、なんでもいい」
候補を上げるたびに指折り、それをバースィルと共有しようとしてくれている。
「そこで見えてくるのは、差異だ」
「差異……」
バースィルは、ぽつりと彼の言葉を繰り返した。
「そうだ。相手を理解するために、そういったものを見つける努力が必要だ。琴線の差、許容の可否、矜持の一線、互いに別の個である以上、様々な差異が有り得るだろう。
もし君の求める特別な関係を成したいなら、まず見つけて理解しすり合わせなければならない差異がある」
言葉を止めてこちらを見つめる紫青の瞳。探られた先ほどとは違う。まっすぐとした視線は、とても真摯さを感じさせた。
「それが、好意の差異だ」
バースィルは、その言葉にぎくりとする。
「自分の好意と相手の好意、どこが違うかどう違うか、どうやったら同じ方向に収束するのか、そこを見出さなくてはならない。
バースィルくん、果たして君の好意は、マスターの好意と同じかね」
他人から見てもそう見えるのか。
メルヒオールの問いは、バースィルの不安を刺激し煽る。
バースィルが感じている不安、不満、物足りなさ、それは差異を理解していないからだとしたら。その差異を理解し、解消するなり落とし所を見つけるなりしなければ、不安も不満も消えないだろう。
ウィアルに上手く伝えられないのは、自分がいろんな差異を理解できていないからだとしたら。ウィアルと距離が縮まったとしても、その要因に自分の望むものと差異があれば、悪いとは言わないが違う未来しか待っていない。
差異によってもたらされる問題は多数考えられる。
特にメルヒオールの指摘するそれは、あまりにも大きな問題となるだろう。
だからと言って、その差異を押し付けては、最初に挙げた相手を慮るという努力の放棄だ。
「君は自分が差し出す好意が、相手から貰える好意と同じになっているかね。相手が求める好意と同じものが、果たして授けられているのかね。
カタフニアの作法は魅力的だが、乞うばかりが愛ではないよ」
メルヒオールは、口端を上げて笑った。バースィルには、その笑みが少々自嘲的なものに見えた。
「これは経験談だからねぇ。信憑性があるってもんだよ~」
横から、コンラートが訳知り顔で大きく頷いた。それから、背筋を伸ばして人差し指を立てる。
「好意もないのに恋人ヅラされたり、勝手に不満を詰られたり、メルヒオールはなかなかひどかったんだよ?」
「だまれ、コンラート。それは俺の問題じゃない。親切と恋情を履き違えたり、口に出さないのに理解してもらおうとしたり、そんな考えはそもそもイカレてるんだ」
メルヒオールは、端正な顔を歪めて吐き捨てるように言う。心底嫌だという顔をしていた。
「わはは、素が出てる。そんなのばかりに言い寄られるのが悪いんだよ~」
それが原因で偏屈を隠さなくなっちゃったんだけどねと、コンラートは頭を振って笑った。
メルヒオールは、黙れとばかりに大きめに切った厚切りベーコンをコンラートの口に突っ込んだ。ベーコンを咀嚼するために黙ったコンラートを認めると、続きを口にする。
「好意には色々ある。愛一つとっても、博愛、友愛、親愛、恋愛、愛慕とあるわけだ」
――果たして、君が受けているマスターからの好意はどれだろうね。
あると分かっているのに、考えることを放置していた、甘んじて享受してきたことを突きつけられる。
バースィル自身、差異を感じていてもそれを今はいいかで受け入れていた。でもそれは、許容ではなく妥協だ。
それでウィアルから望む形の愛が得られるのか。
メルヒオールの指摘は、そういうことだ。
「そういう意味では、君は確実にマスターに愛を乞えた、彼にとっての特別な存在だと言えるだろうね」
メルヒオールは、片眉を上げて困ったように笑った後、ワインのグラスを煽った。
貰いたかった言葉のはずだけれども、自分が望むものとかけ離れた意味に愕然とした。
それが悪いわけではない。しかしそれで満足できるほど、バースィルは聞き分けが良いわけでもなかった。
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