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メルヒオールからの誘いで、バースィルは定期的に宮廷魔術師会での訓練に参加することになった。
まずは基礎中の基礎、体内魔力をうまく扱うところからと方針は決まったのだが、何故かメルヒオール自らの指導を受けることになっていた。
調査と問答の結果、バースィルは基本的な魔力を循環する訓練すら受けておらず、魔法を発動させるために体外に放出する魔力すら練れないと分かったからだ。焚き火に使う火種程度では、魔法に使えないのだ。
基礎訓練は、ヴォールファルトでは子供の内に済ませる内容である。にもかかわらず、カタフニア生まれのバースィルはまったく習っていなかった。
そこで、子供相手に訓練経験がある者が対応するのがよいだろうとなり、メルヒオールが対応してくれることに決まった。彼はここ数年、子供相手に魔術理論の講義もしていたそうだ。以前感じた教師のような雰囲気はこれが理由なのかと、バースィルはのんきに考えていた。
訓練の方針を決める際、メルヒオールが眉間に皺を寄せて「カタフニアの魔法教育はどうなっている」と聞くので、バースィルは子供の頃を思い出した。
カタフニアでは、戦士の家では戦士としての教育を受ける。体を鍛え、武技を磨く。魔法は獣人の体を活かせる身体強化の魔法を習うのが慣例だ。
身体強化の魔法は、魔力の流れではなく身体を意識して使用するのだが、バースィルは全身を炎が包み込んでいるというイメージを持ってかけたらかかったので、それを続けている。そのため時々体外に火の粉が散ることがあり、それだけは直すようにと父に言われていたが、ついぞ直らなかった。
その話をバースィルがすれば、メルヒオールが呆れながら「基礎からやるしかないな。カタフニアの戦士がそこまで筋肉しかないとは思わなかった」と言うものだから、バースィルは大笑いしていた。たしかに父は筋肉しかなかったし、自分も父と同じだと思っていたからだ。
そんなバースィルを眺めながら、メルヒオールは白髪混じりの青灰髪をかき上げ、
「この状態で身体強化や亜空間収納が使えるのは、天性のものとしか言いようがないな」
と、なんとも言えない顔をしていた。
訓練は、メルヒオールの忙しい合間を縫って行われた。週に少しの時間だけしか取れないため、随分とゆっくり、その分丁寧に進んでいった。
初めてこの話が持ち上がった時には、冬が始まりそろそろ年が終わる頃だったが、あっという間に新年が迎えられ、雪がちらつき――この時のバースィルは子供のように喜んだ――、季節はそろそろ春へと移り変わろうとしていた。
今日のバースィルの出仕は夕刻まで。南門の詰め所から帰路に就く。騎士団本部には戻らなくてよいので、その足でランディアへと向かう。まだカフェは空いているし、本日はバーのある日だ。
夕日を眺めながら歩いていると、あの瞳が恋しくなる。早く会いたい気持ちが溜まってきて、早足になっていく。
宿木通りを奥へと進み、僅かに葉の芽吹き始めた樹木が寄り添う一軒家へと到着する。
バースィルを迎えた小さな庭では、丁寧に土が均されていた。新しい春に向けて、花を植える準備が進められているのだろう。以前、新しい花を植えたいとウィアルが楽しそうに話していた。
夕日に照らされた木製の扉を押し開ければ、心が安らぐ香りがする。木の匂い、本の匂い、コーヒーの薫り、そして深緑のような香り。嗅ぎ慣れた匂いに、バースィルは無意識にスンと鼻を鳴らし尾を一振りした。
「バースィルさん、いらっしゃいませ」
「ウィアル」
カウンターから名を呼ばれ、バースィルは長い脚をこれでもかと動かして歩みを寄せる。恋しかった瞳が穏やかに自分を見つめている。思わず笑みが零れた。
「今日は、詰め所から帰っていい日だったから、そのままここに寄れた」
「そうでしたか。本日もお勤めご苦労様でした」
「どうってことない。今日もウィアルに会えたから」
嬉しさ、喜び、そういったものが勝手に顔から溢れていく。
「もう春が近くなって、夕日が仕事終わりに見れるようになってきたな。夕日を見ながら歩いていたら、早くあんたに会いたいって歩みが早くなった」
「ランディアはなくなったりしませんよ」
ふふふとウィアルが見当違いに笑うけれど、今のバースィルは焦りに心を囚われることはなかった。優しい笑みを浮かべるウィアルに、心が穏やかになる。
理由は二つある。
まず一つとして、自身を鍛え騎士団で結果を見せたいと考えていた。少しでもできることを増やして、自分が果たしたいことを果たす。これは、ウィアルへの思いとは別に忘れてはならない自身の誓いだ。
そしてもう一つは、この色恋に疎いウィアルも堪能するとしたこと。焦っても仕方がないし、以前歳の離れた友人たちから聞いたところによれば、今でも十分特別なのだし、好意の差異を埋めなければ功を焦っても何も得られないと分かったのだ。
「少し早いですが、夕食になさいますか」
「いや、飯はもう少ししてから頼むよ。ウィアルの淹れてくれたコーヒーが飲みたい」
そうやって頼めば、嬉しそうに頷いてくれる。バースィルも頷き返すと、奥の空いている席へと向かった。
まずは基礎中の基礎、体内魔力をうまく扱うところからと方針は決まったのだが、何故かメルヒオール自らの指導を受けることになっていた。
調査と問答の結果、バースィルは基本的な魔力を循環する訓練すら受けておらず、魔法を発動させるために体外に放出する魔力すら練れないと分かったからだ。焚き火に使う火種程度では、魔法に使えないのだ。
基礎訓練は、ヴォールファルトでは子供の内に済ませる内容である。にもかかわらず、カタフニア生まれのバースィルはまったく習っていなかった。
そこで、子供相手に訓練経験がある者が対応するのがよいだろうとなり、メルヒオールが対応してくれることに決まった。彼はここ数年、子供相手に魔術理論の講義もしていたそうだ。以前感じた教師のような雰囲気はこれが理由なのかと、バースィルはのんきに考えていた。
訓練の方針を決める際、メルヒオールが眉間に皺を寄せて「カタフニアの魔法教育はどうなっている」と聞くので、バースィルは子供の頃を思い出した。
カタフニアでは、戦士の家では戦士としての教育を受ける。体を鍛え、武技を磨く。魔法は獣人の体を活かせる身体強化の魔法を習うのが慣例だ。
身体強化の魔法は、魔力の流れではなく身体を意識して使用するのだが、バースィルは全身を炎が包み込んでいるというイメージを持ってかけたらかかったので、それを続けている。そのため時々体外に火の粉が散ることがあり、それだけは直すようにと父に言われていたが、ついぞ直らなかった。
その話をバースィルがすれば、メルヒオールが呆れながら「基礎からやるしかないな。カタフニアの戦士がそこまで筋肉しかないとは思わなかった」と言うものだから、バースィルは大笑いしていた。たしかに父は筋肉しかなかったし、自分も父と同じだと思っていたからだ。
そんなバースィルを眺めながら、メルヒオールは白髪混じりの青灰髪をかき上げ、
「この状態で身体強化や亜空間収納が使えるのは、天性のものとしか言いようがないな」
と、なんとも言えない顔をしていた。
訓練は、メルヒオールの忙しい合間を縫って行われた。週に少しの時間だけしか取れないため、随分とゆっくり、その分丁寧に進んでいった。
初めてこの話が持ち上がった時には、冬が始まりそろそろ年が終わる頃だったが、あっという間に新年が迎えられ、雪がちらつき――この時のバースィルは子供のように喜んだ――、季節はそろそろ春へと移り変わろうとしていた。
今日のバースィルの出仕は夕刻まで。南門の詰め所から帰路に就く。騎士団本部には戻らなくてよいので、その足でランディアへと向かう。まだカフェは空いているし、本日はバーのある日だ。
夕日を眺めながら歩いていると、あの瞳が恋しくなる。早く会いたい気持ちが溜まってきて、早足になっていく。
宿木通りを奥へと進み、僅かに葉の芽吹き始めた樹木が寄り添う一軒家へと到着する。
バースィルを迎えた小さな庭では、丁寧に土が均されていた。新しい春に向けて、花を植える準備が進められているのだろう。以前、新しい花を植えたいとウィアルが楽しそうに話していた。
夕日に照らされた木製の扉を押し開ければ、心が安らぐ香りがする。木の匂い、本の匂い、コーヒーの薫り、そして深緑のような香り。嗅ぎ慣れた匂いに、バースィルは無意識にスンと鼻を鳴らし尾を一振りした。
「バースィルさん、いらっしゃいませ」
「ウィアル」
カウンターから名を呼ばれ、バースィルは長い脚をこれでもかと動かして歩みを寄せる。恋しかった瞳が穏やかに自分を見つめている。思わず笑みが零れた。
「今日は、詰め所から帰っていい日だったから、そのままここに寄れた」
「そうでしたか。本日もお勤めご苦労様でした」
「どうってことない。今日もウィアルに会えたから」
嬉しさ、喜び、そういったものが勝手に顔から溢れていく。
「もう春が近くなって、夕日が仕事終わりに見れるようになってきたな。夕日を見ながら歩いていたら、早くあんたに会いたいって歩みが早くなった」
「ランディアはなくなったりしませんよ」
ふふふとウィアルが見当違いに笑うけれど、今のバースィルは焦りに心を囚われることはなかった。優しい笑みを浮かべるウィアルに、心が穏やかになる。
理由は二つある。
まず一つとして、自身を鍛え騎士団で結果を見せたいと考えていた。少しでもできることを増やして、自分が果たしたいことを果たす。これは、ウィアルへの思いとは別に忘れてはならない自身の誓いだ。
そしてもう一つは、この色恋に疎いウィアルも堪能するとしたこと。焦っても仕方がないし、以前歳の離れた友人たちから聞いたところによれば、今でも十分特別なのだし、好意の差異を埋めなければ功を焦っても何も得られないと分かったのだ。
「少し早いですが、夕食になさいますか」
「いや、飯はもう少ししてから頼むよ。ウィアルの淹れてくれたコーヒーが飲みたい」
そうやって頼めば、嬉しそうに頷いてくれる。バースィルも頷き返すと、奥の空いている席へと向かった。
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