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2人の逃避行
智美の戦い1
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智美の意識が闇の淵から蘇ったのは、ゼークと引き裂かれてからわずかな時が流れた時だった。
心臓を締め上げるような恐怖と、胸を焦がす切ない想いが智美の全身を貫いた。
(私……まだ生きてる。ゼーク……ゼークは? うまく逃げてくれたかな? 生きてて……くれてるよね?)
智美の視界には、ゼークの姿が見えない。
智美は息を呑み、血と硝煙に満ちた戦場を必死で見回した。
ゼークは、逃げていると信じたい……ただ、自分を置いて逃げるとは考えにくい。
ゼークの性格を考えると、智美は探さずにはいられなかった。
「いっ……たぁ……」
智美は、身体を動かした瞬間に蹲った。
多少の時間経過で、足が治っている筈がない。
意識を失っていた事……
ゼークの安否……
様々な要因が、足の怪我を智美は思考から消
していた。
しかし足はわずかに動かしただけで、まるで肉を裂く刃のような激痛が走った。
その激痛は、智美に絶望的な現実を突き付ける。
歩くどころか、立つ事すらままならない状態だった。
それでも、智美の心はゼークの幻影に囚われていた。
智美を庇い続け、傷つきながらも戦い続けていたゼークの背中。
その勇敢な姿が、朦朧とする意識の中で唯一の光だった。
だからこそ、ゼークの無事を確かめたかった。
智美は震える足を引きずり、這うように進み始める。
回復すれば青白い光が放たれ、智美の生存をヨトゥン兵に気付かれてしまうかもしれない。
恐怖が、智美の心を締め付ける。
普通に考えれば、意識を失って倒れていたからこそ……微動だに動かなかったからこそ、ヨトゥン兵に気付かれなかった。
だが智美は、つい最近まで平凡な女子大生だった。
動くことでヨトゥン兵に発見される危険が高まることなど、想像も予測もできる訳がない。
智美の心を支配していたのは、ただ1つ……ゼークが生きてている事を確認したいという、願いだけだった。
「おい、動いている人影があるぞ! あそこだ! 止めを刺せ!」
不吉な叫び声が戦場に響き、ヨトゥン兵の鋭い視線が智美を捉えた。
心臓が凍りつき、恐怖が全身を駆け巡る。
しかし凍てつく様な恐怖すら、智美の決意を打ち砕くことはできなかった。
(もしゼークが私を助ける為に、戦っているとしたら……私が生きている事を伝えられるなら……やってみる価値はある! 私を守る為に命を落とすなんて、絶対にダメ! ゼークを……助けるんだ!)
魂の底から湧き上がる決意が、智美の震える手を天叢雲剣へと導いた。
智美の瞳が、僅かに……薄い青に変わっていく。
傷ついた足に剣を当てた瞬間、眩い程の青き輝きが迸る。
まるで命そのものが脈打つように、剣が共鳴した。
一瞬だった……それまでとは、明らかに違う力を智美は感じる。
青い光に全身が包まれ、全ての傷が消える。
身体が癒え、激痛が薄れていく。
それは、神剣に認められた者にのみ与えられる奇跡だった。
決意の力が、神剣の力を極限まで引き出している様である。
智美の心は、まるで燃え盛る炎のように……熱く……
強く……
燃えていた。
身体を癒した青い光は、折れそうになっていた智美の心も癒していた。
他者を癒す以上の、圧倒的な回復力。
ヨトゥン兵が殺到する頃には智美の足は痛みを忘れ、まるで新たな命を吹き込まれたかのように軽やかに動く。
ほんの数週間前、智美はただの大学生だった。
足を斬られ、大量の血で身体が染まった。
意識を失った、あの瞬間……それは、智美にとって「当たり前」だったはずだ。
だが今、ゼークへの想い……守られた命への感謝と、絶対に守りたいという烈しい情熱が智美の全身を支配していく。
青い光が消えると同時に、智美は迫りくるヨトゥン兵の刃に立ち向かった。
元の色に戻ったその瞳には、恐怖も迷いもない。
あるのは、ただゼークを救うための揺るぎない意志だけ。
ヨトゥンと戦うと決めた後、智美はゼークやアルパスターといった圧倒的な強者たちと共に訓練を重ねてきた。
智美の剣舞は変則的で、敵の目を惑わす華麗な旋律。
天叢雲剣と草薙剣は、水の刃を纏いヨトゥン兵達を斬り裂いていく。
舞うように剣を振るい、智美は血路を開いた。
ヨトゥン兵を倒す度、智美は遠くまで視界を飛ばす。
そして心は、大声で叫んでいた。
(ゼーク、どこにいるの? 無事でいてよ……私は、ここにいるよ!)
スリヴァルディには、一瞬で足を斬られた。だが、兵卒如きに屈する智美ではない。
血と叫び声の中、智美は自らの道を切り開いていく。
戦いながらもゼークを捜すその目に、ふと、異様な光景が飛び込んできた。
崖の上に立つ、漆黒の鎧に身を包んだ黒髪の美青年。
その姿は、神々の世界から抜け出したかのように神聖であった……が、どこか冷たく底知れぬ危険を孕んでいた。
智美の心は一瞬、凍りつく。
(あれは……人……なの? それとも……神なの? なんて、神々しいんだろう……でも、危険な香りがするのは……なぜ?)
戦場の喧騒も、血の匂いも……全てが遠のいていく。
智美は彼の姿に心を奪われ、ただ見つめてしまった。
恐怖と……なぜか胸を締め付ける感情が、智美の心を揺さぶった。
その漆黒の騎士……ロキは、隣に立つ騎士ビューレイストと共に智美の持つ2振りの剣に興味深そうな視線を注いでいる。
「ビューレイスト、あの剣……どう見る?」
冷静な声は、まるで凍てつく闇が囁く様な深みがある。
ビューレイストは剣を凝視し、僅かに崖から身を乗り出す。
「水系最強の槍、トライデントの劣化版のような能力……見た事のない形状ですが、その本質は似ている気がします」
ロキは腕を組み、智美を値踏みするように見つめた。
彼こそ遥か昔、バルドル殺しの罪でヨトゥンヘイムに堕とされた伝説の存在……ロキ、その人である。
その瞳には冷酷さと、どこか哀しみを帯びた光が宿っていた。
「あの女騎士……Myth Knightとしての力は、まだ未熟だ。力の使い方が分かっていない。だが、神剣はトライデント級の力を有している……」
「仰る通りです、ロキ様。彼女の実力はフィアナ騎士団はおろか、どこの国の近衛騎士にも及ばぬでしょう。脅威には、なり得ません。しかし気になるのは、あの神剣……トライデントと関わりがあるのならば……」
ビューレイストの言葉に、ロキの唇が僅かに歪んだ。
それは、まるで獲物を弄ぶ獣の微笑だった。
「トライデントに似た能力……か。見過ごしてやる訳にはいかんな。トライデントと共に消えたSword of Victoryの手がかりになるやもしれん……」
「トライデントは、7国の騎士ミルティ・ノアの使っていた神槍。もし彼女が、龍皇の力を有しているのならば……」
ビューレイストは静かに言うと、剣の柄に手を置いた。
その動きは、まるで静かな水面に波紋を広げるように穏やかである。
「捕らえて、話を聞きいてみましょう。現状のアルパスター陣営に、バロール討伐の脅威となる者がいるかも探れるかもしれません。無駄にはならないでしょう」
「そうだな……ビューレイスト、頼む」
ロキは、崖下のヨトゥン兵に向かって手を翳した。
その合図と共に、智美を囲んでいたヨトゥン兵が一斉に退く。
突然の静寂に智美は息を呑み、崖の上のロキを見上げる。
その神聖で冷酷な姿に、智美の心は震えた。
それでも智美の瞳には、決意の炎が燃え続けている。
ゼークを、必ず見つけ出す。
どんなに強敵が相手でも、その想いだけが智美を突き動かしていた。
スリヴァルディと対峙した時以上の恐怖と、なぜか胸を締め付ける予感。
ロキとの出会いが、智美を新たな運命の渦へと押しやっていく事になる……
心臓を締め上げるような恐怖と、胸を焦がす切ない想いが智美の全身を貫いた。
(私……まだ生きてる。ゼーク……ゼークは? うまく逃げてくれたかな? 生きてて……くれてるよね?)
智美の視界には、ゼークの姿が見えない。
智美は息を呑み、血と硝煙に満ちた戦場を必死で見回した。
ゼークは、逃げていると信じたい……ただ、自分を置いて逃げるとは考えにくい。
ゼークの性格を考えると、智美は探さずにはいられなかった。
「いっ……たぁ……」
智美は、身体を動かした瞬間に蹲った。
多少の時間経過で、足が治っている筈がない。
意識を失っていた事……
ゼークの安否……
様々な要因が、足の怪我を智美は思考から消
していた。
しかし足はわずかに動かしただけで、まるで肉を裂く刃のような激痛が走った。
その激痛は、智美に絶望的な現実を突き付ける。
歩くどころか、立つ事すらままならない状態だった。
それでも、智美の心はゼークの幻影に囚われていた。
智美を庇い続け、傷つきながらも戦い続けていたゼークの背中。
その勇敢な姿が、朦朧とする意識の中で唯一の光だった。
だからこそ、ゼークの無事を確かめたかった。
智美は震える足を引きずり、這うように進み始める。
回復すれば青白い光が放たれ、智美の生存をヨトゥン兵に気付かれてしまうかもしれない。
恐怖が、智美の心を締め付ける。
普通に考えれば、意識を失って倒れていたからこそ……微動だに動かなかったからこそ、ヨトゥン兵に気付かれなかった。
だが智美は、つい最近まで平凡な女子大生だった。
動くことでヨトゥン兵に発見される危険が高まることなど、想像も予測もできる訳がない。
智美の心を支配していたのは、ただ1つ……ゼークが生きてている事を確認したいという、願いだけだった。
「おい、動いている人影があるぞ! あそこだ! 止めを刺せ!」
不吉な叫び声が戦場に響き、ヨトゥン兵の鋭い視線が智美を捉えた。
心臓が凍りつき、恐怖が全身を駆け巡る。
しかし凍てつく様な恐怖すら、智美の決意を打ち砕くことはできなかった。
(もしゼークが私を助ける為に、戦っているとしたら……私が生きている事を伝えられるなら……やってみる価値はある! 私を守る為に命を落とすなんて、絶対にダメ! ゼークを……助けるんだ!)
魂の底から湧き上がる決意が、智美の震える手を天叢雲剣へと導いた。
智美の瞳が、僅かに……薄い青に変わっていく。
傷ついた足に剣を当てた瞬間、眩い程の青き輝きが迸る。
まるで命そのものが脈打つように、剣が共鳴した。
一瞬だった……それまでとは、明らかに違う力を智美は感じる。
青い光に全身が包まれ、全ての傷が消える。
身体が癒え、激痛が薄れていく。
それは、神剣に認められた者にのみ与えられる奇跡だった。
決意の力が、神剣の力を極限まで引き出している様である。
智美の心は、まるで燃え盛る炎のように……熱く……
強く……
燃えていた。
身体を癒した青い光は、折れそうになっていた智美の心も癒していた。
他者を癒す以上の、圧倒的な回復力。
ヨトゥン兵が殺到する頃には智美の足は痛みを忘れ、まるで新たな命を吹き込まれたかのように軽やかに動く。
ほんの数週間前、智美はただの大学生だった。
足を斬られ、大量の血で身体が染まった。
意識を失った、あの瞬間……それは、智美にとって「当たり前」だったはずだ。
だが今、ゼークへの想い……守られた命への感謝と、絶対に守りたいという烈しい情熱が智美の全身を支配していく。
青い光が消えると同時に、智美は迫りくるヨトゥン兵の刃に立ち向かった。
元の色に戻ったその瞳には、恐怖も迷いもない。
あるのは、ただゼークを救うための揺るぎない意志だけ。
ヨトゥンと戦うと決めた後、智美はゼークやアルパスターといった圧倒的な強者たちと共に訓練を重ねてきた。
智美の剣舞は変則的で、敵の目を惑わす華麗な旋律。
天叢雲剣と草薙剣は、水の刃を纏いヨトゥン兵達を斬り裂いていく。
舞うように剣を振るい、智美は血路を開いた。
ヨトゥン兵を倒す度、智美は遠くまで視界を飛ばす。
そして心は、大声で叫んでいた。
(ゼーク、どこにいるの? 無事でいてよ……私は、ここにいるよ!)
スリヴァルディには、一瞬で足を斬られた。だが、兵卒如きに屈する智美ではない。
血と叫び声の中、智美は自らの道を切り開いていく。
戦いながらもゼークを捜すその目に、ふと、異様な光景が飛び込んできた。
崖の上に立つ、漆黒の鎧に身を包んだ黒髪の美青年。
その姿は、神々の世界から抜け出したかのように神聖であった……が、どこか冷たく底知れぬ危険を孕んでいた。
智美の心は一瞬、凍りつく。
(あれは……人……なの? それとも……神なの? なんて、神々しいんだろう……でも、危険な香りがするのは……なぜ?)
戦場の喧騒も、血の匂いも……全てが遠のいていく。
智美は彼の姿に心を奪われ、ただ見つめてしまった。
恐怖と……なぜか胸を締め付ける感情が、智美の心を揺さぶった。
その漆黒の騎士……ロキは、隣に立つ騎士ビューレイストと共に智美の持つ2振りの剣に興味深そうな視線を注いでいる。
「ビューレイスト、あの剣……どう見る?」
冷静な声は、まるで凍てつく闇が囁く様な深みがある。
ビューレイストは剣を凝視し、僅かに崖から身を乗り出す。
「水系最強の槍、トライデントの劣化版のような能力……見た事のない形状ですが、その本質は似ている気がします」
ロキは腕を組み、智美を値踏みするように見つめた。
彼こそ遥か昔、バルドル殺しの罪でヨトゥンヘイムに堕とされた伝説の存在……ロキ、その人である。
その瞳には冷酷さと、どこか哀しみを帯びた光が宿っていた。
「あの女騎士……Myth Knightとしての力は、まだ未熟だ。力の使い方が分かっていない。だが、神剣はトライデント級の力を有している……」
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それは、まるで獲物を弄ぶ獣の微笑だった。
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「トライデントは、7国の騎士ミルティ・ノアの使っていた神槍。もし彼女が、龍皇の力を有しているのならば……」
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「そうだな……ビューレイスト、頼む」
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その神聖で冷酷な姿に、智美の心は震えた。
それでも智美の瞳には、決意の炎が燃え続けている。
ゼークを、必ず見つけ出す。
どんなに強敵が相手でも、その想いだけが智美を突き動かしていた。
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