雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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恐怖の炎

劫火の咆哮

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 ドォォォォォォンン!

 天地が粉々に砕けたような轟音が、3人を瞬時に呑み込む。
 まるで地球が悲鳴を上げ大地そのものが断末魔に喘いだような、魂を震わせる爆音だった。

 刹那……灼熱の暴風が地獄の竜の咆哮となって吹き荒れ、3人の身体を無慈悲に打ち据えた。
 空気は一瞬で溶岩のような熱さになり、肺を焼き尽くそうとする。
 息すら奪う熱波が、全てを焼き尽くそうと襲い来る。

「絵美、水で防御だ! 水の盾を作ってくれ!」

 航太の絶叫が、凍りついた絵美の意識を取り戻した。
 呆然と立ち尽くしていた絵美の瞳が、ようやく現実に引き戻される。

 絵美は手に握る天沼矛を、まるで運命を切り開く神器のように振り回し始めた。
 僅かに青く変わった瞳で熱波を感じ、透き通った水の障壁を神速で紡ぎ上げていく。

 轟々と押し寄せる熱波が水の盾に激突し、水飛沫が白熱の蒸気となって舞い上がる。
 辺りを天界の霧で包み込み、聖域を創り出す。
 3人は聖域に守られ、焼け焦げる運命から辛くも逃れた。

 熱風が落ち着き、霧が晴れてくいく……その眼前に広がった光景は、劫火の舞い散る地獄だった。

 超巨大な炎の塊が、ランカスト軍の本隊を呑み込むように大地に叩きつけられた。

 その熱量は、太陽が墜ちたと錯覚するような破壊の奔流である。
 炎は貪欲に、果てしなく広がった。

 草木を……
 武器を……
 鎧を……
 人の命すらも、一瞬にして黒焦げの虚無と化した。

 轟音と熱風の中、3人は目を見開き言葉を失う。
 魂を凍てつかせ、目の前の惨劇を凝視することしかできない。

 消火……そんな言葉は、悪魔が嘲笑しているかのように虚しく響く。
 炎の範囲は地平の果てまで広がっているようにも感じられ、絶望が3人の間に重く沈黙となって漂う。

 燃え盛る業火の前に、生命の欠片など残されていない事は一目瞭然であった。
 口に出すことすらできないほどの衝撃が、航太たちの心を縛りつける。

 やがて、炎の猛威がわずかに収まり始めた。

 航太の心に、微かな余裕が灯る。

 だが……その瞳は、燃え盛る地獄を捉え離す事が出来ない。

 周囲を見渡すと、隣に立つランカストが視界に入る。
 その姿は、魂が劫火に焼かれ灰と化した亡魂のようだ。

 部隊の全てを失ったランカストの悲しみは、航太の想像を遥かに超えていた。

 その瞬間、航太の胸を焼き尽くしたのは抑えきれぬ怒りだった。
 この壊滅を招いたガイエンへの、煮えたぎる憤怒が……血管を溶かし、心臓を握り潰されるようである。

「ガイエン!」

 両親を奪われたガイエンの痛みは……人を恨む気持ちは、航太にも理解できる部分はある。

 だが、この無差別な破壊はなんだ?

 無抵抗の命を全て焼き払う暴虐は、許されるものではない。

 喉が熱と乾きで引き裂かれそうになりながら、航太は魂の全てを込めた咆哮を上げる。

 航太は視線をガイエンがいたはずの場所へ向けるが、そこには既に誰もいない。

 炎の余波に揺らめく空気が、まるでガイエンの冷酷な嘲笑を鏡のように映し出していた。

 航太の咆哮で我に返った絵美が、力尽きたように地面に崩れ落ちる。
 天沼矛を握る手が震え、動きを止めた絵美の瞳には涙が溢れていた。
 頬を伝い、焼け焦げた大地に落ちた涙は一瞬で蒸発する。

「信じられない……」

 言葉はなくとも、その表情は全てを雄弁に語っている。
 絵美の心は、目の前の地獄に粉々に砕かれていた。

「ちくしょおぉぉ!」

 航太は天を仰ぎ、さらなる咆哮を放つ。
 それは炎の熱量すら凌駕する、心の奥底から迸る怒りの爆発だった。

 空を切り裂くその声に、ランカストもようやく我に返る。
 だが先ほどまでの不屈の力強さは消え失せ、嵐に折れた枯れ木のように儚く弱々しかった。

「航太……ひょっとしたら、生き残った兵がいるかもしれん……助けに……行くぞ……」

 ランカストの声は、絶望に押し潰されていた。
 掠れながらも、微かな希望を繋ぎ止めようとしている。

 しかし……その言葉の裏に潜む虚無を、航太も絵美も感じ取っていた。

 ランカストは震える足で一歩、また一歩と惨劇の中心へと足を踏み出していく。
 まるで自らの心を鼓舞するかのように、震える足で地獄の只中へ向かおうとする。

 航太と絵美は、ただ黙ってその背中を追いかけるしかなかった。
 足元の灰が、希望を嘲るように風に舞い上がる。

(智美が……智美が、いてくれたら……もう少し、ましな結果になってたかもしれねぇのに!)

 航太の脳裏に、鋭い後悔が突き刺さる。

 智美の水の能力があれば、この壊滅を少しでも食い止められたかもしれない。
 皮肉にも炎に呑まれた兵の中には、智美の捜索に冷淡だった者たちがいた。

 航太は、そんな考えを振り払おうとする。
 それでも心の奥で燃え続ける後悔と怒りの炎は、決して消えることはない。

 劫火の爪痕が残したのは灰と沈黙、そして果てなき絶望だけだった。
 それでも、前に進むしかない。

 安全な場所に隠れているガイエンやヨトゥン兵が、航太たちの生存を確認して追撃してくるだろう。

 劫火の咆哮が響き続ける中、航太達の戦いはまだ続いていく……
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