雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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神話の世界へ

冒険の始まり1

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「あち~! なんでこんな暑いんだ! あー夏だからか……」

 夏の陽炎に溶け込むような声で呟いた男は、鷹津 航太。
 北信大学の3年生にして、夏の熱気に翻弄される一人の青年だ。

 夏休み前の最後のゼミが終わり、彼の足取りは次なる目的地、サークル活動の教室へ向かう。

「だいたい、なんでサークル室が校舎の別棟になってんだ! 外を歩くから暑いんだ!」

 彼は独り言を紡ぎながらも目的地に到着し、教室の扉を開けた。
 そこからは冷たいクーラーの風と、清涼な香水の匂いが染み出してくる。

「航ちゃん、何独り言いいながら歩いてんの! 教室の中まで聞こえてたょ! ぷぷっ」

 その声の主は、幼馴染みの神藤 絵美。
 彼女の笑い声は、教室に響く夏の陽光のような明るさを持つ。
 彼女の向かいには双子の姉、神藤 智美が座っている。

 絵美はその長い髪を揺らし、アヒルのぬいぐるみを胸に抱きながら、無邪気に笑う。

「みーちゃん、航ちゃんがバカなのはいつものことでしょ? それより、夏休みの計画を立てようよ」

 絵美の事をみーちゃんと呼んだ智美は、どちらかと言えば知的で冷静だ。
 その智美が、話を現実的な線に引き戻す。
 彼女の言葉には、姉妹間の仲の良さと、航太に対する友情が静かに流れている。

 この夏、彼らは航太の義弟である鷹津 一真と共に、旅に出る予定である。

「智美クン……相変わらずサラっとキツいこと言うねぇ……とりあえず湘南の海で海水浴と焼きそば! で、東京ブラつくでよくね!」

 航太は大雑把な旅行計画を口にしながら、パイプ椅子に身を沈めた。

「私も同意なり!」

 と、絵美が手を挙げながら声を上げる。

「私、ディズニーにも行きたーい!」

 絵美は立ち上がり、アヒルのぬいぐるみガーゴの手を動かし始め、まるで腹話術のように口を小さく開きながら声を出す。

「ガーゴもネズミの楽園でハシャぐんでしゅよ~。海の楽園も行くでしゅ~」

 絵美はガーゴのモノと思われる声を発し、ぬいぐるみの手で智美の頬を軽く叩く。

「はぁ……」

 智美は一息つき、そのまま話を続ける。

「今回の旅行は、カズちゃんの願いを叶える為のものでもあるんだよ。まずは、湘南の海で試してみないと……」

 その真剣な言葉と表情に、絵美はガーゴを抱きしめながらパイプ椅子に座る。
 航太もまた真剣な表情で窓の外……強い夏の日差しに目をやる。

「まぁ……一真の願いってのが叶って欲しいとは思ってるけど、叶っちまったらどうなるんだ? オレ達?」

 一真の願いとは、北欧神話の世界に触れること……

 鷹津家と神藤家には、同じ言い伝えがある。

 航太達は、お互いの両親から幼少期の頃より神話の世界の話を嫌と言う程聞かされてきた。
 両親の親の……更に親の世代、神話の世界から来た者達によって託された剣がある。
 先祖達を守る為に使われたと言う神秘的な二振りの剣、エアの剣とグラム。
 さらに神藤神社に祀られてる神剣にも、同じような言い伝えがあった。
 そんな世界があるなら見てみたいし、先祖達が助けられたのなら、間接的に自分達の命も救われた事になる。
 それならば、助けてくれた関係者の人にお礼も言ってみたいが……

 しかし大学生ともなれば、その神話の話を信じる心は既に揺らいでいた。
 それでも一真だけは信じ続け、その世界に行ける方法を試してみたいと訴え続けていた。
 その熱意から、彼らもその冒険心に引きずられ、まぁ試すだけならと今回の旅行を企画してみた訳である。

「確かに、向こうの世界ってどんなトコかなぁ~ちょっと、楽しみだったりして!」

 絵美の言葉は、無邪気さと冒険への期待を湛えている。

「そう言えば、カズちゃんは今日何時に終わるんだっけ? 学校終わったら、すぐに行くんでしょ?」

 智美は大きなバックパックを用意し、その中の荷物の整理と確認をしていたが、その手を止めて航太に尋ねた。

「夏休み前は必ず大掃除するらしいから、2時ぐらいかな? 看護学校って義務教育時代みたいだよなー」

 航太は、逆に大して多くない荷物を確認しながら答える。
 しかし、その中には神剣と呼ばれる剣が混じっていた。
 それがなければ、神話の世界への扉は開かないらしい。

「とりあえず車に乗り込んじまうか! 荷物バレたら、オレら銃刀法違反で御用だぜ!」

「そだねん! 買い出ししてからカズくん迎えに行けば時間ピッタリじゃない? 向こうでカップラーメンとか食べれるかなぁ~?」

 絵美は買い物リストを作成しながら、楽しげに鼻歌を歌う。

「ま、東京見物メインの旅になるだろーから、神話の世界用の買い出しはほどほどにな! じゃー行くか!」

 三人は荷物を抱え、教室を後にした。
 外に出ると、夏の熱気が肌にまとうように感じられる。
 航太は一真の願いを叶えることが自身の何かを変える予感に駆られ、複雑な感情を抱いていた。

(考えてても仕方ないか……)

 三人は航太の車に乗り込み、一真の迎えに向かった。
 まだ彼らは、神話の扉が本当に開くとは信じていなかった……
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