雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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2人のフィアナ騎士

黄金の聖騎士4

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「うおおぉぉお!」

 航太の咆哮が、戦場を切り裂く。

 その叫びは、まるで魂の奥底から迸る暴風の様だった。

 風の刃が航太の手から解き放たれ、空気を切り裂いてフェルグスに襲いかかる。

 瞬間……航太は大地を蹴り、身体が宙を舞う。
 自らの背後に発生させた風の衝撃が航太を押し出し、雷鳴のような勢いでフェルグスへと突進した。

 砂塵が舞い……風が唸る!
 この空間に存在する全ての風の精霊が、その瞬間だけ航太の意志に支配されたかのようだった。

 だが、フェルグスは動じない。

 氷のような瞳で風の刃を見据え、神剣カラドボルグを一閃。
 刃は空を裂き、航太の攻撃を無情に打ち砕く。

 次の瞬間……カラドボルグが生き物のように唸り、閃光の如く航太の胸を目掛けて伸びてきた。
 まるで時間が引き延ばされ、剣の銀光が視界を焼き付ける。

「ぐわぁっ!」

 航太は咄嗟に風圧を操り、伸びてくる剣の軌道をわずかにずらした。
 わずかに……ずらす事しか、出来なかった。

 避けきれなかった……カラドボルグが掠めた右腕に灼熱の痛みが走り、鮮血が噴き出す。
血が地面に落ち、赤い華のように広がっていった。

 風の精霊の加護を失った航太は、勢いが失わないまま転がる。
 土と砂利に身体を擦り付けながら、航太は身体中から伝わる痛みに歯を食いしばった。

 右上腕から流れ落ちる血がエアの剣の柄を濡らし、指先を滑らせる。

(くそっ……修行で身に付けたモノ、全てを込めたんだぞ! それを、一歩も動かないで……なんて強さだ!)

 これまで感じたことのない痛みが、骨の髄まで突き刺さる。

 右腕から漂う血の匂いが鼻をつき、冷や汗が額を伝って目を焼いていく。

 視界が揺らぎ、世界が滲む。
 心臓の鼓動が耳元で鳴り響き、恐怖が心を締め付けた。

 フェルグスに、慈悲はない。

 体勢を崩した航太に対し、カラドボルグが遠心力を帯びた嵐となって薙ぎ払われる。
 空気が裂け、剣風が頬を切りつけた。

「うぉっ!」

 左手に握るエアの剣で、航太は咄嗟にガードした。
 しかし気力が萎え握力が弱った身体では、その一撃を防ぎきれなかった。

 カラドボルグの勢いに弾かれたエアの剣の腹が右腕を直撃し、鈍い音が骨に響き渡った。
 電撃のような激痛が走り、右腕が力を失う。

 自分の意思では、何も動かない……まるで、肉体の一部が切り離されたかのようだった。

(折れたのか?  熱い……それに、すげー腫れてきた! こんな筈じゃ、なかったのに!)

 神話の世界に来れた時、自分は物語の主人公になれると無意識に思っていた。
 苦難はあれど、それを乗り越えて英雄になれる。
 特別な人間なんだと……

 剣を握る力すら失い、航太は膝を折る。

 汗と血が混じり合い、地面に滴り落ちる。

 視界が霞み、フェルグスの姿が遠のく。

 絶望が心を飲み込み、冷たい闇が広がっていった。

 戦いなんだ……戦争なんだ……
 敵を傷つけて……敵を殺して……
 それで、自分だけ英雄になる……
 そんな都合の良い事なんて、ある訳がなかった。

「仲間を……慕ってくれる人を……裏切ってまで、守りたかったものって……なんなんだよ!」

 航太の声は震え、掠れていた。

 フェルグスの瞳が、深淵のように冷たく光った。

「おそらく、貴公には分かるまい……この戦いに、自らの信念も持たずに出てきた貴公にはな!」 

 その声は、まるで死神の宣告だった。

「国も友も捨ててなお、守らねばならぬ者がいる! 守らねばならぬ信念がある!」

 言葉とともに、カラドボルグが振り上げられた。

 カラドボルグの剣先が空を裂き、航太の心臓を目掛けて高速で伸びてくる。

 時間が止まり、死神の匂いが鼻をつく。
 航太の瞳に、フェルグスの刃が映り込んだ……その瞬間!

 ガキィィン!

 銀色の風が嵐のごとく巻き起こり、カラドボルグの刃を弾き飛ばした。

 土煙の中から現れたのは、銀色の戦乙女ゼークだった。
 まだ治療途中の傷を押して、航太の命を救うべく飛び込んできたのだ。

 左腕は力なく垂れ下がり、右手だけでバスタードソードを握っている。

 傷だらけのその姿は、しかし航太には憧れの英雄のように神々しく見えた。

 自分が想像した、理想の英雄の姿だった。

「ゼーク! 傷は……大丈夫、なのか?」  

 航太の声は、心配と安堵が交錯していた。

 大丈夫の訳がない……それでも、航太はそれしか言えなかった。

「左腕は、まだ動かない……けど、右腕は問題なく動かせるよ! まだ、戦える。智美に感謝しないとね!」  

 ゼークは痛みを押し隠し、太陽のような笑みを浮かべる。
 その笑顔は、航太の凍りついた心を溶かす一筋の光だった。

 航太の弱った魂に、火を灯す。 

(ゼークだって……こんな状態でも、希望を見ている! てめぇは、何様だ? 努力もしねぇで……神剣を使えるってだけで、英雄気取りか? ただの大学生の……ただの剣士1年目の素人だろうが! 右腕が痛ぇ……当たり前だろ! 戦ってんだぞ! 命懸けで、皆んな戦ってんだ! そんで、女の子が必死に守ってくれてんだ! オレと同じ様に、片腕でな!)

 瞳に再び闘志が宿り、航太は震える左手でエアの剣を握り直す。
 血と汗に濡れた柄が滑るが、力を込めて握り込む。

 足に力を入れて、立ち上がる。
 心臓が激しく鼓動し、身体が熱を取り戻す。

 その瞬間……

「きゃあああ!」

 戦場を切り裂く、鋭い叫び声。
 智美の……声……

 その声は、まるで心臓を直接掴むかのように響き渡った。

 航太とゼークの視線が、一斉に声の方向へ飛ぶ。

 空気が凍りつき、時間が停止したかのような静寂が訪れる。

 前方の強敵、後方の脅威……
 戦場の空気が震え、新たな嵐が巻き起こる予感がした……
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