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2人の逃避行
九つの首1
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智美の絶叫が戦場の喧騒を切り裂いた瞬間、航太の体は凍りついた。
眼前には、カラドボルグを構えたフェルグス……その冷酷な瞳が、まるで死神の刃のように航太を貫く。
フェルグスほどの手練れを前に智美の方を振り返るのは、命を投げ出す事と同等の愚行であろう。
一瞬の隙……フェルグスの間合いでカラドボルグから視線を外せば、航太の命は赤い霧となって散る。
それは、間違いない。
だが、心が……いや、航太の魂が智美を求めた。
航太は、絶叫が聞こえた方を向いてしまうだろう……予測したゼークは電光石火の動きで体勢を整え、フェルグスと智美を視野に収める位置に身体を滑り込ませる。
剣を握る手は揺るがず、鋭い声を放つ。
「フェルグス……あの男は、一体誰? あんな気持ちの悪い男、配下にしてるなんて思えない!」
智美の傍らに立つ細身の影……両手に細身の両刃剣を握り、薄ら笑いが悪魔の嘲笑のように漂う。
智美の足から流れ落ちる鮮血が、土を赤く染めた。
動けなくしてから、仕留める……冷酷な意図が、その男の目から放たれていた。
「スリヴァルディ……」
フェルグスの声は、憎悪の炎を帯びていた。
航太の心に、その名は呪詛のように刻まれていく。
「フェルグスに気を取られすぎたの? 智美の事、気にしていた筈なのに……それなのに、気付けなかったなんて!」
元フィアナ騎士のフェルグスは……自分が憧れていた聖騎士は……たとえヨトゥンの兵になったとしても、背後から襲うような卑劣な男ではない。
ゼークは瞬時にそう判断し、フェルグスの瞳を一瞬だけ見る。
「あの卑劣な男から、仲間を救ってやれ」
フェルグスの瞳が、そう言っている気がした。
ゼークは瞳に力を込めると反転し、スリヴァルディへ疾風の如く突進した。
剣が唸る!
渾身の力で、その腹を貫いた……かに見えた。
スリヴァルディは、二刀流の魔術師。
細身の身体から迸る力は、異界のものだ。
ゼークの剣を軽々と弾き、圧倒的な勢いで押し返してきた。
航太がフェルグスを見やると、彼はスリヴァルディを睨みつけていた。
まるで戦意を失ったかのように静止し、ゼークとスリヴァルディの攻防を眺めている。
(何だ、この状況? だが、チャンスだ! フェルグスの野郎に戦う気が無いんなら、智美を救う事に集中できる!)
フェルグスからの不意打ちはない……航太の脳裏に、確信に近い考えが宿った。
航太は、全身の神経をスリヴァルディに集中させる。
「ゼーク、伏せろ!」
ゼークがスリヴァルディと剣を交錯させた刹那、航太の叫びが戦場を劈く。
右腕を貫く激痛を噛み殺し、利き腕ではない左腕で風の刃を放つ。
弱々しい刃だった。
だが、ゼークが機転を利かせる。
スリヴァルディの視界を塞ぎ、風の刃の軌道を隠す。
ゼークが地面に倒れ込んだ瞬間、風の刃がスリヴァルディを捕獲した。
突然目の前に現れた風の刃を、スリヴァルディは躱わす事が出来ない。
空間を斬り裂く風の刃は、スリヴァルディの首を完璧に捉えた。
「あげぇあ!」
奇妙な声を発しながら、胴体と切り離された頭が宙を舞う。
(やっちまった……いや、仕方ねぇ事だ! 智美とゼークを守る為には、必要だった。これは戦争なんだ! 躊躇えば、コッチがやられる!)
初めて……意図的に人を殺した衝撃が、航太の心を鉄の鎖で締め上げる。
そんな感情を無理矢理押し殺し、智美の方へ足を踏み出した航太。
その耳を、衝撃的な声が貫いた。
「ハハぁ! 首が一つ吹っ飛んだぁ! Myth Knightが不意打ちとは、なんとも情けないなぁ!」
首のないスリヴァルディが、喋った……
血すら流さず、胴体だけが不気味に動き回っている。
航太の心臓は恐怖で凍りつき、思考が白く砕け飛ぶ。
(何なんだ、この化け物? なんで、胴体が喋ってやがる! 頭は、明後日の方向にフッ飛んでったよな? 喋るなら、頭の方にしやがれ! って、ちげーよ! 頭と身体がバイバイして、なんで生きてやがるって話だ!)
悪魔のサーカスを見ている様な光景に、航太の魂は絶望の淵に突き落とされる。
「驚く事はない。奴の名は、9つの首のスリヴァルディ……9回、首を落とさねば死なんらしい。9回で本当に死ぬかは、知らんがな」
フェルグスの声は、まるで死の宣告のように冷たく響く。
「驚くわ! てか……敵に、そんな情報をよこすんじゃねーよ! 試しに9回、首を斬り落としてやったっていいんだぜ!」
航太の叫びは……その強がりは、恐怖と絶望感で震えていた。
体力も痛みも限界……仲間達も、全員が傷を負っている。
長期戦が不利である状況で、不死身に近い敵を相手にしなければならない。
そして決して弱い相手ではない事は、先程ゼークの剣を押し返したのを見れば分かる。
先制攻撃で仕留めた筈だった……その事実が、余計に疲労感を強めていく。
フェルグスはスリヴァルディを冷ややかに見つめ、まるで汚物から目を背けるように視線を逸らす。
「知ったところで、貴公らに勝ち目はない。命を軽く投げれる奴が、弱い訳がないのだ。どんなに性根が腐っていたとしても……だ」
フェルグスは航太を一瞥し、スリヴァルディに冷たい視線を投げる。
「後は任せる。私は、兵を立て直させてもらうとしよう」
踵を返すフェルグス。
その背中は、戦場に孤独を刻む。
航太もゼークも、フェルグスを追う余裕はない。
「相変わらず、クールな奴だぁ! 満身創痍の3人じゃ、遊び甲斐がないんだがなぁ!」
スリヴァルディの首はすでに再生し、まるで時間が巻き戻ったかのように完璧に元通りになっていた。
二刀を構える姿は、死神の嘲笑の様である。
常軌を逸した光景に、航太の心は混乱の嵐に飲み込まれた。
「ゼーク……智美を連れて逃げろ! この化け物の相手は、オレが引き受ける! 長距離攻撃でペチペチやって、適当なトコで逃げるからよ……」
航太は震える左腕で、エアの剣を握りしめる。
戦場はヨトゥン軍の咆哮に飲み込まれ、混沌の渦が広がっていた。
判断の少しの遅れが、退路すら確保できなくなる可能性がある。
それ程、ゼークの部隊は押し返されていた……
眼前には、カラドボルグを構えたフェルグス……その冷酷な瞳が、まるで死神の刃のように航太を貫く。
フェルグスほどの手練れを前に智美の方を振り返るのは、命を投げ出す事と同等の愚行であろう。
一瞬の隙……フェルグスの間合いでカラドボルグから視線を外せば、航太の命は赤い霧となって散る。
それは、間違いない。
だが、心が……いや、航太の魂が智美を求めた。
航太は、絶叫が聞こえた方を向いてしまうだろう……予測したゼークは電光石火の動きで体勢を整え、フェルグスと智美を視野に収める位置に身体を滑り込ませる。
剣を握る手は揺るがず、鋭い声を放つ。
「フェルグス……あの男は、一体誰? あんな気持ちの悪い男、配下にしてるなんて思えない!」
智美の傍らに立つ細身の影……両手に細身の両刃剣を握り、薄ら笑いが悪魔の嘲笑のように漂う。
智美の足から流れ落ちる鮮血が、土を赤く染めた。
動けなくしてから、仕留める……冷酷な意図が、その男の目から放たれていた。
「スリヴァルディ……」
フェルグスの声は、憎悪の炎を帯びていた。
航太の心に、その名は呪詛のように刻まれていく。
「フェルグスに気を取られすぎたの? 智美の事、気にしていた筈なのに……それなのに、気付けなかったなんて!」
元フィアナ騎士のフェルグスは……自分が憧れていた聖騎士は……たとえヨトゥンの兵になったとしても、背後から襲うような卑劣な男ではない。
ゼークは瞬時にそう判断し、フェルグスの瞳を一瞬だけ見る。
「あの卑劣な男から、仲間を救ってやれ」
フェルグスの瞳が、そう言っている気がした。
ゼークは瞳に力を込めると反転し、スリヴァルディへ疾風の如く突進した。
剣が唸る!
渾身の力で、その腹を貫いた……かに見えた。
スリヴァルディは、二刀流の魔術師。
細身の身体から迸る力は、異界のものだ。
ゼークの剣を軽々と弾き、圧倒的な勢いで押し返してきた。
航太がフェルグスを見やると、彼はスリヴァルディを睨みつけていた。
まるで戦意を失ったかのように静止し、ゼークとスリヴァルディの攻防を眺めている。
(何だ、この状況? だが、チャンスだ! フェルグスの野郎に戦う気が無いんなら、智美を救う事に集中できる!)
フェルグスからの不意打ちはない……航太の脳裏に、確信に近い考えが宿った。
航太は、全身の神経をスリヴァルディに集中させる。
「ゼーク、伏せろ!」
ゼークがスリヴァルディと剣を交錯させた刹那、航太の叫びが戦場を劈く。
右腕を貫く激痛を噛み殺し、利き腕ではない左腕で風の刃を放つ。
弱々しい刃だった。
だが、ゼークが機転を利かせる。
スリヴァルディの視界を塞ぎ、風の刃の軌道を隠す。
ゼークが地面に倒れ込んだ瞬間、風の刃がスリヴァルディを捕獲した。
突然目の前に現れた風の刃を、スリヴァルディは躱わす事が出来ない。
空間を斬り裂く風の刃は、スリヴァルディの首を完璧に捉えた。
「あげぇあ!」
奇妙な声を発しながら、胴体と切り離された頭が宙を舞う。
(やっちまった……いや、仕方ねぇ事だ! 智美とゼークを守る為には、必要だった。これは戦争なんだ! 躊躇えば、コッチがやられる!)
初めて……意図的に人を殺した衝撃が、航太の心を鉄の鎖で締め上げる。
そんな感情を無理矢理押し殺し、智美の方へ足を踏み出した航太。
その耳を、衝撃的な声が貫いた。
「ハハぁ! 首が一つ吹っ飛んだぁ! Myth Knightが不意打ちとは、なんとも情けないなぁ!」
首のないスリヴァルディが、喋った……
血すら流さず、胴体だけが不気味に動き回っている。
航太の心臓は恐怖で凍りつき、思考が白く砕け飛ぶ。
(何なんだ、この化け物? なんで、胴体が喋ってやがる! 頭は、明後日の方向にフッ飛んでったよな? 喋るなら、頭の方にしやがれ! って、ちげーよ! 頭と身体がバイバイして、なんで生きてやがるって話だ!)
悪魔のサーカスを見ている様な光景に、航太の魂は絶望の淵に突き落とされる。
「驚く事はない。奴の名は、9つの首のスリヴァルディ……9回、首を落とさねば死なんらしい。9回で本当に死ぬかは、知らんがな」
フェルグスの声は、まるで死の宣告のように冷たく響く。
「驚くわ! てか……敵に、そんな情報をよこすんじゃねーよ! 試しに9回、首を斬り落としてやったっていいんだぜ!」
航太の叫びは……その強がりは、恐怖と絶望感で震えていた。
体力も痛みも限界……仲間達も、全員が傷を負っている。
長期戦が不利である状況で、不死身に近い敵を相手にしなければならない。
そして決して弱い相手ではない事は、先程ゼークの剣を押し返したのを見れば分かる。
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フェルグスはスリヴァルディを冷ややかに見つめ、まるで汚物から目を背けるように視線を逸らす。
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フェルグスは航太を一瞥し、スリヴァルディに冷たい視線を投げる。
「後は任せる。私は、兵を立て直させてもらうとしよう」
踵を返すフェルグス。
その背中は、戦場に孤独を刻む。
航太もゼークも、フェルグスを追う余裕はない。
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スリヴァルディの首はすでに再生し、まるで時間が巻き戻ったかのように完璧に元通りになっていた。
二刀を構える姿は、死神の嘲笑の様である。
常軌を逸した光景に、航太の心は混乱の嵐に飲み込まれた。
「ゼーク……智美を連れて逃げろ! この化け物の相手は、オレが引き受ける! 長距離攻撃でペチペチやって、適当なトコで逃げるからよ……」
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