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2人の逃避行
九つの首2
しおりを挟む「分かったわ! 智美を連れていく! 戦況を見極めて、必ず逃げるのよ! 相手を倒せる程のチャンスが来ても、それは逃げ出すチャンスと思いなさい! いいわね?」
ゼークの真っ直ぐな瞳に、航太は頷く。
意識が薄れている智美を抱え、ゼークが素早く後退を開始する。
「逃がす訳ねぇだろうがぁ!」
スリヴァルディが、獲物を追う獣のようにゼークと智美に襲いかかる。
「空気を読みやがれ、女好きの変態化け物野郎!」
航太の叫びが戦場を切り裂き、風の刃がスリヴァルディを目がけて放たれる。
スリヴァルディは二刀でその刃を粉砕するが、航太は一瞬で間合いを詰めた。
「邪魔するなぁ! お前から、血の海に沈めてやってもいいんだぁ!」
「戦隊ものの悪役かよ! ダサいぜ! 最近は悪者でも、結構カッコイイのも増えてきてんのにな! お前のは、ダサいし弱そう……」
激痛を堪え、航太は挑発するようにスリヴァルディを嘲笑う。
スリヴァルディの顔が、憤怒に歪む。
「貴様ぁ……その命で、今の言葉を後悔させてやらぁ!」
標的を航太に切り替えたスリヴァルディは、二刀を振り翳して迫ってくる。
「左腕一本で、てめぇ如き充分だ! 来やがれ、変態!」
痛みが引いていく右腕を庇い、左手でエアの剣を強く握る航太。
ん?
痛みが……引いていく?
無意識に右腕を見ると、青い光が患部を覆っていた。
「航ちゃん、ファイト……ゴメンね、足手纏いで……」
「足手纏いなもんかよ……力、貰ったぜ。ゼーク、智美を頼む! コイツは、ここから一歩も前には行かせねぇ!」
ゼークの背中で再び意識を失った智美を視線に入れ、航太は笑う。
(浮かれて絶望して、気合い入れては疲労と痛みで諦めて……そんで、また力をもらって立て直して……どんだけガキなんだよ、オレは! 情緒不安定過ぎんだろ!)
スリヴァルディの二刀が、嵐のように迫る。
航太は双剣の猛攻に押され、じりじりと後退した。
身体中から血が飛び散り、左手の握力は限界を超える。
視界が霞み、意識が揺らぐ。
「トドメだぁ! 雑魚がぁ!」
スリヴァルディが、二刀に体重を乗せて振り下ろしてきた。
「散々下がっちまったが、一歩も前に行かせねぇって言っただろうが! 最終的には……な!」
風が……舞う。
振り下ろした二刀が、航太の周囲を流れる風に絡み取られる。
「なん……だぁ?」
航太は、エアの剣を右手に持ち替える。
「喰らいやがれ! これが、本日最高の一撃だ!」
エアの剣は、風の流れを作り出す。
鎌鼬ではない……風圧が、風の弾丸の如くスリヴァルディの腹部に吸い込まれた。
「なん……だぁ!」
動きの止まっていたスリヴァルディの身体は宙に浮き、疾風の様な速さで元の場所まで戻される。
(さて、押し返したはいいが……こっから、どうする? 正直、この化け物を倒す手段を考えられる程の余裕はねぇ……だが、立ち止まってる時間もねぇ! 時間を稼ぎながら、ゼークと逆方向に逃げるしかねぇな!)
航太は自らの後方に、強烈な突風を生み出す。
その風に身を任せ、航太は高速でスリヴァルディの真横に……そして、高速で通り過ぎる。
「なんだぁ? そっちは、オレの兵が沢山いるんだぁ」
「えっ?」
風の勢いが弱まり、航太が止まった場所……
そこは、ヨトゥン兵に囲まれた場所だった。
「ははは……どもども。いや、ちょっと道に迷っちゃって。直ぐに出て行くので、お気遣いなく……」
疲労がピークに達していた航太は、冷静な判断が出来なくなっていた。
ゼークと智美を守りたいという思いが強すぎて、状況を把握しようという意識を薄くしていた。
スリヴァルディという強敵の存在が、敵に囲まれているという認識を弱くしていた。
「空気を読めてないのは、お前なんだぁ。死にたいなら、直ぐに楽にしてやらぁ」
「ふざけんなよ、変態野郎! テメェだけは、ここで倒してやる!」
不適な笑みを……悪魔の様な嘲笑を浮かべ、ゆっくりと航太に迫るスリヴァルディ。
そんなスリヴァルディに、航太はエアの剣を振り続けた。
しかし弱々しい風圧は、スリヴァルディの剣をわずかにずらすだけ。
逆に航太の身体はスリヴァルディの剣によって傷だらけになり、血と汗が戦場に滴る。
「ぐわっ!」
スリヴァルディの雷鳴の如き一撃が、航太の胸を薄く斬り裂いた。
血飛沫が、土煙の中に弧を描く。
意識が朦朧としながら、航太は倒れ込んだ。
(物語みたいに、最初は弱い敵から……んで、絶妙なピンチを潜り抜けて成長して……けど、敵も味方も命懸けの戦場で、そんな都合良くいく訳がねぇ……どんなに特別な存在だって、死ぬ時は死ぬ。そんな世界だ。だけど、最後まで諦めねぇ! ここで諦めたら、ゼークや智美の心に深い傷を残しちまう。優しい……奴らだからな!)
絶望が、心を侵食する。
倒れた航太に、群がって来るヨトゥン兵。
それでも、必死に活路を求めて目を凝らす航太。
エアの剣を、手繰り寄せる。
「航太、そのまま倒れていろ!」
雷鳴のような声が、戦場に響き渡った。
ボロボロの瞳で、声の聞こえた方に視線を向ける。
血に染まる瞳の先に、アルパスターが立っていた。
その姿は、紅の空に差し込む一筋の光のようだった。
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