雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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2人の逃避行

ブリューナクの閃光

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 航太の頭上を、三筋の閃光が雷鳴のごとく轟きながら切り裂いた。

 その光は希望の炎を纏い、漆黒の夜空を焦がして疾走する。
 まるで天の裁きのごとく、閃光は轟音とともにヨトゥン兵の群れを粉砕していく。
 閃光に貫かれたヨトゥン兵の巨躯は、地に倒れていった。
 土煙が渦を巻き、戦場の空気が震える。

 航太は倒れながらも息を呑み、その神聖な輝きに魂を奪われた。
 希望の鼓動が、彼の胸を激しく打ち鳴らす。

 胸からは、まだ血が流れている。
 だが……立ち上がるなら、今だ。

「アルパスター将軍! 頼む!」

 痛みを堪えながら、腹に力を込めて叫ぶ。
 その声が戦場に響いた瞬間、航太は地面に向け風の刃を解き放った。

 鋭い風が土を切り裂き、舞い上がった土煙がスリヴァルディの姿を飲み込む。
 傷だらけの身体が悲鳴を上げる中、航太は最後の力を振り絞った。

 力を絞り出す様に、前方に爆風を巻き起こす。
 その反動で後方へ跳び、地面に倒れ込みながらも燃えるような眼差しでスリヴァルディを見据えた。
 心臓の鼓動と共に流れる血が、まだ生きている事を航太に伝えてくる。

「なる程、そこに……いるんだな!」

 その刹那、航太の魂の叫びに呼応するように、アルパスターが動く。

 上級神器ブリューナクが天を裂くかの様な光を放ち、土煙を突き破った3本の閃光がスリヴァルディを貫く。

 まるで神の怒りにも似たその一撃は、戦場に轟音を響かせた。

「ぐはぁ!」

 獣のような呻き声を上げ、スリヴァルディが地面に崩れ落ちる。

 航太の胸に勝利の炎が燃え上がり、傷だらけの拳を振り上げた。

「だらぁ! やったぜ!」

 だが、喜びは一瞬だった。

 土煙が晴れ、スリヴァルディの姿が見えてくる。
 既に閃光によって開けられた穴は閉じ始め、不気味な笑みと共に立ち上がろうとしていた。

 その姿に、航太の心は冷たく締め付けられた。

(やっぱり……簡単には死んでくれねぇな。9回殺さなきゃ、終わらねぇ!)

 それでもフェルグスと同格と謳われるアルパスターの参戦が、航太の心に一筋の光を灯す。
 傷ついた身体を奮い立たせ、航太はエアの剣を握り直した。
 震える手の中で、エアの剣は航太の意志を映すように微かに輝く。

 だが、スリヴァルディは狡猾だった。
 冷酷な笑みを浮かべ、嘲るように言い放つ。

「ブリューナクを持つアルパスターが相手では、さすがに分が悪いなぁ! 部隊の本隊も近付いているだろうし、無理はしない主義なんでなぁ! ここは、退かせてもらうんだなぁ!」

 スリヴァルディは、自軍のヨトゥン兵にアルパスターと航太に攻撃命令を下す。
 そして、自らは戦場の闇へと消えていった。

「卑怯者! 部下を盾にして、逃げるのかよ!」

 航太の叫びは、怒りと無力感に震えていた。

 群がるヨトゥン兵に足を取られ、傷ついた身体では振り切ることもできない。
 スリヴァルディに負けた悔しさが、胸を焼き尽くすようだった。
 地面に滲む血が、航太の心の傷を映し出す。

 だが、その時……アルパスターが動いた。
 ブリューナクから放たれた光の嵐が、ヨトゥン兵を一瞬で薙ぎ払う。
 まるで神の裁きのように、絶叫と共にヨトゥン兵は倒れていった。

 その姿、一騎当千の如く……ひと睨みで、ヨトゥン兵が逃げ出して行く。

 戦場の喧騒が一瞬止まり、航太の周囲には静寂だけが残された。

(す、すげぇ! すご過ぎる!)

 航太の心は、震えた。
 初めて目にするアルパスターの戦いは、圧倒的だった。
 将軍の名にふさわしいその力は、まるで希望そのものだった。

 フェルグスと対等とも呼ばれる力……その圧倒的な力に、絶望的な差を航太は感じた。
 全力で戦えば、フェルグス相手にゼークを守れると……そう思った事が、恥ずかしくなる。

 だが、そのフェルグスと同等の力を持つアルパスターが来てくれた。
 味方にいてくれる……これ程、心強い事はない。

 航太の胸に、仲間を心配する余裕が再び生まれる。

「航太、ゼーク達と一緒だった筈だが……ゼーク隊は、壊滅状態。智美と絵美の姿も見えん。どうなったか、教えてもらえるか?」

 戦場の熱をものともせず、航太に近付いたアルパスターは穏やかな声で尋ねた。
 その声には、戦いの激しさとは裏腹の深い優しさが宿っていた。

 傷ついた姿を気遣う眼差しに、航太は心からの安堵感を覚える。
 と、同時に……敵に囲まれている中、傷が癒えてない状態で逃げているゼークと智美への心配で胸が締め付けられた。

「ゼークと智美とは、一緒だった。スリヴァルディに、智美が足をやられちまって……ゼークが智美を抱えて、逃げてるんだ! 早く、助けにいかねぇと!」

 航太の声は震え、言葉を絞り出す。
 仲間を守れなかった悔しさが……早く助けたいと思う焦りが、航太の胸を締め付けた。

 アルパスターやフェルグスの様な、圧倒的な実力があれば……そんな思いが、航太の心に重くのしかかる。
 地面に拳を叩きつけ、滲む血がその痛みを物語っていた。

「ゼークは……無事なのか?」

 独り言の様に呟くアルパスターの声に、深い不安が滲む。
 ゼークの責任感の強さに、アルパスターは危機感を覚える。
 智美を守る為に、自らを犠牲にしているのではないか?
 自らを危険に晒しているのではないか?

「ゼークは、両腕を負傷してる……右腕は智美に治療してもらってたけど、動かすのがやっとだと思う……」

 航太の声は途切れ、涙が滲みそうになるのを必死に堪えた。

 ゼークと智美を守れなかった、自分自身への怒り……
 無事に帰れるであろう安堵……
 仲間を失うかもしれない恐怖……

 様々な感情が、航太の心を激しく揺さぶった。
 拳を地面に擦りつけ、土と血が混じる感触が心に伝わる。
 訳の分からない行動が、航太の心の傷を映しているようだった。

「お前がここまで傷つき、ゼークも負傷して逃走している。万全な状態で戦っていれば、スリヴァルディ程度の相手に、ここまでの苦戦はすまい。フェルグスと……戦ったのだな?」

 アルパスターの言葉に、航太は目を伏せた。フェルグスの圧倒的な力が脳裏に蘇り、胸を締め付ける。

「ああ……フェルグスは、強すぎた。今の俺じゃ、到底敵わない。両腕を負傷していたゼークに、無理をさせちまった……」

 唇を噛み締め、航太は自分を責める。
 涙がこぼれそうになるのを、必死に堪えた。

 アルパスターはそんな航太を静かに見つめ、戦場を見据える。
 その瞳には、深い決意と仲間への信頼が宿っていた。

 ゼーク軍は当初、奇襲による優位を誇っていた。
 だが……指揮官不在の混乱と個々の力で勝るヨトゥン兵の猛攻により、徐々に追い詰められていた。

 そこにスリヴァルディの軍がフェルグスの部隊に援軍として加わり、戦況は絶望の淵へと傾いていく。

 戦場の叫び声と剣戟の音が、航太の心に突き刺さった。

「航太……我が部隊まで、1人で戻れ。その傷だ……厳しいだろうが、お前を救ってやってる余裕は無い。俺は、ゼーク達を助けに行く」

 アルパスターの声は、静かだが揺るぎない力に満ちていた。

「本当は、オレも助けに行きてぇぐらいだ。けど……今の状態じゃ、ただの足手纏いになっちまう! 頼む、将軍。ゼークと智美を助けてくれ!」

 航太は、思わず叫んだ。

 敵陣の中を、総大将が1人で仲間を助けに行く……
 あまりに無謀だが、今の航太にはアルパスターに託すしかなかった。

 アルパスターは微笑み、一言だけ告げる。

「大丈夫、任せろ!」

 その言葉は、航太の心に深く響いた。
 まるで全ての不安を吹き飛ばすような、絶対の信頼が込められていた。

 アルパスターは馬を駆り、戦場の嵐へと飛び込んでいく。
 その背中は、まるで戦神の化身のように大きく力強かった。
 戦場の闇を切り裂くその姿は、希望そのものである。

(彼との約束がある……俺にできる全てを賭けて、必ず果たす! 彼に苦しみを与えてしまっている、俺のケジメの付け方なんだ!)

 アルパスターの大きい背中に、航太の不安は溶けていく。
 胸に灯った希望が、航太の弱った心を支える。

(ゼーク、智美……アルパスター将軍が、必ず助けてくれる。もう少しだ……絶対に、生きててくれよ!)

 2人の安否を祈りながら、航太は後ろ髪を引かれる思いで振り返る。
 そして今出来る最大限の力で、エアの剣を振り抜いた。
 その一撃は、まるで航太の魂そのものだった。

 剣風が空を裂き、戦場に響く。
 その音は、航太の不屈の意志と仲間への想いを物語っていた……
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