雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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2人のフィアナ騎士

黄金の聖騎士3

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「くっ!」

 刹那の……閃光だった。

 カラドボルグが、雷蛇のように畝った様に見えた。
 幻影の様に見えた神剣は、一瞬でゼークの左肩を無慈悲に貫いていた。
 血飛沫が舞い、戦場の空気を切り裂く。

「きゃあああぁぁっ!」

 カラドボルグに電撃が迸り、左肩を中心にゼークの身体を焼いていく。

 焦げた肉の匂いが漂い、ゼークの悲鳴が航太の心を抉つ。
 電撃でピクつきながら倒れ伏すゼークの姿は、まるで時間が止まったかのように航太の目に焼き付いた。

「ゼーク!」

 航太の叫びは、血と硝煙に塗れた戦場で空しく響く。
 心臓が締め付けられ、恐怖と無力感が全身を支配する。

 それでも、立ち尽くしている暇はなかった。

 震える手でエアの剣を握り締め、フェルグスへ風の刃を放つ。

 鋭い風が、唸りを上げる!

 航太の力の込めた一撃は……その一撃すらフェルグスは嘲笑うかのように、カラドボルグの一閃でその刃を粉砕した。

 だが航太の狙いは、フェルグスではない。

「ゼーク! 目を覚ませ! ちくしょう……フェルグスの事を心配して、大切に思っているお前が……くそっ!」

 航太はゼークに駆け寄り、声を絞り出す。

 ゼークの目は閉ざされ、微かな息だけが彼女の命の灯を伝えている。
 焼け焦げた傷口は出血を抑えてはいたが、電撃の衝撃はゼークの魂すら奪い去ったかのようだった。

 航太の指は震え、ゼークの冷たくなった手を思わず握った。
 胸の奥で、仲間を失う恐怖が燃え上がる。

(カラドボルグ……神話を調べてる時に、読んだ事がある。一瞬で虹の長さまで伸びるとかっていう、チート武器だった筈だ。ゼークの部隊を斬り裂いたのは、カラドボルグとフェルグスの仕業だったんだ!)

 航太は歯を食いしばりながら、フェルグスを睨みつけた。
 ゼークの気持ちを踏み躙った怒りと、圧倒的な力の差から生まれる絶望が交錯し心が引き裂かれそうになる。

(くそっ! なんとか、ゼークを助けなきゃ! だが……こんな化け物相手に、どうすりゃいい?)

 考えが纏まらない航太は、フェルグスの気を逸らす為に叫ぶ。

「お前が守りたいってモノの……大切なモノってヤツは、分かる気がする!」

 フェルグスに睨まれ、声が震える。

「けどよ、ゼークやアルパスターを敵に回す必要はない! 2人は、お前にとっても大切な人の筈だ! だったら、こんな戦い意味がないだろ!」

 必死に、時間を稼ぐ。

 フェルグスの力は、神話の世界に登場する伝説の怪物そのもの……このまま戦えば、自分にもゼークと同じ運命が待っている。

 それでも、逃げることなどできない。

 ゼークを……仲間を、失うわけにはいかない。

 時間を稼ぎながら、希望が落ちてないか必死に探す。

「時間稼ぎか? まぁいいだろう。乗ってやる」

 フェルグスの声は、氷のように冷たかった。

「ゼークもアルパスターも、軍の要職に就かなければ戦わずに済んだかもしれんな。だが、その選択をした。もはや、手遅れだ」

 その瞳には、鋼のような決意が宿る。
 カラドボルグを構える姿は、まるで運命そのものと対峙しているかのようだった。

 航太の心は恐怖に震え、膝が折れそうになる。
 だが……ゼークの命が尽きようとしている今、立ち止まることは許されない。

 その時、視界の端でヨトゥン兵と剣を交える智美の姿が映る。

 智美の纏う蒼き光は、まるで希望の光のように輝いていた。

(智美、頼む! 気づいてくれ! ゼークを救うんだ!)

 航太は心の中で叫び、全身全霊を振り絞って跳躍した。
 エアの剣を背後で振り、暴風を巻き起こす。

 恐怖と絶望……

 ゼークを失うかもしれないという耐えがたい痛み……

 それら全てを吹き飛ばすように、風が航太の身体をフェルグスへと強く押し出した。

「うおおおおぉぉぉ!」

 風の咆哮が戦場を震わせ、航太はフェルグスへ突進した。
 更に、空中で一回転し遠心力をつける。

 仲間を……未来を……守りたい。

 全ての想いをエアの剣に込め、渾身の一撃をフェルグスの頭へ振り下ろす!

 ガァキィィン!

 神剣と神剣が激突し、天地を裂くような金属音が響き渡る。
 衝撃が航太の腕を震わせ、フェルグスの身体をわずかに揺らす。
 その一瞬が、希望の糸口だった。

 近くで戦っていた智美が、その音に振り返る。

 航太と目が合う……

 必死な航太の視線と目配せで、倒れたゼークが智美の視界に入った。

 智美が力強く頷くのを見て、航太はフェルグスの足元へ風の刃を放つ。

「ちっ! 風の力を器用に使う!」

 土煙が舞い上がり、フェルグスの視界を奪った。

 その隙に航太は風を操り、ゼークの元へ跳ぶ。

 間髪入れず意識を失ったゼークを抱え上げ、智美の側へ再び跳んだ。
 ゼークの重さが、航太の心にのしかかる。

「ゼーク! あんなに強いのに、こんなに傷だらけに……」

 智美はゼークの傷を見た瞬間、息を呑み片手で口を覆った。
 彼女の瞳には信じられないという思いと、深い悲しみが宿っていた。
 ゼークの強さを誰よりも知る智美にとって、この光景は悪夢そのものだった。

「智美、頼む! ゼークを救ってやってくれ! オレは、何とか時間を稼いでみる!」

 智美の持つ双剣……草薙剣と天叢雲剣は、守りと癒しの力を秘めている。

 智美は涙を堪え、力強く頷いた。
 剣を振るうと青白い光が放たれ、ゼークを優しく包み込む。
 その光は戦場の闇の中で、まるで奇跡のように輝いた。

 航太は光を見つめ、胸の奥で燃える想いを抑えきれなかった。

 再び、フェルグスと向き合う。

 恐怖と怒り……そしてゼークを救いたいという切なる願いが、言葉となって溢れ出す。

「難しい事なんて、どうでもいい! 守りたい人がいる! 大切な仲間がいる! それを……失う訳にはいかねぇんだ! たとえアンタに、守りたい正義があったとしてもだ!」

 ゼークと智美を振り返り、航太の心は熱く燃えた。

 仲間を失う恐怖、フェルグスという圧倒的な敵への絶望。

 それでも、航太は立ち向かうことを選んだ。

 フェルグスは静かに、だが重く答える。

「それこそが、人の心だ。大切な者を守るため、時には全てを賭けて戦わねばならない瞬間がある。そして、人によって大切なモノが違う。だから、争いが起きるのだ」

 その言葉とともに、カラドボルグが雷光のように伸びる。

 一瞬……航太の瞳が仄かに赤く染まった。

 カラドボルグが伸びる瞬間を、何故だか航太には見えていた。

 見える筈のない、神剣カラドボルグの必殺の一撃……

 航太は風圧でカラドボルグの剣先を逸らし、命辛々躱わしてみせた。

 折れそうな心を、必死に保つ。

「ゼークにとって、その大切な人……それがアンタだったんだ! アンタとアルパスターだったんだ! なんで……なんでゼークの気持ちには応えない!」

 フェルグスは、明らかに時間を与えていた。
 ゼークの回復を待つかのように、攻撃の手を緩めている。

 その矛盾が……戦う決意と、なお生かす選択が……航太の心を焼き尽くしていく。

(許せねぇ! 仲間を傷つけ、なお立ちはだかるアンタが!)

 もはや、戦うしかない。
 運命の重圧が、2人を灼熱の戦場へと縛り付けた。
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