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2人のフィアナ騎士
黄金の聖騎士2
しおりを挟むカラドボルグの衝撃が、航太の心臓を激しく叩いた。
一撃で戦場を切り裂くその光は、まるで神の怒りそのものだった。
あまりの威力に呆然とする航太は、ゼークがフェルグスを追って飛び出したことに気付かなかった。
周囲は、地獄と化していた。
ゼークの軍は、まるで暴風に翻弄される枯れ葉のように混乱に飲み込まれていた。
バーゲンセールで商品を奪い合う群衆のような喧騒の中、叫び声と恐怖が空間を支配していた。
「何なんだ、今の攻撃は?」
「そっちへ行ったら、死ぬぞ!」
「やべえ……死ぬ……死んじまう!」
カラドボルグの突然の一閃が、ゼーク軍の士気を粉々に砕いた。
ついさっきまで燃え上がっていた闘志は、まるで幻だったかのように消え去った。
兵達は、恐怖と混乱の坩堝と化していた。
(今の攻撃……ヤベェ! 攻撃方法やら攻撃範囲とかを突き止めねえと……この戦い、負けちまう!)
軍の崩壊を目の当たりにし、航太の胸に冷たい危機感が突き刺さった。
しかし、考える時間など殆どなかった。
フェルグス軍の陣に深く踏み込んでしまっているゼークの部隊は、次々と襲い来るヨトゥン兵に囲まれていた。
中軍すら混戦に飲み込まれ、叫び声と剣戟の響きが戦場を震わせている。
(くそっ! 混戦じゃ、攻撃範囲の広い真空の刃は使えねえ……サシで倒していくしかねぇ!)
航太は風の力を操りつつも、味方を巻き込まぬよう慎重に剣を振るった。
風を切り裂きながら敵を薙ぎ払い、戦場の中心で孤軍奮闘する。
だが……戦いに没頭するあまり、すぐ隣にいたはずのゼークの不在に気付けなかった。
その事実に気付いたのは目の前のヨトゥン兵を吹き飛ばし、一瞬の静寂を得た時だった。
航太は息を切らし、周囲を見回す。
だが……戦場の渦の中で、ゼークの銀髪を見つける事が出来なかった。
(くそっ! ゼーク……どこだ! 早まるんじゃねぇぞ!)
焦りと……自分自身への怒りが、胸を締め付ける。
航太は近くのヨトゥン兵に斬りかかり、命を奪わぬ程度に傷を負わせる。
「ぐはっ!」
大地に倒したヨトゥン兵の首元にエアの剣を突き付け、航太は叫ぶ!
「フェルグスはどこだ! 答えろ!」
「大将の居場所を……簡単に教えるような臆病者は、この部隊にはいない! 殺すなら殺せ!」
その言葉に、航太の心は凍りつく。
敵兵の瞳に宿る決意が、航太の心を強く揺さぶった。
(何をやってんだ……オレは?)
思わずエア剣を引いた航太は、己の行動に戦慄した。
そのままヨトゥン軍の中央へ向かって走り出した航太の頭をよぎったのは、ガイエンの姿だった。
(こんな事をしていたら……オレは、あいつと同じじゃねぇか!)
戦争に慣れていく自分への恐怖が、胸を締め付ける。
それでも、航太は走り続けるしかなかった。
ゼークを……仲間を救うために。
突然、戦場の喧騒を切り裂く金属音が響く。
他の戦闘とは明らかに異なる……鋭く、重い音。
そして、風を切り裂く様な轟音が続いた。
(ゼークだ! 間違いねぇ……戦ってる!)
音の源へ、全力で駆ける。
そこには銀髪の少女ゼークが、金髪の騎士フェルグスと対峙していた。
ゼークの右肩の鎧は溶け落ち、焼け焦げた肉から立ち上る煙が鼻を刺す。
右腕は動かないのだろう……ゼークは、左手一本でバスタードソードを握りしめていた。
その瞳には肉体の苦痛と、心の深い傷が交錯していた。
人の肉が焼ける嫌な臭いが、戦場の空気を重くする。
ゼークに対するフェルグスは、対象的に白と金の装飾が輝く鎧に傷一つない。
まるで神話の英雄のように、そこに悠然と立っている。
その姿は、戦場の混乱を嘲笑っているかのようだった。
(こんなに、実力差があんのかよ! とにかく、ゼークを助けねぇと!)
航太はエアの剣を構え、風をまとった刃を放つ。
フェルグスの視界の外から放った筈の風の刃……航太の全力を乗せた鎌鼬は、しかしカラドボルグよって分断された。
フェルグスの綺麗な金髪が、そよ風に触れた様に軽く揺れる。
「お前が噂の3人の新星、Myth Knightの1人か?」
フェルグスは、戦闘の只中とは思えぬ落ち着いた声で航太に問う。
「あんたが、フェルグスだな! ゼークから、話は聞いてる! 何故ゼークと……人間と戦う? あんたは圧政に苦しむ人達を救う為に、ヨトゥン軍に行ったんだろ?」
航太の声は、恐怖と焦りで震えていた。
「ならば、神剣に選ばれし者よ。貴殿は何のために戦っているのだ? 人間を守るためか? それとも、大切な者を守るためか?」
「そんなもん、両方だ! 決まってんだろ!」
航太は叫ぶ……その声に呼応する様に、風が周りで咆哮した。
「成る程な……全ての人間を守り、そして大切な者も守る……もし貴殿が守りたい者が、人間でない者ならどうする? もし自分の属する場所で守れない大切な人がいたら、貴殿はどうするつもりだ?」
その言葉は、航太の心を鋭く貫いた。
言葉を失い、ただ立ち尽くす。
(くそっ! なんで、答えられねぇんだ……)
フェルグスの言葉は、航太の信念を揺さぶる。
フェルグスの言い分はあまりにも正しく、航太の心に刃のように突き刺さった。
「フェルグス……どうしても、ヨトゥン軍で戦わなければいけないの? どうしても、戻って来れないの?」
ゼークは右肩を押さえ、痛みを堪えながら囁くように尋ねた。
ゼークの声は、まるで祈りのようだった。
「ゼーク……お前ならば、分かるはずだ。私がヨトゥン軍を離れれば、投降した民に危害が及ぶ。ロキ殿の統治下、民は平和に暮らしている。私は、その平和を壊したくないのだ。ようやく辿り着けた、安住の場。その場所を守る事が、今の私のやるべき事だ」
フェルグスの声は、決意と信念に満ちていた。
フェルグスは、カラドボルグを構える。
閃光が、戦場を切り裂いた。
まるで天を裂く雷鳴のように、光が全てを飲み込んでいった……
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