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小さな違和感

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「こ、こんばんは。そうですね」

「この店、よく来るんですか?」

「いえ、たまに……」

「そうなんですね。僕は初めて来たんですけど、料理がすごく美味しいですよね」

「そうですね……」

「何かおすすめとかありますか?」

そんなのお店の人に聞いたらいいと思うんだけど。
たまにしか来ないって言ったのに、どうして私に聞くのか意味が分からない。

「さぁ、私はつくねが好きですけど。おススメは店員の人に聞いたらいいと思いますよ」

「つくねですか!確かにさっき食べてましたよね。後で頼んでみます」

そう言って私のお皿の上に置いてある、つくねを刺していた串に視線を落とす。

「僕、気に入ったお店があったらそこばかり通いたくなるんです。これだ!と思ったら他のものが一切目に入らなくなって、周りからお前は一途だなと言われてます。この店も気に入ったのでこれから頻繁に通うと思います」

返答に困ることを話さないで欲しい。
どうでもいい情報で私には関係ないから、お好きに通ってくださいって感じ。
それより、この人はいつまで話しかけてくるんだろう。
目の前に座っているさつきも怪訝そうな表情でサラリーマンを見ている。

「あっ、すみません。あなたを見かけて嬉しくなって長々と話しかけてしまって」

「いえ……」

「あの、お名前だけでも教えてもらっていいですか?僕は斉藤一馬と言います」

えー、どうして名前を言わないといけないんだろう。
やっと解放されるかと思ったら、まさかの言葉に唖然とする。
ただの惣菜屋の店員とそのお客さんなのに。

「夏木です」

先に名乗られたので渋々口を開く。

「ナツキさんですか!可愛い名前ですね」

可愛い?
もしかして私の苗字を名前と勘違いしたのかな。
まぁ、いいか。
お客さんにフルネームを教える必要性を感じなかったので苗字を名乗ったけど、紛らわしい名前だから間違えるのも仕方ない。
その後もやたら楽しそうに話しているけど、営業スマイルで右から左へとスルーした。

「また、お店に行きますね。それじゃあ失礼します」

斉藤と名乗ったサラリーマンは軽く会釈して少し離れたカウンター席に座り、飲みかけのビールの入ったグラスに口をつけた。

「ちょっと、あの人なんなの?」

こちらに背を向けて座っているサラリーマンを睨みつけるような視線を送りながらさつきが言う。

「最近、よくお店に来るサラリーマンだけど」

「ちょっとヤバくない?」

「何が?」

「あの人、美桜のことしか眼中になかったよ。私のことなんて見向きもしなかったし」

「そう?確かにめんどくさい人でイラついたけど、あの人はお客さんの一人だし私は興味ないから」

そう言ってジンジャエールを飲む。
今日はノンアルコールだ。
つい最近、お酒に酔って記憶をなくした前科があるので、当分の間は控えようと思っている。

「興味ないって言ってるけど、向こうは美桜に興味津々だったよ。何か目が怖かったから気を付けた方がいいよ。ストーカーかも……。また偶然を装ってバッタリ出くわすこともあるかも知れないでしょ」

「さつきの考え過ぎじゃない?さすがにお店以外で会うことはもうないと思うよ」

あまり深く考えず、笑い飛ばした。
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