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深夜の出来事と元カノの存在

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『水上デザイン事務所』で働き始めてあっという間に一週間が経った。
だいぶ仕事に慣れてきて、社員の人の顔もほとんど覚えた。

私は定時で帰ったけど、テツは接待があるから遅くなりそうだと言っていた。
今朝からずっと憂鬱だと愚痴っていた。
仕事の付き合いとはいえ、大変だよな。

この部屋で一人晩ご飯を食べるのは少し寂しいかも……って何考えてるのよ!
今まで一人暮らしをしていたけど、寂しいなんて感じたことはなかった。
テツと一緒に過ごすようになって一人でいることが寂しいと思うなんて思わなかった。
自分の中でテツの存在が大きくなっていることに戸惑いを覚えていた。

お風呂から出て広いリビングのソファに座り、テレビをぼんやりと見ていた。
今日は何かを作って食べる気にならなかったので、晩ご飯はお茶漬けにした。
おかしいな、一人の時でもちゃんとご飯は作ったりしていたのに。
小さくため息を吐く。

何気なく見ていたテレビ画面に、あるお笑い芸人がうつる。

「あ、」

テツが好きだと言っていた芸人だ。
このツッコミが秀逸なんだ、とか言ってたっけ。
そんなことを考えていたら、テーブルの上に置いていたスマホが鳴った。
画面を見ると、テツからのメッセージを受信していた。

《戸締りはちゃんとしているか?》

何それ。
思わず笑みがこぼれる。

《してるから大丈夫》

《晩飯は食べたのか?》

《食べたよ》

《そうか。こっちはいつ帰れるか分からないから先に寝ればいいよ》

私がメッセージを送るとすぐに既読になり返信が来る。
接待中なのにスマホばかり弄っていいの?
時刻を見ると二十二時を過ぎている。
いつ帰れるか分からないって、日付が変わってから帰ってくるのかもしれない。

《分かった。テツもあまり飲み過ぎないようにね!》

《分かってる。あー、早く帰りたい》

ドンマイ!というスタンプを送ったけど、しばらく経っても既読にならない。
接待に戻ったのかな。
このまま起きてても仕方ないし、明日も仕事だ。
そろそろ寝ようかな……。

私はスマホを持ち、自由に使ってもいいと言われた部屋に入るとフローリングに布団を敷いて寝転がった。
だけど、すぐに寝れる訳はなく、しばらくスマホを弄りネットニュースなど見る。
それも飽きて枕元にスマホを置いて寝るモードに入った。

しん、と静まり返った空間はこの部屋に一人というのを再認識させる。
落ち着かなくて何度も寝返りを打つ。

テツ、いつ帰ってくるんだろう。
残業なら何時頃帰るとか報告があったけど、接待は相手がいるのでそういう訳にはいかない。

起きていたら、どうしてもテツのことばかり考えてしまう。
もー、なんでよ!
意識して違うことを考えようとするのに、なぜかテツのことが頭に浮かんでくる。
こんなの、おかしいよ……。
頭を空にして無理やり寝ようと目を閉じた。
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