そして、恋の種が花開く。

松本ユミ

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そして、恋の種が花開く。

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「あれから七年も経ってるし、全く問題ないよ。それに百人ぐらい来てたら会わないかもしれないでしょ」

念のため宴会場を見回してみたけど、それらしき人は見当たらない。
私の運が良ければ会うことはないだろう。

「まぁ、そうだけど。でも、アイツらは一回ぶん殴ってやらないと私は気が済まない」

「なんで茜が怒ってんの。ぶん殴るとか物騒でしょ」

思わず苦笑いしてしまう。
でも、それは私のことを気遣って出た言葉だと思うから茜の気持ちはすごく嬉しかった。

「だって、あの時もだけどさくらが怒らないから」

「ありがと。でも、私ならホントに大丈夫だよ」

「ならいいけど」

言葉とは裏腹に、茜は納得していないような微妙な表情を浮かべていた。
私にとっては過去のことだし、『あー、そんなこともあったな』というレベルの話で今は痛くも痒くもない。

「茜、帰ってきてたのね!会いたかった」

突然、そんな声が聞こえ背後から茜を抱きしめてきた。
少しよろけながら茜が振り返る。

「ちょっと、なつみ!急に抱きついたら危ないじゃない」

「ごめんごめん。茜がいるのを見たら嬉しくなって」

茜に嗜められて謝罪しているのは逸見なつみ。
茜とは仲が良かったみたいだけど、私はほとんど話したことがない。

「ホント、なつみは高校の時から変わってないね。相変わらず声も大きいし」

「嘘でしょ。ちょっとはいい女になってるはずなんだけど」

「いい女はどこにいますか~?」

「ここにいるでしょ、ここに!」

二人は楽しそうに話している。
特に会話に加わることなく黙ってこの場に留まっているのも居心地が悪くなったので茜に「自分の席を探すね」と伝えて背を向けた。

ようやくSテーブルを見つけると、すでに六人掛けの円形のテーブルに一人、男の人が俯き気味にスマホを弄りながら座っている。
一応、同じテーブルなので挨拶しようと近付くと、私に気付いたその人が顔を上げて目が合った瞬間、「あっ」と小さく声が漏れた。
向こうも気まずそうな表情になり、軽く頭を下げる。

たくさんテーブルがある中で、よりにもよってこの人と同じになるなんて運が悪すぎだ。
席を変更してもらいたいのは山々だけど、そんなワガママは言えなくて仕方なく椅子に座る。
隣同士ではなかったのがせめてもの救いだ。
向かいの席に私が高校時代に付き合っていた佐々木誠人が座っている。

別れた理由が本当に最低だったので、この人とは出来ることなら会いたくなかった。
付き合ったこと自体が私の汚点だし。

さっき茜とこの人の話をしたのが災いしたのかもしれない。
なにが何百人も来てたら会わないかも……よ!
そんな呑気なことを言った自分を呪いたい。
嫌なミラクルが起こってしまった。

過去のことだと言ったけれど、向かい合って座ることになるなんて最悪以外の何ものでもない。
会場には続々と人が集まっているけど、私のテーブルにはまだ誰も来る気配がない。

誰でもいいから早く来て!と願うばかりだった。
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