『Chaos of War』

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第二話 円卓

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 円卓――『CoW』内にある《淵なる鍵》というアイテムを持つプレイヤーのみに入ることを許された不可侵の部屋。その名の通り円卓があり、周りには六つのイスが並べられている。

 四方囲まれた壁に光の扉が出現し、一人目がやってきた。

「わ、私が一番ですか……」

 杖を持ち、つばの広い帽子を被り、タイトなワンピースを着て、黒縁メガネを掛けて鼻から下を白い布で隠した女。

呪文遣いスペルキャスター》のとおか、だな。このゲームは身体能力が現実と同じだから、感覚の差異を無くすためにほとんどアバターを弄らないものだが、とおかの持つには誰もがネカマを疑っていたが……どうやら本物だったらしい。

「おっ、ワシが二番か。あんたは……とおかちゃんか。ワシはハッサクや。わかるやろ?」

「あ、ど、どうも」

召喚士サモナー》のハッサク。全身を覆うマントを羽織り、ペストマスクを着けた関西弁の男。

 次に入ってきたのはガチャガチャと鎧の音を立てて歩く。

「……すまない。遅れたか」

「い、いえ、まだ私達だけなので」

「ミロクやん。あんたが来るとはな」

「……来るだろう。この状況では」

《黒騎士》・ミロク。全身に黒い鎧を纏い、兜のせいかくぐもった声で口数も少なく性別もわからない秘密の多い人だ。

「いや~、おまたせおまたせ~」

《拳聖》・双葉。ワイドパンツのチャイナ服に翁の面の被ったポニーテールの少女。

 これで四人。それぞれが顔を隠しているのは『CoW』のシステム上、顔を隠せばプレイヤーネームが見えないからだ。二つ名を持つソロプレイヤーは何かと目立つし、姿は別にしても名前は隠しておいたほうがいいという暗黙の了解がある。ちなみに、同じクランに所属しているプレイヤーは顔を隠していても名前が見える仕様になっている。

 そんな中で、唯一顔を隠さず誰からも周知されているソロプレイヤーが最後の一人だ。

「ん、揃っていたか」

 ぬっと現れた身長二メートルはあろう強面の大男。

《王剣》・一狼。どこのクランにも所属していないものの頼まれればクエストに手を貸し、知恵を貸し、アイテムを貸す。そのおかげで信頼も厚く、この円卓の中でもまとめ役のような立ち位置にいる。

「まだ揃ってへんやろ。そもそもワシらにこの状況を伝えた張本人が」

「ああ、いるぞ。初めから」

 声を出した瞬間に、全員が俺の座っている方向に視線を送ってきた。

「相変わらず訳わかんないスキルだね~。《盗賊》のナナクサは」

「心外だな。みんなと同じように現実でできることがスキルになっているだけなんだが」

「それで気配を消せるってどんな生活しとんねん」

「ま、魔法なら似たようなことも出来ますけどね」

「雑談はそこまでだ」一狼の言葉に、全員が口を閉ざす。「まずは現状把握だ。ナナクサ」

「俺に聞かれても困るが、おそらく『CoW』の史実通りのことが起きている。第一陣は都市と自衛隊基地への攻撃。で、どうして俺たちがゲームの中と同じように戦えるかはわからない」

「あの通知が無けりゃあワシらもこの場に集まれていたかわからんが、そもそもゲームの中の歴史を覚えている奴も少ないやろ」

「わ、私も覚えていますが……問題は第二陣の避難所への襲撃、だと思います」

「史実を辿るのなら次の避難所への襲撃で日本は国としての機能が完全に停止する。そこで疑問になるのが、それを止められるのかどうか、だ」

「うちらだけじゃ無理だろうね~。そもそも魔物の強さがゲーム内と同じなら何人集まろうと無理だろうけどね」

 ゲームのクエストは特定の魔物の討伐や納品物の回収、エリアの確保などが目的で無数の魔物を相手に戦争をしたことはないし、過去のクエストで出てきた魔物とまだ見ぬ魔物を合わせた全てと、こちら側の全プレイヤーを総動員したとしても勝つことは出来ない。確率が低いとか、可能性がゼロではないとか、そういう話じゃない。不可能なのだ。

「日本は終わる。その事実は変えられない。ならば、被害を減らすことを優先するべきだろう」

 実際のところ、魔物は魔法やスキルだけじゃなく剣や銃でも倒せるが、ゲーム内ではトライ&エラーの死にゲーだ。さすがに現実では再現できない。

「……ゲーム内での攻略組は二百人にも満たないが、それ以外のプレイヤーが戦えなかったわけではない。我々と同じように呼び起せれば、或いは……」

「やったら、その役目は一狼やな。いっちゃん顔広くて信頼があるやろ」

「わかった。引き受けよう。各クランのリーダーと、鍛冶ギルドや商人ギルドの代表にメッセージを送り、その先は個人に任せるとしよう」

 おそらくそれが最も被害を減らす可能性のある方法だ。上手くいくかはわからないし、俺たちのように即座に理解し順応できるかはわからないが。

「あ、あの! ……今更ですが、みなさん大丈夫なんですか? これはゲームじゃなくて人が……現実の人達が、殺されているんですよ?」

「まぁ、そうは言うてもゲームと変わらへんしなぁ。そもそも……いや、変やな。ナナクサからのメッセージで《戦闘準備》するまでは襲われる人たちをどう助けるかしか考えとらんかったが、メッセージを受けてからは魔物を殺すことだけで、殺されたもんのことは特になんとも」

「……我々の意識がゲームと交わった、ということだろう。ゲーム内ではいちいち人の生き死になど考えない。だが、とおかは――」

「あ~、とおかちゃんはNPCも守ろうとしてたもんね~。というかNPCだから、かな?」

「プ、プレイヤーは自衛できますし、ゲームのシステム上プレイヤーキルも出来ないですし、それ以外の方々を守るのが私達の義務だと思って……」

 プレイスタイルは人それぞれだ。この場にいる者はソロでクエストをクリアしたことはあるが、攻略・力試し・欲しい報酬があるなど、理由は違う。

 ゲーム内での会話はそれなりにしてきたが、この状況では一歩踏み込むべきか。

「自己紹介をしよう」そう言って、フードを脱ぎ口元を覆っていたマスクを外した。「《盗賊》のナナクサ――本名は七條草士郎。仕事は3Dグラフィックデザイナー。で、知っての通り戦い方は隠密中心で、不意打ちやバクスタでの一撃必殺が得意だ。あとは……ソロでクリアしたクエストは三つだな」

「ほんなら次はワシやな」ペストマスクを外すと、オレンジ髪で糸目の気の良さそうな兄ちゃんが顔を出した。「《召喚士》のハッサク――本名はゲーム内ネームに掠ってもおらんからパスで。ハッサクってのはこの髪色からやな。んで、仕事はペットショップの店員や。使役した魔物や精霊を召喚して戦ってもろてる。クリアしたクエストは一つだけ」

「んじゃあ、序列的に次はうちかな」翁の面を外すと、人懐っこいような可愛らしい少女が顔を見せた。「《拳聖》・双葉。本名もおんなじで双葉だよ~。お仕事――というか十五歳の高校一年生。三歳くらいからおじいちゃんに拳法を習っていたから、肉弾戦しかできないかな。クリアしたクエストは二個だった気がする」

「で、では次は私が」鼻から下を覆っていた白い布を外すと、目鼻立ちはっきりとした美人さんが恥ずかしそうに視線を下げた。「《呪文遣い》のとおかです。わ、私も本名です。仕事は司書をしています。一応、ゲーム内にあるすべての魔法が使えていました。クエストクリアは一回だけです」

「……はぁ」溜め息と共に黒い鎧の兜を脱げば、長い黒髪の切れ長目の美少女がむくれ顔をしていた。「《黒騎士》・ミロク――ミロクは本名の苗字だからそのままでいい。あたしも双葉と同じで十八歳の高校生で、子供の頃から剣道をやっていたから剣術がメインで戦っている。クエストクリアは……三回」

「《王剣》――と自ら名乗るのは苦手だが、一狼は本名だ。字は違うが。仕事は、今は小さな警備会社の社長をしている。俺は剣を使うが銃も使う。ソロでクリアしたクエストは六つだ」

「これでお互いのことは知れたな。それじゃあ――これからの話をしよう」
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