歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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1章

1.腐男子、BLゲームの世界に転生する

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『貴様は永遠に俺のものだ』

 薄暗い地下牢で、ブロンドの長い髪を束ねた男が不敵に笑う。その視線の先には、鎖で繋がれた美しい青年がいた。
 執着と甘美さの入り交じった台詞を最後に、画面が暗転してエンドロールが流れ始める。画面を見入っていた俺は、ポカンと口を開けてしまった。

「……は? これがダミアンルートのハッピーエンド? リオン、地下牢で監禁されてんじゃん」

 ローテーブルに置かれたスマホを手に取り、すぐさま攻略サイトにアクセスする。

「どっかで選択肢間違えたか? まさかこれがハッピーエンドってことは……」

 分岐点をひとつずつ確認していくと、先ほど見たエピソードが紛れもなくダミアンルートのハッピーエンドだと判明する。お目当てのエンディングが、監禁エンドだと知って愕然とした。

「うわぁ……。こんなエンディングだから、ファンの間ではなんて呼ばれていたのか」

 ガックリ肩を落としながら、スマホを手放した。
 俺がプレイしていたのは、『魔導士の愛欲に溺れて』というBLゲーム。光の魔力を持つリオン・マクミランが、魔法学校に通う中でイケメン魔導士たちと恋に落ち、愛を育んでいくストーリーだ。

 攻略対象は全部で5人。これまでプレイしてきたルートでは、イケメン魔導士から溺愛され、燃えるような熱い夜を交わし、物語の終盤で憎き双子の兄であるアレン・マクミランを断罪し、永遠の愛を誓ってエンディングを迎える。そんな愛と幸せに満ちたストーリーが好きで腐男子大学生の俺もハマっていたというのに……ダミアンルートはどうした? 永遠の愛を誓うと言ったって、鎖で繋いで監禁するのはナシだろう。

 思い返してみれば、ダミアンルートに入った時点で嫌な予感はしていた。リオンに魔法の首輪をつけて四六時中監視したり、ひとりでは性処理ができなくなる魔法をかけたり、過激なプレイを強要したり……。

 これも愛。たぶん愛。ギリギリ愛。なんて騙しだましプレイしていたけど、まさかこんなエンディングに繋がるなんて……。
 断言しよう。ダミアンは人の皮を被った鬼畜野郎だ。
 なぜあの男は、あんなに歪んだ愛し方しかできないのか? まあ、フィクションだから真面目に考えるのも不毛な話だけど。

「あーあ、ダミアンにはがっかりだよ。気晴らしにルーカスルートをもう一周プレイするかぁ。その前に、コンビニで飯を買いに行こーっと」

 パソコンを閉じると、財布をポケットに突っ込んで、アパートから飛び出した。


……………………
………………
…………


「……さん、にいさん! 兄さん!」

 耳元でソプラノボイスが響く。ゆっくりと瞼をあけると、青い瞳に涙を浮かべた銀髪の美少年がこちらを見下ろしていた。

「よかったぁ。目を覚ましたんだね。うなされていたから、また魔力暴走を起こしそうなのかと心配したよ」

 双子の弟、リオンだ。僕の弟は、相変わらず可愛い。さすがは総受けだ。ショタバージョンも最高だな。…………んんっ?
 僕の記憶に、存在しないはずの邪念が入り交じる。記憶を手繰り寄せようとすると、ズキッとこめかみに痛みが走った。

「うっ……」
「兄さん、大丈夫!?」

 リオンが心配そうな顔で、僕の背中を撫でる。ゆっくりと呼吸をしながら、脳内でとっ散らかった情報を整理した。

 僕は、アレン・マクミラン。王都から離れた長閑な田舎町を統治する、しがない男爵家の嫡男として生まれた。つい先日、六歳の誕生日を迎えたばかりだ。
 そして隣にいるのが、双子の弟、リオン・マクミラン。ふわふわとした銀髪と青い瞳がチャーミングな自慢の弟だ。

「リオンは……弟……」

 その事実を再認識すると、サアッと肝が冷えていく。
 まさか、そんなはずは……。
 僕は寝台から飛び起きて、子ども部屋に置かれた大きな鏡の前に駆け寄る。

「兄さん!?」

 困惑しているリオンの声を無視して、自分の姿を確認した。
 艶のあるストレートの黒髪、鮮血のような赤い瞳。リオンとよく似た愛らしい顔立ち。小柄な身体には、フリルをふんだんにあしらった白いブラウスを着ていた。

 間違いない。『魔導士の愛欲に溺れて』に登場するアレン・マクミランの幼少期だ。ゲームの回想シーンで一度だけ見たことがある。
 どういう原理でそうなったのかは分からないが、前世の記憶が蘇ったことで、自分がBLゲームの世界に転生していることに気付いた。

 そういえば、前世ではコンビニからの帰り道で交通事故に遭ったんだ。最後に見たのは、アスファルトの上で潰れたシュークリームだった……。

 大好きなゲームの世界に転生できたのは嬉しいけど、割り当てられた配役が非常によくない。
 アレン・マクミランは、主人公であるリオンを陰湿にいじめたのち、断罪される悪役令息だ。国外追放はまだマシな方で、最悪闇オークションに出品されて変態紳士に落札される。(そう仕向けたのは鬼畜寮長のダミアンだった)
 落札された後は、三日も経たずに絶命したとテキストで記されていたから、相当むごい扱いを受けていたことは容易に想像がつく。

 この先に待ち受けている悲惨な人生を想像すると、震えが止まらなくなった。
 青い顔で立ち尽くしていると、リオンが心配そうに僕の手を握る。

「まだ信じられないよね。兄さんが闇の加護を受けていたなんて……。僕だってまだ信じられないよ」

 闇の加護? 待ってくれ。ややこしい設定を増やさないでくれ。
 もう一度記憶を掘り起こすと、意識を失う前にアレン・マクミランに起こった出来事を思い出した。

 六歳の誕生日を迎えた僕ら双子は、聖堂に向かい、自身の身体に流れている魔力属性を鑑定してもらった。弟のリオンは、癒しの力を持つ光属性。その鑑定結果を聞いて、両親も舞い上がっていた。
 続けて、兄である僕も鑑定してもらったのだが、そこで言い渡されたのが呪われし闇属性。人の心を操る力を持つ闇属性は、この世界で恐れられている存在だった。

 その鑑定結果に納得できなかった僕は、聖堂で癇癪かんしゃくを起し、魔力を暴走させてしまった。どうも僕は魔力量が多かったらしく、泣きわめいて魔力を大量放出させた挙句、聖堂を破壊してしまった。全壊ではない。半壊くらいだと思う。たぶん……。
 手の付けられない魔獣と化した僕は、騎士八人がかりで取り押さえられ、鎮静魔法をかけられた。そのせいで、意識を失っていたというわけだ。

 なんというか……取り乱してしまった件は深く反省している。聖堂関係者や騎士の方々には申し訳ないことをしてしまった。
 だけど、あの時はものすごく動揺していたんだ。お母さまはショックのあまり昏倒するし、お父さまは司祭に怒鳴り散らすし、周囲にいた見物人も悲鳴をあげながら逃げ惑うし……。
 それに、リオンはみんなから祝福される光属性なのに、兄の僕だけが忌み嫌われる闇属性なのが許せなかったんだ。

 当時の心境を思い返すと、ゲーム内のアレン・マクミランが弟を憎んでいた理由を察した。恐らくアレン・マクミランは、恵まれた弟に嫉妬して、数々のいやがらせを行なってきたのだろう。ゲームをプレイしてきた時は、憎らしい存在だったけど、アレン・マクミランの生い立ちを鑑みれば、そうした行動をとりたくなる気持ちもわかる。

 だけど、憎悪の果てにあるのは、救いのない断罪エンドだ。弟をいじめたって、良いことはなにもない。前世の記憶を取り戻したことで、リオンをいじめるのがいかに不毛なことだと気付いた。
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