歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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1章

2.悪役令息、即退場?

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 僕の手を握っていたリオンは、今にも泣き出しそうな表情で言葉を続ける。

「いま、マクミラン家の血縁者を集めて、緊急会議をしているんだ。兄さんの処遇を話し合っているみたい。ちょっとだけ盗み聞きしちゃったんだけど、兄さんを人里離れた山奥に隔離することも考えているとか……」

 山奥に隔離と聞いて、愕然とする。そうか、僕は親族にすら厄介者扱いされているのか……。
 闇属性の魔導士は、人を操る力を持つ厄介な存在だ。ゲーム内のアレン・マクミランも、モブキャラを洗脳し、リオンを襲うように仕向けていた。
 巷で起こる犯罪も、闇属性の魔導士が関与しているケースが多いと聞く。そんな危険な存在が身近にいると分かれば、遠ざけたくもなるだろう。

 これがゲームのシナリオだと知って、いくぶん状況を客観視できるようになったが、屋敷を出て行かなければならないというのはショックだった。魔力鑑定を受ける前までは、家族みんなで平穏に過ごしていたのに……。

「僕は嫌だよ。兄さんと離れ離れになるなんて。闇属性だって、兄さんは兄さんなのに……。明るくて、やさしくて、家族思いの、僕の憧れの人だ」

 リオンは、青い瞳に涙を浮かべながら訴える。その言葉で、彼は僕の味方だと気付いた。

「ありがとう。そう言ってくれるだけでもうれしいよ」

 屋敷を追い出されるのは、アレン・マクミランの宿命だ。ゲーム内でも、リオンは幼少期に兄と離れて暮らしていたと明かされていた。恐らくこのタイミングで、僕ら双子は別々の運命を辿ることになるのだろう。

「話し合いの結果によっては、もう一緒には暮らせないだろうけど、僕はずっとお前を愛しているよ」

 仕方のないことなのだ。屋敷を出て行けと言われたら、素直に従うつもりだ。下手に抵抗したら、断罪エンドに直結しかねない。最悪の結末を回避するためにも、ここは親族の意向に従うべきだろう。
 人里離れた山奥に隔離されたら、魔獣でも手懐けて、スローライフをはじめるのもいいかもしれない。山暮らしのもふもふ転生ライフも、ちょっと憧れる。
 自らの宿命を受け入れようとしたものの、リオンは涙を浮かべながらぶんぶんと首をふる。

「だから兄さんと離れるなんて嫌なんだってば! 僕だって、兄さんを愛しているのに!」
「リオン……!」

 そこまで僕のことを想ってくれていたなんて。じーんっと胸が熱くなっていると、リオンに勢いよく手を引かれた。

「来て。僕に良い考えがある」
「良い考え? ……って、おい!」

 リオンに手を引かれるまま、僕らは子ども部屋を飛び出す。長い廊下を駆け抜けたあと、親族が会議をしている応接間に飛び込んだ。
 ノックもなしに突撃をしてきた僕らを見て、お父さまがギョッと目を瞠る。

「なんだお前たち! いまは大事な話し合いをしているんだ! 向こうに行っていなさい!」

 お父さまが無作法ものの僕らを叱りつける。その怒声に怖気づいてしまったが、リオンは顔を強張らせながらも大人たちと向き合った。

「あのっ、兄さんは闇属性ですが、魔法を悪用するような人ではありません。信じられないというなら、僕が悪いことをしないように見張っています。だから、僕ら兄弟を離れ離れにしないでください」

 まさかド直球で訴えるとは思わなかった。驚きながらリオンの横顔を見つめていると、声を震わせながら言葉を続けた。

「それに闇魔法は、光属性の魔導士にはほとんど効果がないと聞いたことがあります。それなら、僕が兄さんに心を操られることはありません。だから、見張りには適任だと思うんです」

 確かにゲーム内でも、アレンの闇魔法はリオンには効果がなかった。だからモブを洗脳して危害を加えようとしていたんだ。
 そうした理屈を考えれば、リオンが僕を見張るというのも理にかなっている。とはいえ、簡単には受け入れられる提案ではなかったようで、親族たちは眉を顰めながらひそひそと意見交換をしていた。
 そんな中、気品のある老齢の女性が凛とした声をあげる。

「たしかに闇魔法は恐ろしいが、アレンはまだ六歳の子どもだ。しばらくは屋敷で様子を見てもいいのでは?」

 現在、マクミラン家でもっとも発言権があるのは、先代の夫人であるおばあさまだ。現当主であるお父さまも、おばあさまには頭が上がらない。
 おばあさまは、僕ら双子を溺愛しているから、即屋敷を追い出すのは反対だったのだろう。鶴の一声で、僕の僻地送りは保留になった。

 * * *

 その日の晩、僕ら兄弟は久々に同じ寝台に入った。灯りを消した部屋で寄り添いながら、小声でお喋りをする。

「リオン、今日はありがとう。おかげで屋敷を追い出されずに済んだよ」

 僻地送りを免れたのは、リオンが勇気を出して大人たちに意見してくれたおかげだ。感謝してもしきれない。

「兄さんと離れ離れになるなんて、絶対に嫌だったからね。大人たちが聞き入れてくれてよかったよ」

 ふにゃふにゃとした笑顔を浮かべるリオンを見ていると心が和む。やっぱりリオンは、僕の自慢の弟だ。
 リオンの笑顔に癒されていると、か細い腕が僕の腰に回される。

「兄さん、僕らはずっと一緒だよ」

 可愛らしい言葉に胸をくすぐられる。

「ああ、もちろんだ」

 僕もリオンの背中に手を回して、ぎゅーっと抱きしめた。しばらく互いのおでこをくっつけながらクスクスと笑い合っていたが、不意にリオンが僕の耳元に顔を寄せた。

「兄さんは、永遠に僕のものだからね」

 さっきまでの甘えん坊モードとは異なる雰囲気を感じ取って、笑顔が引っ込む。
 愛する弟に、悪い魔法でもかけられた気分だ。
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