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1章
14.悪役令息は寮長ルートに突入したようです
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「だからあれは不慮の事故というか! 僕と寮長はやましい関係じゃないんだってば!」
夕食時になると、初日と同じくルーカス、クライド、フレッドが同じテーブルにつく。そこで僕は、例の下着事件の誤解を解こうとしていた。
うんざりしている面々に訴えると、フレッドが苛立ったようにテーブルを叩く。
「ああ、もう、うるさいなぁ! 聞きたくない!」
大きな物音に驚いた幼竜が「きゅっ」と鳴いて飛び跳ねる。クライドは、幼竜の背中を撫でながら、ため息をついた。
「アレン、もう分かったから、その話はやめろ。あまり気分のいい話ではない」
クライドに窘められたところで、僕は口を噤んだ。
気まずい空気が流れると、ルーカスが爽やかに笑いながら僕の背中をバシバシ叩く。
「まあ、生きてりゃ色々あるよな。気にすんな!」
なんだかあまり誤解が解けていないような……。まあ、百パーセント何もなかったと言ったら、嘘になるんだけど。
恐る恐る隣に座るリオンに視線を向ける。
「リオンは信じてくれるよな?」
縋るように尋ねたものの、リオンはむすっとした顔で子羊のソテーをナイフで切るばかり。まだ怒っているようだ。
リオンは、昼休みからずっとこの調子だ。早く機嫌を直してもらいたいんだけど、この場で寮長との話を蒸し返すとまたみんなに怒られそうだから、黙って食事を続けることにした。
殺伐とした空気の中では、せっかくの料理も砂を噛んでいるようだった。
* * *
入浴を済ませて部屋に戻ってくると、ようやくリオンが目を合わせてくれた。
「兄さん、髪梳かすから、椅子に座って」
「う、うん……」
急に話しかけられたことに驚きつつも、素直に従う。椅子に腰かけると、背後に回ったリオンが髪を梳かし始めた。
丁寧に、丁寧に。まるで大切な人形を扱うようにブラシで梳かしていく。
僕の髪はダミアンのように長くないから、そんなに丁寧に梳かす必要なんてないと思うんだけど……。
されるがままになっていると、リオンが言葉を漏らす。
「あまり僕以外の人間には触らせないで」
振り返ると、リオンはいまにも泣き出しそうな顔をしていた。そんな顔をされるとは思わなかったから、驚いてしまう。
「どうしてそんな……」
戸惑いながら尋ねると、リオンはこつんと僕の背中に頭を預ける。
「……好きだから」
意識していないと聞き逃してしまいそうな小さな声が届く。
弟から懐かれているのはありがたいけど、他人との接触を拒むほどブラコンをこじらせているのは考えものだ。そもそもリオンは、どうしてこれほどまでに僕に執着しているのだろう。
「僕もリオンのことは好きだけどさ、触らせないでっていうのはさすがに……」
「兄さんは、全然分かってない!」
僕の言葉を遮って、リオンが叫ぶ。突然のことに驚いていると、リオンはぐりぐりと背中に額を押し当てた。
「兄さんは、僕のすべてなんだ。誰にも穢されたくないし、僕だけのものであってほしい」
「僕だけのものって……。大体どうして僕にこだわっているんだよ? 僕はリオンみたいに賢くないし、失敗ばかりするし、自慢できることなんて何も……。それに 忌み嫌われる闇属性だし……」
最後の自虐は、少しだけ胸を抉られた。今更どうしようもならないことだって分かっているけど。
俯いていると、リオンは背中に押し付けていた額を離す。かと思えば、勢いよく背中を押された。不意打ちだったから、バランスを崩して床に倒れこんでしまう。
「いてて……」
仰向けに転がりながら、床に打ち付けた腰を擦っていると、リオンが表情を消してじっとこちらを見下ろしていた。青い瞳は、輝きを失くして濁っている。
「リ、リオン?」
僕の弟は、どうしたんだ? 目を大きく開きながら狼狽えていると、リオンが僕に覆い被さるように迫ってきた。
「分からないなら教えてあげるよ」
至近距離にリオンの整った顔がある。両手を床に押さえ付けられているせいで、身動きが取れなかった。
つい先日も、寮長に似たようなことをされたことを思い出す。あの時も驚いたけど、今はそれ以上に恐怖心が湧き上がってきた。
目の前にいるのは愛する弟のはずなのに、怖い。頭が真っ白になって、喉の奥から悲鳴を上げそうになった時、部屋の扉がノックされた。
「アレン・マクミラン。渡したいものがある」
低くて威厳のある声が飛んでくる。この声は、ダミアンか?
呼びかけられたことで、リオンも僕の手首を掴む力を緩める。その隙に、リオンを押しのけて扉へ向かった。
「は、はいっ」
急いで扉を開けると、髪を解いたダミアンが立っていた。その手には、封筒がある。
「渡したいものって……」
「これだ」
手元にあった封筒を渡される。校章が入った封筒だ。正式な文書をやりとりする際に使用するものだろう。
封筒を受け取ってから、恐る恐るダミアンの顔を窺う。
「開けても構いませんか?」
「ああ」
許可を得たところで、さっそく封を切る。出てきたのは、一枚の書面だった。
「えっと、なになに……。アレン・マクミランは、本日付でガーネット寮の寮長補佐に任命、す、る……」
読み上げても、すぐには内容が頭に入って来ない。放心していると、ダミアンはブロンドの髪をなびかせながら踵を返した。
「そういうことだ。頼んだぞ」
ゆらゆらと揺れるブロンドの髪を眺める。姿が見えなくなったところで、ようやく事の重大さに気付いた。
「寮長補佐!? そんなの聞いてませんけど!?」
そんな話は、初めて聞いた。というか寮長補佐ってなんだ? そんな役職は、ゲームでも登場しなかったけど!?
抗議しようと部屋を飛び出すと、一階のエントランスがやけに騒がしいことに気付く。階段の上から覗いてみると、掲示板の前に立っていたルーカスと目が合った。
「アレン、寮長補佐になるんだってな。新入生で任命されるなんて凄いな……」
明るい口調で言っているが、その表情からは憐みが滲んでいた。そもそも、どうしてルーカスがそのことを知っているんだ?
一階に下りて掲示板を確認すると、またしても愕然とする。なんと掲示板にも、手紙に書かれていた内容と同様の文書が掲示されていた。
「もう公表されている……?」
今任命されて、即公表って……。僕に拒否権はないのか?
膝から崩れ落ちると、にやりと不敵に笑う寮長の顔が脳裏に過った。
そこで僕は気付く。
そうだ。ダミアンはこういうやつだ。こっちの都合なんてお構いなしに、自分の要求を押し通してくるんだ。
もしかして、ダミアンに目を付けられたことで、僕自身がダミアンルートに突入してしまったのか?
今後待ち構えている鬼畜な所業を想像すると、背筋が凍りついた。
夕食時になると、初日と同じくルーカス、クライド、フレッドが同じテーブルにつく。そこで僕は、例の下着事件の誤解を解こうとしていた。
うんざりしている面々に訴えると、フレッドが苛立ったようにテーブルを叩く。
「ああ、もう、うるさいなぁ! 聞きたくない!」
大きな物音に驚いた幼竜が「きゅっ」と鳴いて飛び跳ねる。クライドは、幼竜の背中を撫でながら、ため息をついた。
「アレン、もう分かったから、その話はやめろ。あまり気分のいい話ではない」
クライドに窘められたところで、僕は口を噤んだ。
気まずい空気が流れると、ルーカスが爽やかに笑いながら僕の背中をバシバシ叩く。
「まあ、生きてりゃ色々あるよな。気にすんな!」
なんだかあまり誤解が解けていないような……。まあ、百パーセント何もなかったと言ったら、嘘になるんだけど。
恐る恐る隣に座るリオンに視線を向ける。
「リオンは信じてくれるよな?」
縋るように尋ねたものの、リオンはむすっとした顔で子羊のソテーをナイフで切るばかり。まだ怒っているようだ。
リオンは、昼休みからずっとこの調子だ。早く機嫌を直してもらいたいんだけど、この場で寮長との話を蒸し返すとまたみんなに怒られそうだから、黙って食事を続けることにした。
殺伐とした空気の中では、せっかくの料理も砂を噛んでいるようだった。
* * *
入浴を済ませて部屋に戻ってくると、ようやくリオンが目を合わせてくれた。
「兄さん、髪梳かすから、椅子に座って」
「う、うん……」
急に話しかけられたことに驚きつつも、素直に従う。椅子に腰かけると、背後に回ったリオンが髪を梳かし始めた。
丁寧に、丁寧に。まるで大切な人形を扱うようにブラシで梳かしていく。
僕の髪はダミアンのように長くないから、そんなに丁寧に梳かす必要なんてないと思うんだけど……。
されるがままになっていると、リオンが言葉を漏らす。
「あまり僕以外の人間には触らせないで」
振り返ると、リオンはいまにも泣き出しそうな顔をしていた。そんな顔をされるとは思わなかったから、驚いてしまう。
「どうしてそんな……」
戸惑いながら尋ねると、リオンはこつんと僕の背中に頭を預ける。
「……好きだから」
意識していないと聞き逃してしまいそうな小さな声が届く。
弟から懐かれているのはありがたいけど、他人との接触を拒むほどブラコンをこじらせているのは考えものだ。そもそもリオンは、どうしてこれほどまでに僕に執着しているのだろう。
「僕もリオンのことは好きだけどさ、触らせないでっていうのはさすがに……」
「兄さんは、全然分かってない!」
僕の言葉を遮って、リオンが叫ぶ。突然のことに驚いていると、リオンはぐりぐりと背中に額を押し当てた。
「兄さんは、僕のすべてなんだ。誰にも穢されたくないし、僕だけのものであってほしい」
「僕だけのものって……。大体どうして僕にこだわっているんだよ? 僕はリオンみたいに賢くないし、失敗ばかりするし、自慢できることなんて何も……。それに 忌み嫌われる闇属性だし……」
最後の自虐は、少しだけ胸を抉られた。今更どうしようもならないことだって分かっているけど。
俯いていると、リオンは背中に押し付けていた額を離す。かと思えば、勢いよく背中を押された。不意打ちだったから、バランスを崩して床に倒れこんでしまう。
「いてて……」
仰向けに転がりながら、床に打ち付けた腰を擦っていると、リオンが表情を消してじっとこちらを見下ろしていた。青い瞳は、輝きを失くして濁っている。
「リ、リオン?」
僕の弟は、どうしたんだ? 目を大きく開きながら狼狽えていると、リオンが僕に覆い被さるように迫ってきた。
「分からないなら教えてあげるよ」
至近距離にリオンの整った顔がある。両手を床に押さえ付けられているせいで、身動きが取れなかった。
つい先日も、寮長に似たようなことをされたことを思い出す。あの時も驚いたけど、今はそれ以上に恐怖心が湧き上がってきた。
目の前にいるのは愛する弟のはずなのに、怖い。頭が真っ白になって、喉の奥から悲鳴を上げそうになった時、部屋の扉がノックされた。
「アレン・マクミラン。渡したいものがある」
低くて威厳のある声が飛んでくる。この声は、ダミアンか?
呼びかけられたことで、リオンも僕の手首を掴む力を緩める。その隙に、リオンを押しのけて扉へ向かった。
「は、はいっ」
急いで扉を開けると、髪を解いたダミアンが立っていた。その手には、封筒がある。
「渡したいものって……」
「これだ」
手元にあった封筒を渡される。校章が入った封筒だ。正式な文書をやりとりする際に使用するものだろう。
封筒を受け取ってから、恐る恐るダミアンの顔を窺う。
「開けても構いませんか?」
「ああ」
許可を得たところで、さっそく封を切る。出てきたのは、一枚の書面だった。
「えっと、なになに……。アレン・マクミランは、本日付でガーネット寮の寮長補佐に任命、す、る……」
読み上げても、すぐには内容が頭に入って来ない。放心していると、ダミアンはブロンドの髪をなびかせながら踵を返した。
「そういうことだ。頼んだぞ」
ゆらゆらと揺れるブロンドの髪を眺める。姿が見えなくなったところで、ようやく事の重大さに気付いた。
「寮長補佐!? そんなの聞いてませんけど!?」
そんな話は、初めて聞いた。というか寮長補佐ってなんだ? そんな役職は、ゲームでも登場しなかったけど!?
抗議しようと部屋を飛び出すと、一階のエントランスがやけに騒がしいことに気付く。階段の上から覗いてみると、掲示板の前に立っていたルーカスと目が合った。
「アレン、寮長補佐になるんだってな。新入生で任命されるなんて凄いな……」
明るい口調で言っているが、その表情からは憐みが滲んでいた。そもそも、どうしてルーカスがそのことを知っているんだ?
一階に下りて掲示板を確認すると、またしても愕然とする。なんと掲示板にも、手紙に書かれていた内容と同様の文書が掲示されていた。
「もう公表されている……?」
今任命されて、即公表って……。僕に拒否権はないのか?
膝から崩れ落ちると、にやりと不敵に笑う寮長の顔が脳裏に過った。
そこで僕は気付く。
そうだ。ダミアンはこういうやつだ。こっちの都合なんてお構いなしに、自分の要求を押し通してくるんだ。
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