歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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1章

13.ならば俺の犬になれ

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 終礼の鐘が鳴り響いた後、僕は不機嫌を露わにするように大股で歩きながら、綺石の館に向かった。

「失礼しますっ!」

 ノックもなしに扉を開けると、書類を眺めていたダミアンにギロリと睨まれた。

「貴様は作法も知らないのか? どういう教育を受けてきた?」
「はいはい、すいませんね。こちとらしがない男爵家の息子でして、寮長のように高貴なお育ちではないんです。無礼をお許しください」
「なんだその態度は? 今日はやけに反抗的だな」
「反抗したくもなりますよ。昼休みのアレはなんです? 返すなら、直接返してくださいよ!」

 昼休みの出来事を思い出しながら憤りをぶつけると、ダミアンはふっと小馬鹿にするように鼻で笑った。

「中身を確認せず、人前で開けるからそういうことになるんだ」

 まるで僕の失態を見ていたかのような口ぶりだ。まさか監視をしていたのか? 離れた場所で傍観しながら、嘲笑っていたと想像すると、無性に腹が立った。

「監視している暇があるなら、直接返しに来ればいいじゃないですか!」
「俺には下級生の教室に赴いている暇はない。片付けなければならない雑務がたくさんあるからな」

 厭味ったらしく言いながら、机に置かれた書類をトントンと爪で叩く。
 そういえば、以前館に来た時も、ダミアンは忙しそうにしていた。寮長という立場ともなれば、やるべきこともたくさんあるのだろう。

「そういえば、他の寮長はどうしたんですか? 前回もその前も、いらっしゃらなかったようですけど」

 ガランとした三つの空席を眺めながら尋ねる。
 グランドワーズ魔法学校には、ガーネット寮の他に三つの寮が存在する。普通なら、他の寮長も綺石の館に集っているはずだ。
 疑問に思っていると、ダミアンは書類に目を落としたまま答える。

「他の寮長は、行事には関わっていないから館に赴くことはない」
「え? どうして関わっていないんですか?」
「必要ないからだ。下手にしゃしゃり出てきて、仕事をひっかき回されたら堪ったもんじゃない」

 きっぱりと言い切るダミアン。その言い草から、他の寮長も信頼していないことが伝わってきた。
 疑り深くなるのは仕方ないのかもしれないけど、仕事を一人で背負い込んでいる状況は好ましいとは思えない。行事の準備なんて、ひとりでこなせる業務量ではないだろう。

「……まあ、信頼できる雑用係はほしいと思っているけどな」

 ダミアンは独り言のように呟く。もしかして、また心を読まれたか?
 警戒していると、ダミアンは書類を机の端にまとめてから、僕と向き合った。

「それより本題だ」

 赤い瞳でじっと見つめられると、緊張感が走る。ごくりっと生唾をのむと、ダミアンはこちらを睨みつけるように目を細めた。

「貴様、闇属性だな」

 ぎくっと口元を引きつらせる。昼休みに渡されたメモの内容から、ある程度察しは付いていたが、こうも単刀直入に指摘されるとは思わなかった。

「あの、寮長はいつから気付いて……」
「貴様が胸像を破壊したと申告してきた時だ。あれほどまでに強い闇の魔力を感じ取ったのは初めてだ」

 なるほど。初っ端から知られていたのか……。
 怖気づきなからも、どうにか弁明を試みる。

「確かに僕は闇属性ですけど、この力を悪用したりしません」

 闇属性だと判明してから十二年間、人の心を操ろうだなんて考えたことはない。それは、この先も変わらないことだ。

「そんな言葉、信用できないな。俺以外の生徒も同じ考えだと思うぞ」

 ダミアンは、小馬鹿にするようにふんっと鼻で笑う。端からこちらを悪だと決めつける態度に苛立ちを覚えた。

「じゃあ何ですか? 寮長は闇属性の僕が気に食わないから退学にでもさせようっていうんですか?」

 いくら寮長だからって、そんな横暴が許されるのか? 僕はリオンのおまけで魔法学校に通うことを許してもらえたけど、正規の手筈で入学試験を突破したからここにいるんだ。学園側には、闇属性であることもきちんと明かしている。それを寮長が気に食わないから退学させるなんて、あんまりだ。

「残念ながら、俺の一存で一生徒を退学に追いやることはできない。そこまでの権力はないからな」

 その言葉を聞いて安心した。さすがに寮長権限で退学はできないのか。

「それじゃあ、寮長は僕をどうしようっていうんですか?」

 気を強く持って、ダミアンに尋ねる。わざわざ僕をこの場に呼び出したということは、何かしらの考えがあってのことだろう。

「そもそも貴様は、この学園で闇属性の生徒がどういう扱いを受けているのか知っているのか?」
「知りませんけど……」

 むすっとしながら言い返すと、ダミアンは深くため息をついてから椅子から立ち上がった。

「まずはそれを知る所からだな。ついてこい」

 僕の隣を通り過ぎたダミアンは、扉の前で振り返ることなく手招きをする。
 館の外に出るということなのか? ダミアンの真意を掴めないまま、僕はその背中を追いかけた。

 * * *

 館を出た後は、ダミアンの数歩後ろをついて歩く。どこへ向かっているかは、まだ知らされていない。
 仏頂面で植物園を抜けると、校舎が見えてきた。僕らは正面玄関には向かわずに、校舎の裏手へ向かう。

「どこに行くんですか?」
「黙ってついてこい」

 校舎裏に何があるというのか? たしかこの先にあるのは、ゴミ集積所くらいだったはず。
 首を捻りながらもダミアンの後をついていくと、ガシャンっと大きな物音がした。

「誰かいる?」

 僕がそう呟いた直後、ダミアンは苛立ったように舌打ちをしてから早足で歩く。僕もその後を追いかけた。

 校舎裏の奥まった場所にあるゴミ集積所には、五人の生徒がいた。彼らは一点を見つめながら、ニヤニヤと口元を歪めている。その視線を追いかけると、信じがたい光景があった。

 ゴミの入った袋に埋もれるように、ひとりの男子生徒が倒れこんでいる。目元は、布で覆われていて目隠しをされていた。

 よく見ると、口元に血が滲んでいる。転んだ拍子に切ったのか、誰かにやられたのかは分からないが、ただならぬ状況であることは伝わってきた。
 口元を押さえながら息をのんでいると、ダミアンがすぐさま五人のもとへ向かう。

「何をしている? ここは遊び場ではないぞ」

 地を這うような低い声が飛んでくると、五人は瞬時ににやけ顔を引っ込める。振り返ってダミアンの存在に気付くと、サアアッと青ざめた。

「も、申しわけございません」
「すぐに散ります」

 五人の生徒は、蜘蛛の子散らすように退散する。ダミアンは、威圧的な佇まいで五人の背中を睨みつけていた。

「いいんですか? 逃がしてしまって」
「顔と名前は把握した。あとで各寮の寮長に報告する。その後の処遇は、それぞれの寮長の判断に任せる」

 その口ぶりから、先ほどの五人は他寮の生徒であることが分かった。
 現場を抑えておきながら自ら処遇を下さずに、他人任せなのは引っかかる。だけど今は、それ以上に優先させるべきことがあった。
 僕は、ゴミ袋の山で横たわっている生徒に近付く。彼の前でしゃがみ込むと、すぐさま目元を覆った布を外してあげた。

「もう大丈夫ですよ」

 布を外すと、怯えたように揺らぐ紫色の瞳が現れる。僕と目が合った瞬間、彼はひぃっと悲鳴をあげた。

「く、来るなああああ!」

 錯乱したように叫ぶと、一目散にその場から逃げだした。

「あ、待って……」

 怪我をしているから手当をしてあげたかったのに……。あの程度の怪我なら、リオンの光魔法ですぐに治せるはずだ。
 だけど、逃げられてしまっては仕方がない。もしかしたら、僕のこともあの五人の一味だと勘違いされてしまったのかもしれない。やるせない気持ちになっていると、背後にいたダミアンが静かに告げた。

「あれは闇属性の生徒だ。忌み嫌われる属性だから、あのように虐めの対象になっている」
「闇属性だからって理由で?」
「そうだ。この学園は、そういう場所だ」

 ダミアンは、きっぱりと言い切る。振り返って表情を確認しても、何の感情も読み取れなかった。

「でも、僕は闇属性ですがクラスメイトから疎まれたことはありませんよ」

 ルーカスたちは、僕のことを普通のクラスメイトとして接してくれた。闇属性だから忌み嫌われるというのは、どうにも信じがたかった。

「貴様がクラスメイトに親しく接してもらっているのは、首輪で魔力を封じているからだろう」
「この首輪で?」

 咄嗟に首輪に触れる。たしかにこの首輪は魔力を制限する効果があるけど……。

「首輪で魔力を封じている限り、貴様が闇属性だと悟られることはない。だからごく普通の生徒として接してもらっているにすぎない」

 つまり、僕はこの首輪をつけているおかげで、ルーカスたちと親しくなれたというわけか。この忌々しい首輪も、知らぬところで役に立っていたようだ。

 だけど、いくら恩恵があろうと、首輪をつけられた状態を良しとするわけにはいかない。この先も、心を読まれたり行動を監視されたりするなんてごめんだ。

「それでも、僕は首輪を外してもらいたいです」

 ダミアンの瞳を見据えながら、自らの意思を伝える。
 首輪を外したら、僕が闇属性だということが周知の事実になる。そうなれば、これまでとは接し方を変える人もいるだろう。蔑まれたり、恐れられたり……。

 だけど、闇属性だって僕は僕だ。リオンだって、僕を信じてくれた。ルーカスたちとの関係も、そう簡単には揺るがないと信じたい。

 覚悟が伝わるようにじっと赤い瞳を見つめていると、ふいにダミアンはこちらに手を伸ばす。その手の行方を追っていると、僕の顎をそっと持ち上げた。

「ならば俺の犬になれ。俺の監視下で、善良な生徒であることを証明してみせろ」

 にやりと口元を歪めるダミアンを見上げながら、僕は頭をフル回転させる。
 ……俺の犬になれ? いやいやいや! 冗談じゃない! この男は、何を言い出すんだ!

「お断りします!」

 そんな要求はのめない。すぐさまダミアンの手を振り払って、ゴミ集積場から逃走した。
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