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2章
15.あくまで先輩後輩のお付き合いでお願いします
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終業の鐘が鳴ると、僕は重い足取りで綺石の館に向かった。
寮長が集う綺石の館に、新入生の僕が赴いている理由はただひとつ。ダミアンから寮長補佐という面倒な役職を押し付けられたからだ。
どうせ体のいい雑用係としてこき使いたいのだろう。その身勝手さに、呆れてしまった。
ちなみにリオンとは、昨夜の一件からギクシャクしている。同じ部屋にいても会話を交わすことはなく、学校に着いてからも別行動をしていた。
リオンとは、これまでほとんど喧嘩をすることがなかったから、関係に亀裂が入った時の修復方法が分からない。リオンがなぜ僕を押し倒したのかも、聞けるような雰囲気ではなかった。
なんだか、ダミアンと出会ってから、僕の人間関係は少しずつ歪になっているような気がする。
何度目か分からないため息をつきながら、綺石の館へと繋がる植物園を通り抜けていた。
館の前までやって来ると、一呼吸してから扉を叩く。
「失礼します」
すると、入出許可よりも先に「遅いっ」と叱責が飛んできた。
ダミアンの声だ。口調からもあまり機嫌がよくなさそうなことが伝わってくる。
恐る恐る扉を開けると、正面の椅子に座ったダミアンが、ギロリとこちらを睨みつけた。
「校舎から館に移動するのに、どれだけ時間をかけるつもりだ?」
「すいません。終礼が長引いて」
咄嗟に口から出まかせを言うと、ダミアンは眉間に深くシワを刻んだ。
「嘘をつくな。校舎から出た途端、亀のようにのろのろと歩いていたじゃないか」
「うっ……。まさか監視していたんですか? 趣味が悪い……」
この忌々しい首輪のせいで、僕が時間をかけて館に向かっていたことがバレてしまったようだ。
「貴様は要監視対象だからな。常に行動を見られていると思え」
「ああ、そうですか……」
学長の胸像を破壊しただけで大罪人扱いか。大体、あの胸像はリオンの光魔法でとっくに修繕したのだから、チャラにしてくれたっていいじゃないか。いつまでもグチグチ根に持っているなんて、しつこいったらありゃしない。
……なんて心の声も、全部筒抜けなんだろうなぁ。ダミアンの表情を見れば、僕の恨みつらみがダイレクトに伝わっていることが見て取れた。
「貴様を繋いでいるのは、胸像の件だけではないが……まあ、それはいいか。それよりも本題だ」
ダミアンに話の主導権を握られそうになったところで、スッと右手を上げる。
「本題に入る前に、ひとつよろしいですか?」
「なんだ?」
発言権を得たところで、意を決して伝えた。
「僕と寮長は、あくまで先輩後輩のお付き合いでお願いします。四六時中監視しているからって、僕に恋心を寄せるような真似はしないでくださいね」
寮長補佐に任命されたときは、寮長ルートに突入してしまったかと思ったが、よくよく考えれば現時点では寮長が僕に恋心を寄せているとは思えない。だから、フラグが立つ前に、こっちからへし折ってやることにした。ダミアンに執着されるなんてごめんだ。
身の安全を優先して申し出たものの、ダミアンからは残念なものを見るような眼差しを向けられた。
「貴様は馬鹿か? どれだけ自意識過剰なんだ?」
うぐ……。そう言われると、恥ずかしくなってきた。
別に自意識過剰ではない。僕はリオンと違って美しい容姿をしているわけではないし、素直で可愛らしい性格をしているわけでもない。魅力がないのは、自分でもよく分かっている。ただ、万が一に備えて予防線を張っておきたいだけだ。
「先日だって、その……色々あったじゃないですか。アレは催淫作用に苦しめられていたたけで、僕が寮長に気を許して触らせたわけじゃないですからね。それだけは勘違いしないでください」
あの日は、ダミアンに好き勝手弄ばれたけど、それはあくまで催淫作用のせいだ。僕の意思ではない。そこだけははっきりさせておきたかった。
先日の話を持ち出すと、ダミアンは決まりが悪そうに視線を逸らす。
「こっちだって、貴様の性処理に付き合ってやっただけだ。特別な感情なんて抱いていない」
「そうですよね。安心しました。それじゃあ、あの一件は水に流すということで」
「ああ、そうだな」
ダミアンは、視線を逸らしたまま頷いた。
意見が一致したところで、本題に移る。
「それで、寮長補佐って具体的に何をすればいいんですか?」
ダミアンは一度咳払いをしてから、机の端に置かれた書類を手に取る。
「取り急ぎやってもらいたいのは、来月に控えた魔法競技会の準備だ」
魔法競技会。その行事は知っている。
生徒たちが競技に出場して競う祭典で、もとの世界でいう体育祭のようなものだと記憶している。
「魔法競技会の準備を、僕が手伝うんですか?」
「ああ、前にも雑用係が欲しいと言っただろう?」
そういえば、前回もそんなことを呟いていたような気がする。
だけど、他の寮長にすら仕事に手出しをさせていなかったダミアンが、この僕に手伝いを依頼してきたのは意外だ。もしかしてダミアンは、案外僕のことを信用してくれているのか?
「うぬぼれるなよ。貴様の腹のうちは分かっている。悪だくみをしようものなら、実行に移す前に潰せるから、駒として使っているまでだ」
潰せるって……怖いことを言うもんだなぁ。
まあ、ダミアンの仕事をわざと引っ掻き回そうなんて考えは一切ないのだけれど。
「それで? 準備って何があるんですか?」
「まずは競技会に参加する生徒の勧誘を頼みたい」
ダミアンは一枚の書類を僕に差し出す。そこには、当日に行なう競技と参加者の名前が表になってまとめられていた。
競技は、剣技・狩猟・レースの三種目。現時点での参加者は、各競技で十名ほどだった。学内行事としては、この人数では少なすぎるだろう。
「みすぼらしいイベントを開催したら、当校の名が廃れる。参加者を増やすためにも、新入生を中心に声かけをしてほしい」
それくらいなら、僕にもできそうだ。書面から視線を上げて頷いた。
「分かりました。やってみます」
「頼んだぞ」
ダミアンは僅かに頬を緩めた。
こうして僕は、ダミアンの指揮のもと、魔法競技会の準備を手伝うことになった。
寮長が集う綺石の館に、新入生の僕が赴いている理由はただひとつ。ダミアンから寮長補佐という面倒な役職を押し付けられたからだ。
どうせ体のいい雑用係としてこき使いたいのだろう。その身勝手さに、呆れてしまった。
ちなみにリオンとは、昨夜の一件からギクシャクしている。同じ部屋にいても会話を交わすことはなく、学校に着いてからも別行動をしていた。
リオンとは、これまでほとんど喧嘩をすることがなかったから、関係に亀裂が入った時の修復方法が分からない。リオンがなぜ僕を押し倒したのかも、聞けるような雰囲気ではなかった。
なんだか、ダミアンと出会ってから、僕の人間関係は少しずつ歪になっているような気がする。
何度目か分からないため息をつきながら、綺石の館へと繋がる植物園を通り抜けていた。
館の前までやって来ると、一呼吸してから扉を叩く。
「失礼します」
すると、入出許可よりも先に「遅いっ」と叱責が飛んできた。
ダミアンの声だ。口調からもあまり機嫌がよくなさそうなことが伝わってくる。
恐る恐る扉を開けると、正面の椅子に座ったダミアンが、ギロリとこちらを睨みつけた。
「校舎から館に移動するのに、どれだけ時間をかけるつもりだ?」
「すいません。終礼が長引いて」
咄嗟に口から出まかせを言うと、ダミアンは眉間に深くシワを刻んだ。
「嘘をつくな。校舎から出た途端、亀のようにのろのろと歩いていたじゃないか」
「うっ……。まさか監視していたんですか? 趣味が悪い……」
この忌々しい首輪のせいで、僕が時間をかけて館に向かっていたことがバレてしまったようだ。
「貴様は要監視対象だからな。常に行動を見られていると思え」
「ああ、そうですか……」
学長の胸像を破壊しただけで大罪人扱いか。大体、あの胸像はリオンの光魔法でとっくに修繕したのだから、チャラにしてくれたっていいじゃないか。いつまでもグチグチ根に持っているなんて、しつこいったらありゃしない。
……なんて心の声も、全部筒抜けなんだろうなぁ。ダミアンの表情を見れば、僕の恨みつらみがダイレクトに伝わっていることが見て取れた。
「貴様を繋いでいるのは、胸像の件だけではないが……まあ、それはいいか。それよりも本題だ」
ダミアンに話の主導権を握られそうになったところで、スッと右手を上げる。
「本題に入る前に、ひとつよろしいですか?」
「なんだ?」
発言権を得たところで、意を決して伝えた。
「僕と寮長は、あくまで先輩後輩のお付き合いでお願いします。四六時中監視しているからって、僕に恋心を寄せるような真似はしないでくださいね」
寮長補佐に任命されたときは、寮長ルートに突入してしまったかと思ったが、よくよく考えれば現時点では寮長が僕に恋心を寄せているとは思えない。だから、フラグが立つ前に、こっちからへし折ってやることにした。ダミアンに執着されるなんてごめんだ。
身の安全を優先して申し出たものの、ダミアンからは残念なものを見るような眼差しを向けられた。
「貴様は馬鹿か? どれだけ自意識過剰なんだ?」
うぐ……。そう言われると、恥ずかしくなってきた。
別に自意識過剰ではない。僕はリオンと違って美しい容姿をしているわけではないし、素直で可愛らしい性格をしているわけでもない。魅力がないのは、自分でもよく分かっている。ただ、万が一に備えて予防線を張っておきたいだけだ。
「先日だって、その……色々あったじゃないですか。アレは催淫作用に苦しめられていたたけで、僕が寮長に気を許して触らせたわけじゃないですからね。それだけは勘違いしないでください」
あの日は、ダミアンに好き勝手弄ばれたけど、それはあくまで催淫作用のせいだ。僕の意思ではない。そこだけははっきりさせておきたかった。
先日の話を持ち出すと、ダミアンは決まりが悪そうに視線を逸らす。
「こっちだって、貴様の性処理に付き合ってやっただけだ。特別な感情なんて抱いていない」
「そうですよね。安心しました。それじゃあ、あの一件は水に流すということで」
「ああ、そうだな」
ダミアンは、視線を逸らしたまま頷いた。
意見が一致したところで、本題に移る。
「それで、寮長補佐って具体的に何をすればいいんですか?」
ダミアンは一度咳払いをしてから、机の端に置かれた書類を手に取る。
「取り急ぎやってもらいたいのは、来月に控えた魔法競技会の準備だ」
魔法競技会。その行事は知っている。
生徒たちが競技に出場して競う祭典で、もとの世界でいう体育祭のようなものだと記憶している。
「魔法競技会の準備を、僕が手伝うんですか?」
「ああ、前にも雑用係が欲しいと言っただろう?」
そういえば、前回もそんなことを呟いていたような気がする。
だけど、他の寮長にすら仕事に手出しをさせていなかったダミアンが、この僕に手伝いを依頼してきたのは意外だ。もしかしてダミアンは、案外僕のことを信用してくれているのか?
「うぬぼれるなよ。貴様の腹のうちは分かっている。悪だくみをしようものなら、実行に移す前に潰せるから、駒として使っているまでだ」
潰せるって……怖いことを言うもんだなぁ。
まあ、ダミアンの仕事をわざと引っ掻き回そうなんて考えは一切ないのだけれど。
「それで? 準備って何があるんですか?」
「まずは競技会に参加する生徒の勧誘を頼みたい」
ダミアンは一枚の書類を僕に差し出す。そこには、当日に行なう競技と参加者の名前が表になってまとめられていた。
競技は、剣技・狩猟・レースの三種目。現時点での参加者は、各競技で十名ほどだった。学内行事としては、この人数では少なすぎるだろう。
「みすぼらしいイベントを開催したら、当校の名が廃れる。参加者を増やすためにも、新入生を中心に声かけをしてほしい」
それくらいなら、僕にもできそうだ。書面から視線を上げて頷いた。
「分かりました。やってみます」
「頼んだぞ」
ダミアンは僅かに頬を緩めた。
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