歪んだ愛はお断りします ~断罪ルートを回避した悪役令息は、鬼畜寮長に囚われる~

南 コウ

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2章

16.なんだろう、このやる気のなさは

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 魔法競技会の存在は、転生者である僕も知っている。だけどゲーム内でそのイベントが発生するのは、ルーカスルートのみだった。

 剣術が得意なルーカスが競技会で華々しく活躍し、リオンから一目置かれるイベントだ。ルーカスの見せ場となるイベントだけど、他のルートでは競技会の名前すら出てこなかったと記憶している。ダミアンルートですら、関与していなかった。

 改めて考えてみると、原作のダミアンは、リオンとの恋愛イベントをこなしつつ、影では魔法競技会の準備を一人で進めていたということになる。なんというか、すごく器用な人だ。
 
 寮長から仕事を依頼された翌日、僕はさっそくクラスメイトに声をかけてみた。

「なあ、来月に魔法競技会が開催されるんだけど参加してみない? 剣技と狩猟とレースの種目があるんだけど」

 もはやいつメンとなりつつある攻略対象たちに声をかけると、ルーカスが真っ先に反応した。

「剣技だったら参加してもいいぞ。日頃の鍛錬の成果が発揮できる」
「ありがとう! この参加希望票に名前と参加種目を記載して提出して」
「了解!」

 ルーカスに参加希望票を渡したところで、クライドとフレッドにも視線を向ける。

「二人はどう? 参加したい種目はある?」

 希望を聞いてみたものの、二人とも渋い反応を示すばかり。

「残念だが、俺は参加できそうにないな」
「僕もパス」

 断られてしまった。なんだろう、このやる気のなさは……。
 魔法競技会って、元の世界でいう体育祭みたいなものだろ? もっと盛り上がっても良さそうだけど。

「リオンは……」

 そう言いかけたところで、リオンが隣にいないことを思い出した。教室内を見回すと、窓際でひとり読書をしていた。
 銀色の髪は、日の光に照らされてキラキラと輝いている。とても絵になる光景だけど、どこかもの寂しさを感じさせた。

「どうした? アレン」

 ルーカスに声をかけられたところで ハッと我に返る。みんなから注目されていることに気付き、慌てて笑顔を取り繕った。

「ううん、なんでもないよ。それより二人はどうして参加しないの? せっかくのイベントなんだから、みんなで参加した方が楽しいじゃん」

 不参加の理由を聞いてみると、クライドが小さくため息をつく。

「剣技も狩猟もレースも、俺が活躍できるとは思えない。無様な姿を晒したら、家の名に傷がつく」

 そんな大げさな……と苦笑いを浮かべてしまったが、フレッドも同意するように頷いていた

「魔法競技会には、来賓も来るからね。公の場で恥かきたくないでしょ、普通」

 なるほど。不得手な競技に参加して恥をかきたくないということか。その気持ちは理解できる。

「参加したい、したくないじゃなくて、できないってことか……」

 競技会の参加者が少ない理由が分かった気がした。参加者を増やすには、競技そのものを見直す必要がありそうだ。

 * * *

 その日は一年の全クラスを回って競技会の勧誘をしてみたが、大半の生徒が「参加できそうにない」と返事をしていた。結局、集められたのは両手で数えられるほどの人数だ。これでは、ダミアンが納得してくれるかは怪しい。
 どうしたものかと悩みながら廊下を歩いていると、階段の踊り場から話し声が聞こえてきた。

「もう少し上乗せしてもらえると、こちら側としても非常に助かるんだけどねぇ……」

 なんだ? 内緒話をしているようなトーンだけど……。
 階段の上からこっそり様子をうかがうと、苦渋の表情で腕組みをするダミアンがいた。その正面にいるのは、グランドワーズ魔法学校の学長だ。

 学長の顔は、胸像の一件が印象的だったからよく覚えている。丸みのある顔で、どこかタヌキのような雰囲気の男だった。
 笑顔を貼り付けた学長の前で、ダミアンが重々しく口を開く。

「分かりました。父に相談してみます」
「頼んだよ。競技会は年々縮小傾向にあるんだ。そろそろ立て直してもらわないと困る。そのためにも……ね」

 校長は笑顔を浮かべながら、ダミアンの肩を叩く。言い聞かせるようににこにこと頷くと、ゆっくりと階段を下って行った。

 あれは一体、何のやりとりだったんだろう? 瞬きを繰り返していると、顔を上げたダミアンがギロリと僕を睨みつけた。

「何を盗み聞きしている?」

 バレた……。気配を消していたつもりだったのに……。
 まあ、バレてしまっては仕方がない。決まりの悪さを感じながら、僕は踊り場まで下りた。

「学長と何の話をしていたんですか?」
「貴様には関係のないことだ」

 そうなんだけどさ、気になるじゃん。
 話の内容的に、魔法競技会のことのようだし。まさか何か不手際でもあったのか?

「違う。憶測で判断するな」
「す、すみません。じゃあ、何があったんですか?」

 ダメ元でもう一度尋ねると、ダミアンはため息をついてから明かした。

「寄付金の相談だ」
「寄付金?」

 思いがけない言葉が飛び出して、目を丸くする。僕の反応を見ながら、ダミアンはさぞかし面倒くさそうに顔をしかめた。

「競技会を開催するにあたって、ブラッドリー家からも寄付金を出したんだが、昨年よりも額が少なかったようだ。それで学長から直々に、増額の相談をしてきた」
「寄付金の増額って、学園側から申し出ることですか? しかも本人に直接言うなんて……」

 ちょっと図々し過ぎやしないか?

「それは、俺も同感だな」

 不信感を抱いていたところで、ダミアンはふっとおかしそうに笑った。また心の中を読まれたようだ。

「それで、どうするんですか?」
「一応、父に相談をしてみるつもりだ。とはいえ、父は無駄なものには投資はしない男だ。寄付金の額からして、競技会にさほど期待していないのだろう。増額の相談をしても、あまり良い結果は望めないが……」

 ダミアンの父といえば、ブラッドリー公爵家の現当主で、貿易業で莫大な財を成しているやり手の経営者だ。金に対しては、かなりシビアなのだろう。
 そんな人間を説得するのは、容易ではないだろう。ダミアンの口ぶりから、息子からのおねだりで即解決できるほど甘くはなさそうだ。

 お金持ちの家も、なんだか大変そうだな。
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