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2章
17.隠しキャラとの接触
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放課後。綺石の館に赴き、集めた参加希望票をダミアンに差し出した。
「新入生に聞き込みをしたところ、参加を希望してくれたのは八名でした。もともと参加希望を出してくれている生徒と合わせても、参加希望者は二十名にも届きませんね」
八枚の参加希望票を手にしたダミアンは、渋い表情を浮かべている。
「一日で八名も勧誘できたことは賞賛に値するが、まだ十分とは言い難いな。せめて昨年と同様に五十名は確保したい」
仮に五十名集めたとしても、全校生徒の五分の一だ。去年も一部の生徒しか参加していなかったことが窺える。
「実際に勧誘してみて分かったんですけど、みんな口をそろえて『参加できそうにない』と言うんですよね。いっそのこと、競技を見直してみてはどうでしょう? 体力のある生徒だけが参加するのではなく、全員が楽しんで参加できる競技を企画したら、参加者も増えるんじゃないですかね?」
「……また、面倒な提案をするものだな」
ダミアンは、あからさまに嫌そうな顔をする。たしかに新たな競技を企画するのは手間だけど、参加者を募るにはそれくらいのことをしないと難しいだろう。言い出したからには、僕だって協力するつもりだし。
「具体的に、どのような競技を追加するつもりだ?」
「それは…………まだ考えていないですけど」
視線を泳がせながら答えると、ダミアンは呆れたようにため息をついた。
仕方ないじゃないか。今さっき思いついて発言したことなんだから……。
「まあ、競技を見直すことも検討しよう。過去に開催された競技会の資料を漁って、参考になりそうなものを探してみるか」
「過去には、色々な競技があったんですか?」
「ああ、十年前は全員参加していたそうだからな。競技も様々な種類があり、寮対抗で競っていたそうだ。それなりに盛り上がるイベントだったと聞いている」
寮対抗と聞いて、僕は食いつく。
「寮対抗って面白そうじゃないですか! どうして縮小してしまったんですか?」
「競技会にうつつを抜かすよりも、学業を優先すべきという意見が上がったようだ」
なるほど。どこぞの石頭に茶々を入れられたというわけか。つまんないの。
「ふふっ、石頭は言い過ぎだろう」
ダミアンは、可笑しそうに吹き出す。心の中で毒づいても、ダミアンには筒抜けだったようだ。
「反対派もいるでしょうから全員参加は難しいでしょうが、競技を増やして寮対抗にすれば今よりも興味を持ってもらえるんじゃないですかね」
せっかくのイベントなんだし、みんなで盛り上がった方が楽しいに決まっている。できることなら、クライドやフレッド、そしてリオンにも楽しんでもらえるイベントにしたかった。
ダミアンは考え込むように顎に手を添える。
「他寮も巻き込むとなると、俺一人の権限では進められないな。全寮長のサインが入った嘆願書を学長に提出する必要がある」
「じゃあ、全寮長に話を付けるところから始めないといけないですね」
方向性を示すと、ダミアンは小さくため息をつきながら窓の外に視線を投げた。
「……まあ、難しいと思うがな」
* * *
他寮の寮長は、ゲーム内では隠しキャラとして扱われていた。五人の攻略対象のルートをすべてクリアしたのちに解放されるボーナスイベントで登場する。
前世の僕は、ボーナスイベントを楽しみにしていたのだけれど、見ることは叶わなかった。ダミアンルートをクリアした直後に事故に遭ってしまったからだ。
だから、他の寮長についてはほとんど情報がない。口コミでチラッとだけ『曲者揃い』と聞いただけだ。
とはいえ、ダミアン以上の曲者はいないだろう。お気楽に構えながら、昼休みにダミアンの代理で寮長のもとを訪ねてみた。
まず向かったのは、エメラルド寮のモール寮長のクラスだ。
左右対称にきっちりと分けた前髪に、フレームの細い眼鏡が特徴的だ。制服をかっちり着こなしていることからも、真面目で几帳面な性格であることが窺える。指には、寮長の証であるエメラルドの指輪が嵌められていた。
モールは、分厚い魔導書を読んでいる。話しかけにくいオーラを発していたが、ここで引き下がるわけにはいかない。意を決して机に近付いた。
「失礼します。僕、ガーネット寮のアレン・マクミランと言いますが……」
声をかけたものの、モールは魔導書に視線を落としたまま。聞こえていないのか、無視されているのかは、判断しがたい。
「あの! お話があるんですけど!」
大声で呼びかけるも反応なし。やっぱり無視されているのか?
困り果てていると、彼と同じクラスの男子生徒が近寄ってきた。
「悪いな、新入生。モール寮長は、一度集中すると声をかけても反応しないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。話がある時はこうするんだ」
男子生徒はモールの目の前で両手を広げると、パンッと勢いよく手を叩いた。大きな音が響くと、モールはようやく魔導書から視線を上げる。
「……何の用だ?」
「俺じゃなくて、この新入生が用があるんだってよ」
突如現れた僕を、モールは訝し気に見つめる。その圧に押されながらも、どうにか用件を伝えた。
「来月の魔法競技会の件で相談があるんですけど」
「魔法競技会? 行事の進行はガーネット寮に一任しているはずだが?」
「そうなんですが、今年は行事の規模を大きくするために、寮対抗で行おうと」
そう言いかけたところで、モールは再び魔導書に視線を落とした。
「くだらん。そのようなものにうつつを抜かして、学業に遅れが出たらどうするんだ?」
あっ、石頭を発見。十年前も彼のような考えを持つ生徒が、イベントを縮小させたんだろうなぁと想像してしまった。
「学業の遅れと言っても、たったの一日だけですよ? それくらいなら支障はないように思えますが」
説得を試みたが、モールは既に魔導書に夢中だ。話しかけても言葉が返ってくることはなかった。
立ち尽くしていると、先ほどの男子生徒にぽんっと肩を叩かれる。
「残念だったな。俺たちエメラルド寮は協力できそうにない」
交渉決裂だ。ガックリと肩を落としながら、彼らの教室を後にした。
続いて向かったのは、トパーズ寮のエイダン寮長のクラスだ。
癖のある金髪をハーフアップにまとめている。先ほどのモールと比べると、華やかな雰囲気の青年だ。
彼の机の周りには何人かの男子生徒が集まっている。その光景からもみんなから慕われていることが伝わってきた。
賑やかな輪の中に、思い切って突入する。
「あの、お話があるんですけど!」
声を張り上げて呼びかけると、机に集まっていた生徒たちがピタリとお喋りをやめる。一斉に視線を浴びて怖気づいていると、エイダンが人懐っこい笑顔を浮かべた。
「ああ、君のことは知っているよ。ダミアン寮長のワンちゃんだ」
「わん……ちゃん?」
まさかそんな呼ばれ方をしているとは思わなかった。ぎこちなく笑っていると、エイダンは椅子から立ち上がり、馴れ馴れしく僕の肩に手を回した。
「こんな趣味の悪い首輪を付けられて可哀そうに。たかが学長の胸像を壊したくらいで大袈裟だよね。俺なんてその話を聞いた時、しばらく笑い転げていたくらいだよ」
胸像を破壊した件も知られていたようだ。同じ寮長でも、反応はこうも違うのか。
「それで、話って?」
「えっと、魔法競技会の件なんですけど、今年は寮対抗で行おうと思いまして」
「え、だっる」
エイダンは、すんっと笑顔を消して、僕の肩から腕を解く。周りにいた生徒たちからも「ないない」「反対~」とせせら笑いを浮かべていた。
「その方が、盛り上がると思うんですけど……」
「盛り上がるとかどうでもいいから。つーか、ダミアン寮長と関わるのが無理」
随分な嫌われようだな。まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるけど。
「それに、トパーズ寮はお気楽に楽しくがモットなの。卒業したら、嫌でも身を固めないといけないんだから、学園にいる間くらいはのびのびと過ごしたいじゃん」
エイダンの発言に、周囲にいた男子生徒達も「そうそう」「さすがエイダン」と同調していた。
ノリが軽いなぁ……。寮によってもカラーがあるみたいだ。
「だから行事には参加できない。ごめんね、ワンちゃん」
エイダンは、ウィンクをするとヒラヒラと手を振った。
またしても交渉決裂だ。僕は深々とため息をついた。
残すはサファイア寮のシリル寮長のもとだけど……それはまた明日にしよう。
「新入生に聞き込みをしたところ、参加を希望してくれたのは八名でした。もともと参加希望を出してくれている生徒と合わせても、参加希望者は二十名にも届きませんね」
八枚の参加希望票を手にしたダミアンは、渋い表情を浮かべている。
「一日で八名も勧誘できたことは賞賛に値するが、まだ十分とは言い難いな。せめて昨年と同様に五十名は確保したい」
仮に五十名集めたとしても、全校生徒の五分の一だ。去年も一部の生徒しか参加していなかったことが窺える。
「実際に勧誘してみて分かったんですけど、みんな口をそろえて『参加できそうにない』と言うんですよね。いっそのこと、競技を見直してみてはどうでしょう? 体力のある生徒だけが参加するのではなく、全員が楽しんで参加できる競技を企画したら、参加者も増えるんじゃないですかね?」
「……また、面倒な提案をするものだな」
ダミアンは、あからさまに嫌そうな顔をする。たしかに新たな競技を企画するのは手間だけど、参加者を募るにはそれくらいのことをしないと難しいだろう。言い出したからには、僕だって協力するつもりだし。
「具体的に、どのような競技を追加するつもりだ?」
「それは…………まだ考えていないですけど」
視線を泳がせながら答えると、ダミアンは呆れたようにため息をついた。
仕方ないじゃないか。今さっき思いついて発言したことなんだから……。
「まあ、競技を見直すことも検討しよう。過去に開催された競技会の資料を漁って、参考になりそうなものを探してみるか」
「過去には、色々な競技があったんですか?」
「ああ、十年前は全員参加していたそうだからな。競技も様々な種類があり、寮対抗で競っていたそうだ。それなりに盛り上がるイベントだったと聞いている」
寮対抗と聞いて、僕は食いつく。
「寮対抗って面白そうじゃないですか! どうして縮小してしまったんですか?」
「競技会にうつつを抜かすよりも、学業を優先すべきという意見が上がったようだ」
なるほど。どこぞの石頭に茶々を入れられたというわけか。つまんないの。
「ふふっ、石頭は言い過ぎだろう」
ダミアンは、可笑しそうに吹き出す。心の中で毒づいても、ダミアンには筒抜けだったようだ。
「反対派もいるでしょうから全員参加は難しいでしょうが、競技を増やして寮対抗にすれば今よりも興味を持ってもらえるんじゃないですかね」
せっかくのイベントなんだし、みんなで盛り上がった方が楽しいに決まっている。できることなら、クライドやフレッド、そしてリオンにも楽しんでもらえるイベントにしたかった。
ダミアンは考え込むように顎に手を添える。
「他寮も巻き込むとなると、俺一人の権限では進められないな。全寮長のサインが入った嘆願書を学長に提出する必要がある」
「じゃあ、全寮長に話を付けるところから始めないといけないですね」
方向性を示すと、ダミアンは小さくため息をつきながら窓の外に視線を投げた。
「……まあ、難しいと思うがな」
* * *
他寮の寮長は、ゲーム内では隠しキャラとして扱われていた。五人の攻略対象のルートをすべてクリアしたのちに解放されるボーナスイベントで登場する。
前世の僕は、ボーナスイベントを楽しみにしていたのだけれど、見ることは叶わなかった。ダミアンルートをクリアした直後に事故に遭ってしまったからだ。
だから、他の寮長についてはほとんど情報がない。口コミでチラッとだけ『曲者揃い』と聞いただけだ。
とはいえ、ダミアン以上の曲者はいないだろう。お気楽に構えながら、昼休みにダミアンの代理で寮長のもとを訪ねてみた。
まず向かったのは、エメラルド寮のモール寮長のクラスだ。
左右対称にきっちりと分けた前髪に、フレームの細い眼鏡が特徴的だ。制服をかっちり着こなしていることからも、真面目で几帳面な性格であることが窺える。指には、寮長の証であるエメラルドの指輪が嵌められていた。
モールは、分厚い魔導書を読んでいる。話しかけにくいオーラを発していたが、ここで引き下がるわけにはいかない。意を決して机に近付いた。
「失礼します。僕、ガーネット寮のアレン・マクミランと言いますが……」
声をかけたものの、モールは魔導書に視線を落としたまま。聞こえていないのか、無視されているのかは、判断しがたい。
「あの! お話があるんですけど!」
大声で呼びかけるも反応なし。やっぱり無視されているのか?
困り果てていると、彼と同じクラスの男子生徒が近寄ってきた。
「悪いな、新入生。モール寮長は、一度集中すると声をかけても反応しないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。話がある時はこうするんだ」
男子生徒はモールの目の前で両手を広げると、パンッと勢いよく手を叩いた。大きな音が響くと、モールはようやく魔導書から視線を上げる。
「……何の用だ?」
「俺じゃなくて、この新入生が用があるんだってよ」
突如現れた僕を、モールは訝し気に見つめる。その圧に押されながらも、どうにか用件を伝えた。
「来月の魔法競技会の件で相談があるんですけど」
「魔法競技会? 行事の進行はガーネット寮に一任しているはずだが?」
「そうなんですが、今年は行事の規模を大きくするために、寮対抗で行おうと」
そう言いかけたところで、モールは再び魔導書に視線を落とした。
「くだらん。そのようなものにうつつを抜かして、学業に遅れが出たらどうするんだ?」
あっ、石頭を発見。十年前も彼のような考えを持つ生徒が、イベントを縮小させたんだろうなぁと想像してしまった。
「学業の遅れと言っても、たったの一日だけですよ? それくらいなら支障はないように思えますが」
説得を試みたが、モールは既に魔導書に夢中だ。話しかけても言葉が返ってくることはなかった。
立ち尽くしていると、先ほどの男子生徒にぽんっと肩を叩かれる。
「残念だったな。俺たちエメラルド寮は協力できそうにない」
交渉決裂だ。ガックリと肩を落としながら、彼らの教室を後にした。
続いて向かったのは、トパーズ寮のエイダン寮長のクラスだ。
癖のある金髪をハーフアップにまとめている。先ほどのモールと比べると、華やかな雰囲気の青年だ。
彼の机の周りには何人かの男子生徒が集まっている。その光景からもみんなから慕われていることが伝わってきた。
賑やかな輪の中に、思い切って突入する。
「あの、お話があるんですけど!」
声を張り上げて呼びかけると、机に集まっていた生徒たちがピタリとお喋りをやめる。一斉に視線を浴びて怖気づいていると、エイダンが人懐っこい笑顔を浮かべた。
「ああ、君のことは知っているよ。ダミアン寮長のワンちゃんだ」
「わん……ちゃん?」
まさかそんな呼ばれ方をしているとは思わなかった。ぎこちなく笑っていると、エイダンは椅子から立ち上がり、馴れ馴れしく僕の肩に手を回した。
「こんな趣味の悪い首輪を付けられて可哀そうに。たかが学長の胸像を壊したくらいで大袈裟だよね。俺なんてその話を聞いた時、しばらく笑い転げていたくらいだよ」
胸像を破壊した件も知られていたようだ。同じ寮長でも、反応はこうも違うのか。
「それで、話って?」
「えっと、魔法競技会の件なんですけど、今年は寮対抗で行おうと思いまして」
「え、だっる」
エイダンは、すんっと笑顔を消して、僕の肩から腕を解く。周りにいた生徒たちからも「ないない」「反対~」とせせら笑いを浮かべていた。
「その方が、盛り上がると思うんですけど……」
「盛り上がるとかどうでもいいから。つーか、ダミアン寮長と関わるのが無理」
随分な嫌われようだな。まあ、そう言いたくなる気持ちも分かるけど。
「それに、トパーズ寮はお気楽に楽しくがモットなの。卒業したら、嫌でも身を固めないといけないんだから、学園にいる間くらいはのびのびと過ごしたいじゃん」
エイダンの発言に、周囲にいた男子生徒達も「そうそう」「さすがエイダン」と同調していた。
ノリが軽いなぁ……。寮によってもカラーがあるみたいだ。
「だから行事には参加できない。ごめんね、ワンちゃん」
エイダンは、ウィンクをするとヒラヒラと手を振った。
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